夜半も過ぎたと言うのに賑わい続ける町並みを足早に進みつつ、携帯電話の短縮ダイヤルを手早く押す。
流れてきた音声は当然の様に恋人の愛しい声では無く、録音された女性の声で。
『留守番電話サービスセンターに接続致します……』
よく考えてみれば、電源を入れている訳が無い。
当然俺がかける事は想定しているだろうし、あのときの啓太はどう見ても本気だったのだから。
「みっともないよな」
それでも。
自分の姿がわかっていても、あきらめられる訳が無いんだ。
行き先は、寮と自宅以外だという事しかわからない。
啓太と別れた時間からは、既に実家に向かう電車は終電を迎えている。
寮には外泊届けを出した後だし、既に橋は上がっていて入る事は出来ない。
ホテルに泊まっている可能性は、多分無い。
「と、言う事は……」
二人の思いでの場所にいる可能性が高い、と言う事。
啓太が一人で移動出来る範囲の、二人が辿った道をただひたすらに歩く。
お気に入りのショップのある通り、公園、海沿いの遊歩道。
どこもイヴを楽しむカップルで溢れ返っていて、一人で何かを探している様子の俺を、興味本位で眺めている。
(こんな時は、ホントにカップルってむかつくもんだな)
自分だっていつもは二人で歩いていたその道の、他の恋人同士に心の中で悪態をつく。
そんな自分が愉快で、少し心が軽くなった。
「……探す方向、間違ってるのかな」
どこまで行っても、啓太の姿は見当たらない。
探し始めて既に2時間が経過していた。
吐く息は、明け方に近くなって白さを増し、ずっと動いている所為でコートの下は汗だくになっている。その割に冷たさを感じる足先が、俺の不安をかき立てた。
遊歩道の終わりにさしかかった時、湾の対岸のライトが一つ、また一つと消えていくのが見えた。
『ここもさ、クリスマスの12時のカウントダウンして、明け方までライトアップさせるんだって』
不意に、啓太がそんな事を言っていた場所を思い出す。
「……あそこか?」
そこは、噴水が中央に配置されている駅前広場で、12月に入ってすぐに大きなツリーが立てられていた。
ライトアップするのはそのツリーで。
通りかかっただけだったが、もしかしたら……
考えるよりも早く、気がつけば俺は走り出していた。
俺にそれを伝えたという事は、きっと啓太は見たかったに違いない。
二人で。
イベント事に執心するタイプではなくとも、きっとその飾られたツリーが見たかったのだと思う。
「……ちっ」
気ばかりが焦って、足が思う様に進まない。
(昨日も徹夜してるし……そろそろ体力が限界か)
悲嘆に暮れ始めた俺の背後から、運良く空車のタクシーがくるのが見えた。
(ラッキー!)
啓太の運が、少しは俺にも来た様に思えた。
その日の駅前は通行止めになっていて、入れる所までで車を止め、少し回復した体力の全てを注ぎ込んで広場に駆け込んだ。
そこは既に閑散としていて、まさに『夢の後』といった風情が漂っていた。
点灯予定時間もとっくに過ぎている様で、只の黒い影となったツリーが、さらにその寂しさに拍車をかけている。
息を切らしながら人影を求めて見渡すが、啓太らしい姿どころか、人影すら見当たらない。
(……ここも、違ったのか?)
思いつく範囲は、全て回った。
今日のこの日にホテルが予約なしで泊まれるとは思えず、必死に外を回っていたが、あの啓太だ。
(……もう、駄目かな)
不安に潰されそうになった時、ツリーの下に立っていた俺の反対側が動く気配がした。
あきらめ半分で振り返ると、そこに。
「和……っ」
「啓太っ!」
一歩引いた啓太を、一瞬早く腕の中にとらえる。そしてその体勢のまま、思う様に口づけた。
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