Begin The Night 4

2011/07/24up

 

 フェルトに貰った情報に甘えて、ライルは刹那の部屋を訪れた。
「どうした。何か問題でもあったか?」
 ドアを開けて開口一番、色気のないことを言う最愛の彼女に、ライルは溜息を堪えられなかった。
「問題はないけど、話がある。っていうか、頼み?」
「……入れ」
 ライルの言葉に、刹那は体をずらして部屋の中にライルを招きいれた。
 プトレマイオスの中の彼女の部屋は、以前の彼女の家とは別人のもののようだった。
 何もない。
 それが第一の感想だ。
 ライル自身も大して私物は持ち込んでいないが、それでも異常なまでに私物がない。
 ユニオンにあった彼女と子供の家は、温かい雰囲気の家具で満たされ、どこにでもあるような家庭の雰囲気だった。
 あまりの違いに、毎度肩をすくめてしまう。
 あれは子供の為のものだったのだと、理解してしまったのだ。
 愛情の強い母親に、感服してしまう。
「……で、何だ」
 早速用件を問うてくる彼女に、ライルは近寄り、唇に指を当てた。
「その前に、愛情補給」
 自分達以外誰もいない場所で、有無を言わさず唇を奪った。
 刹那も誰もいない空間でソランに戻り、ライルの愛情を素直に受け取る。
 今はまだ、ライルが訓練途中なので、殆ど二人の時間が取れないが故に、宇宙に上がる前に強引に押したセックスが最後だった。
 当然ライルにも欲求はあったが、それでも時間が許してはくれなかった。
 ちゅっちゅと軽く唇を合わせて、少しだけ舌を絡め、ソランの味を補給する。
 一頻りお互いを堪能した後、ライルはラストにソランの頬に小さくキスを落として、体を離す。
「で、頼みなんだけどさ」
「なんだ」
 先程まで唇を合わせていたと言うのに、もう平静の声で応答するソランに、本格的に彼女の精神状態に余裕がないことを悟る。
 当然、理由は理解する。
 フェルトに言われるまでもなく、必要以上に彼女の口から愛娘の名前が出なかったことに、ライルは心中を察していた。
 得にライルは、クルーが知らない、彼女が娘のために用意した温かい家庭を知っている。
 あれを捨てる勇気と、それでも子供を連れて行ったという事実に、手放せなかった心を理解していた。
 だから今、愛娘がいない状態のソランが、不安定でも当たり前だと思えるのだ。
 そして、時間が無いにしても、ライルとの接触が異常に少ない事。
 そちらは当然最初から解っていた事だったので、取りあえず、クルーが気がついている範囲の不安を取り除こうと思考をめぐらせた。
 部屋つきの端末には、ダブルオーのシステムが構築されていた。
 もう、就寝時間は過ぎているのに。
 眠れないのかと、部屋の様子で理解する。
「ニーナ、ここの育児機関って所にいるんだって?」
「……誰に聞いた」
「フェルト」
 問いを重ねて、種明かしをすれば、ソランは少し眉を寄せた。
 勝手に端末の前の椅子に座って、ダブルオーのシステムに視線を走らせながら、ライルは自分たちの繋がりを強調する。
「俺もあの子に会いたい。でも親の承諾がないと、同じ組織内でも繋いで貰えないだろ? 画面越しでも、会いたいんだよ。だからマムの了承をお願いしに来た」
「ああ……それか」
 素っ気無い言葉とは裏腹に、ソランの視線は揺れていた。
 何か不安を抱えている。
 些細なサインだが、当然ライルには悟る事が出来る。
 このささやか過ぎるサインに、何度泣かされた事か。
「……俺、連絡するのまずいか?」
「まずくは無いと思うが……」
 珍しく歯切れの悪いソランの言葉に、ライルはじっと続きを待った。
 暫くの沈黙の後、ソランは溜息をついて、揺れ動いている心を打ち明けてくれた。
「あの時、二人であの場所を離れたのは、お前を守ろうと、二人で決めたからだ。なのに俺は、お前を戦場に送り出そうとしている。ニーナがどう思うのか、怖いんだ」
「……なるほどね」
 ライルをなるべく生死をかける場所から遠ざけようとしていたのに、結局一番安全だと思われるのは、激戦が予想される最前線だ。
 確かに、ニーナは納得しないかもしれない。
 それゆえに、ソランが悩んでいるのだと理解した。
 だが、二人から離れた後、ライルはカタロンで危険な身の上を自ら志願してしまった。
 選択の余地は、ない。
 大人として考えれば、ソランの取った行動は理にかなったものだが、子供がそれを理解するかはわからない。
 言われた言葉に、ライルも顎に手を当てて、ふむと考えてしまう。
 ソランの気持ちと、ニーナの気持ちの両方を落ち着かせる方法は、今のところ、ライルの存在をニーナに隠すしかないのかもしれない。
 それでも可愛い子供と会えないのは、ライルも辛い。
 暫く考えて出た結論は、通信は実際に会えるまではつながないと言う事だった。
 ライルが我慢する時間を、今度はソランに問うた。
「なあ、次に育児機関が置かれているドッグに立ち寄るのは、いつだ?」
 実際に会って、そしてライルは彼女に自分の意思を伝えようと思った。
「次は……予定では、一ヵ月後に向かう事になっている」
「ん、そっか。なら俺は、その時お前と一緒に、会いに行く。それで俺からキチンと説明する」
 ライルの言葉に、ソランの顔がふっと緩んだ。
 ずっとこの事を考えていたのだろう。
 最初のプロポーズの言葉を、スッパリと忘れ去っているような彼女に、少々哀愁を感じてしまう。
 それでもコレがソランなのだ。
 自ら人に頼る事を知らない。
 人に甘える術を知らないのだ。
 緩んだ頬を、手袋に覆われるようになった手で包み、額を合わせた。
「あーもう、やっぱりあの時、遠慮なんかするんじゃなかったな」
「……あの時?」
「ほら、最初にプロポーズした時の事。お前と家族になって、ニーナともちゃんとした親子になりたいって言っただろ。お前にも心積もりが必要だと思ったからあの場で答え貰わなかったけど、無理やりにでも二人を連れ去っちまえばよかった。そうしたら今、お前をこんな事で悩ませなくて済んだのにさ」
 一度軍に目を付けられれば、逃げるすべは無い。
 それはカタロンで重々身に沁みていた。
 だからあの時のソランの行動を、今は詰れない。
 ただ、一時でも一緒に逃げて、三人で方向性を決めて動いていれば、また状況は変わっただろう。
 カタロンには所属しなかったかもしれない。
 だがソランを考えれば、遅かれ早かれココには来る事になっていただろう。
 彼女が望むものを掴むために。
 それにライルは従っただろう。
 一般の生活の楽しさは、当然慣れた求めるものだ。
 突然出した退職願に、職場は騒然となった。
 何が不満なのか。
 待遇を考え直すから。
 そんな有り難い言葉を上司から貰い、更に同僚からも引き止められ、それでも諦められない夢のチャンスを掴んだのだと、全員に頭を下げた。
 身勝手な自分を許してくれと。
 そんなライルを、結局会社は送り出してくれた。
 当然、隠れて行っていた活動はばれていなかった。
 大急ぎで引継ぎをして、大口、小口に至るまで挨拶に回り、軌道エレベーターに乗る直前まで、仕事仲間がお別れ会を開いてくれて、名残惜しんでくれた。
 気のいい仲間に、気の良い上司。
 トップの考えには従うが、それでも末端の社員達が軍事路線を喜んでいたかといえば、それは違う。
 ライルの前にも、辞めて行った社員は多かった。
 根源を考えてしまい、その恐ろしさにココには勤められないと。
 そんな仲間が出る度に、同僚全員で、彼らの退職理由を考えた。
 下手に反政府思想だと思われては、この先危ない。
 そういう意識が会社に蔓延するほど、ライルの会社は軍事路線にどっぷり嵌っていた。
 そして軍事路線に逆らった末路を、取引先の企業や初期に退職願を出した社員達で、いやと言うほど見て来ていた。
 他の小売業の会社に移りたいだけの仲間が、そんな疑惑をかけられて、人生を台無しにされては嫌なのだ。
 練った策は、各国のトップレベルの大学を卒業しなければ受け入れて貰えない会社ゆえに、今まで失敗したことは無い。
 辞めた後、彼らからの無事の報告と、更に今の仕事の楽しさに対する礼を、部署全員で受け止めていた。
 そしてライルも、同じようにしてもらった。
 ただ、他の同僚の辞める理由の大元の策を練っていたのはライルだったので、退社後、その文面を皆で酒を飲みながら検討しただけで終わったが。
 今は無くなってしまった、ソランがいた会社との取引の時に取得した、宇宙工一種の免許で、宇宙に上がりたいと、その仕事につきたいと望んだライルの望みは、そうして叶えられた。
 それが本当の理由だとは、おそらく同僚の誰もが思っていない。
 その免許で出来る仕事など、今までの仕事に比べれば考えられない程の限られた下っ端であるし、他の理由がある事など、頭の回転の速い同僚たちは理解していた。
 だから、朝まで続いた壮行会の最後に、ライルは社内で一番仲の良かった同僚から耳打ちされた。

 彼女を、捕まえて来いよ。

 ライルの女性関係は、会社の意向も合わせて有名で、故にライルが真に望んだものがそこにあるのだと、誰もがわかっていた。
 口には出せなくとも、彼女が反政府勢力に居るのだと言う事も。
 軍の研究を拒否した彼女が行く場所など、その位だとわかっていて、故に皆がこの先のライルの身の安全を祈り、そして幸せを望んでくれた。
 式を挙げるときには、また皆で相談しよう。
 邪魔されないように、ひっそりと皆で祝わせてくれと。
 そんな言葉も付け加えてくれて、うっかりライルは感動に瞳を揺らした。
 いい同僚に囲まれて、ココに彼女達が居ない事が、心から残念だった。

 ソランとは再会できたが、それでもこの一年、お互いに負った心の傷は隠しようも無い。
 ソランが消えてから、何度も悔いた甘い自分の考えと言葉が、再びライルの頭の中を駆け巡った。
 これからは絶対に、ソランを守る。
 身体的と言うことではなく、精神的に。
 再び三人で笑える日を、ライルは心に誓ったのだ。




「さて、就寝時間は過ぎてるけど、このシステムは緊急なのか?」
 画面を指差してライルが問えば、ソランはやはり小さく動揺した。
 つまりは、最初にライルが見たとおり、眠れないのだという事で。
 ついでにもう一つの彼女の不安を取り除く為に、ライルはソランから端末に視線を戻す。
 ライルも今日のスケジュールは終わっていたので、ソランの端末のデータを勝手に保存して、電源を切った。
「何をする」
「何って、お前を眠らせるの。まだ若いからって舐めてると、年取った時に肌を後悔するぜ」
 再会した時よりも少し痩せて、頬の色艶が落ちてきている事を指摘し、ベッドに腰掛けた。
 そのままライルは自分の制服を脱ぎ捨てて、上掛けの中にもぐりこむ。
「……何故俺のベッドにもぐりこむ」
「何でそんな事言われんの、俺」
 恋人だろうと問い、更に前の、お互いの家に泊まりあっていた頃の状態を突きつければ、ソランは再び視線を揺らせた。
「こんな狭いベッドでは、無理だろう」
「いや、全然問題ない。寧ろ自然に密着できて、俺にはラッキー」
 だから、と、ベッドの中から腕を広げて呼べば、ソランは小さく溜息を零して、それでも制服を脱ぎ捨てた。
 ライルの体の隣りに潜り込んで、自然とその腕に体を摺り寄せる。
「久しぶりだな、この感覚」
 ソランの黒髪に顔を埋めて、ライルは彼女の香りに酔った。
 愛しいと、心の底から思う。
 それでも言うべき事はキチンと伝えた。
「ニーナの事、これからはちゃんと相談してくれよ。あの子の事だけじゃなくて、他にも辛かったらちゃんと言ってくれ。じゃないと、俺はココに来た意味が半分くらいは無くなっちまう」
 お前の為のこの場の存在だと、ライルがソランに囁けば、ソランは殊更ライルに体を密着させた。
「お前は……なんでこんな俺が良いと思えるんだ」
「ん? どういう意味?」
 愛の言葉など、今まで散々伝えてきたと言うのに、今更な質問に首を傾げてしまう。
 そんなライルに、ソランはライルの胸元に頭を擦りつけながら、本心を吐露した。
「お前を危険なこの場所に連れてきて、今までの積み上げてきた社会実績を捨てさせて、その上子持ちだ。もっと他にいい人が沢山いるだろう」
 ソランはライルがもてる事を知っている。
 以前の会社の同僚にも、散々羨ましがられた。
 格好良くて、子供も可愛がってくれて、一流企業の出世株なんて、羨ましい。
 そんな賛辞が当たり前で、更にライルの会社の近くで待ち合わせた時、彼が他の女性社員から誘いをかけられていた場面を見てしまっている。
 ライルは笑ってかわして、ソランが立っている場所に走ってきた。
 残された彼女から送られた視線の鋭さの意味など、当然理解している。
 色恋沙汰には敏くなくとも、ソランとて結婚を経験し、出産をして、成人しているのだ。そのくらいは理解できた。
 ライルの元の会社は、世界展開しているような大手の一流商社だった。
 故に、中にいる人達も一流で、女性は才色兼備が当たり前だったのだ。
 なのに、ライルが選んだのは社内の美女達ではなく、ソランだ。
 ライルの兄と結婚を経験して、彼の子供を産み、更に彼への思いさえ捨てられない。
 そして思想も捨てられない。
 一般の穏やかな生活に、自分の身を収め切れなかった。
 どう考えても、ソランにはライルに自分が相応しいとは思えないのだ。
 それでも、そんなソランの為に、ライルは道を踏み外した。
 今では彼の思いを受け取ってしまった事を悔やんでいる。

 大切にしたかった。
 彼の生活を守りたかった。
 ニールの言葉に沿いたかった。
 ライルを危険な目に等、合わせたくなかったのだ。
 ライルが無事に、穏やかな生活を営めるのなら、この居心地のいい腕の中を諦める事など、容易いと思った。
 なのに結局こういう道を辿り、そしてソランはライルの腕の中の温かさから離れられない。
 実質問題、ガンダムマイスターの欠員はあるが、他の候補生から選ぶと言う選択肢もあった。
 だがソランは、やはり思想を捨てられない。
 自分が知る限りでは、一番秀でている戦闘技術と頭脳を持っているライルに、白羽の矢を立てたのだ。
 どうせ身柄を確保するのなら、そしてライルが戦いたいと言うのなら。
 近くに、自分の側に居てもらい、共に思想を追いかけようと。
 ライルの身柄を、全力で守ろうと。
 ニールの時の二の舞は踏まないと。
 カタロンよりも、CBの方が武装組織として確立されているし、世界が追いかけてくるような最先端の技術を身に纏って戦場に立つ方が、絶対的に安全だと思った。
 だが、どんな理由を並べ立てても、結局ソランの道にライルを引き摺り込み、そしてソランはライルを手放せない。
 自分の罪深さに、絶望する。
 愛した男すら利用する自分が、嫌になる。

 そんな思いで呟いた言葉に、思いもよらない痛みが頬に返って来た。
 思わずソランは目を瞑ってしまう。
「何馬鹿な事言ってるんだ、この口は」
 むに、などと言う可愛い表現ではなく、まさに頬を抓られたのだ。
 グニグニと、久しぶりの素の指で頬の肉を弄ばれて、最後にパチンと音がなるほど、両方一編に叩かれた。
「俺はお前が良いって、ずっと言ってるだろ。それになんだ、その自分を卑下するような言葉は。お前は俺が心底惚れた女なんだよ。おまえ自身でも、俺の惚れた女の悪口なんか許さない」
 言葉を言い終えた後、ライルはもう一度ソランをきつく抱きしめた。
 愛しさを隠しもせずに、以前と変わらずに、刹那をソランに戻してくれる。
 戦士でも母親でもなく、ただの女として扱ってくれるのだ。
「俺はお前の全てに惚れてるの。お前のその危ない思想も、子供の事が可愛くて仕方がない普通の母親な所も……」
 一旦言葉を切って、息がつまるほどに体を密着させた。
「……兄さんが忘れられなくて、一途で、この場所で俺に抱かれるのが怖いって感じているところもな」
「ら……いる」
 全てを見抜かれて、ソランは目を見開いた。
 ライルとニールを同一視して愛したわけではない。
 それでも以前のプトレマイオスと変わらない内装の中で、ライルに抱かれた時、何を思うのかが怖かったのも確かなのだ。
 ニーナの気持ちも当然気になっていた。
 だがそれ以上に気になっていたのは、プトレマイオスの中でのライルだった。
 背中を見るたびに、当然ソランはライルだと認識する。
 だが、体を重ねた時はどうなるのか。
 同じ顔で、同じ声。
 制服と言う以前と違う格好だからこそ、認識しているだけではないのかと、不安だった。
 ライルを見失うかもしれない瞬間が、怖かったのだ。
 言葉につまったソランに、ライルは笑いながら黒髪に唇を落とした。
「俺だって、お前より頭は悪いけど、ずっとお前の事思い続けているんだ。このくらいは理解してる。同じ顔で、同じ声帯の俺達を、混同したらイヤだって、お前なら考えそうだって、軌道エレベーターの中で考えてたよ。兄さんとの思い出の場所で、今までと同じように俺の事を愛せるのか、不安を感じるだろうなって。案の定、お前は俺を怖がってる。……いや、正確には『俺が俺に見えなくなるかもしれない瞬間』ってところか?」
 考えていた事を全て言葉にされて、ソランは思わず小さく笑ってしまった。
 自分は愛されていると、愛される資格があるかないかは置いておいても、彼の心の中に居させて貰えるのだと、感謝してしまう。
「お前は、エスパーか?」
「んー、そうかも。ソラン限定だけど。しかも能力に目覚めたのも、極最近だったりして」
 視線を絡めて、ふざけて馬鹿げた事を告げれば、ソランは少し悲しそうに、それでもライルに微笑んだ。
「最近と言うことは、あの体力増強のティエリアのスパルタのお陰か? なら俺も、お前の心が読めるように、ティエリアに鍛えなおして貰おうか」
「いや、お前はこれ以上はヤメテ。普通の女でいてください」
 ただでさえ、過酷な状況を乗り越えられるだけの体力が元々あるのだ。
 これ以上差をつけられてはたまらない。
 ライルが望めば、ソランは更におかしそうに笑った。
 その笑顔に、ライルは唇を寄せる。
 この場所で初めて寛いだ雰囲気を出したソランに、思いの丈をぶつけた。
 深く唇を合わせて、寝具の中で体温を与え合う。
 時間をかけて、じっくりとソランを溶かし、ソランからライルを求めて舌を伸ばしてきた頃、ライルは魅惑的な体に乗り上げた。
「お前が間違えそうになったら、目の前で手を振って「ライル君です」って主張してやるよ」
 情事の最中にはありえないだろう遣り取りに、ソランはまた笑う。
「ああ、頼む。お前が俺のライルだと、教えてくれ」
 死んだ夫ではなく、今の自分を愛してくれている、最愛の人だと。
 そう言葉にすれば、ライルも緩やかに微笑んだ。
「愛してる」
「ああ、俺もライルを愛している」
 二人で気持ちを言葉にして、もう一度唇を重ねた。





next


やっと二人っきりです。
せっさんは実は怯えてました、という事です。
兄さんはやっぱり忘れられないし、でも今はちゃんとライルが好きだし、だから間違えて嫌われたらどうしよう、みたいな乙女さん。
でもこのシリーズのライルなので、全部お見通し。こういうところはお馬鹿ちゃんねぇ可愛いわぁと、温かく見守ってました。でも禁欲限界ww
と言うことで、次回はエロです。(←身も蓋も無い)
あ、ちなみに文中の「最初のプロポーズ」っていうのは本に書いてある部分の事です。