和希と制服

5話 啓太との再会


2006.7.24UP




 入学式を終えて、数ヶ月が経った。
 新入生達も、大分この学園に慣れてきた様だ。
 俺はと言うと、新入生として入学し、クソつまんない授業なんかを真面目に聞いている振りをし続けている。
 まあ、つまらないと言ってもある意味興味深いけどな。
 日本の高校生がこんな勉強をするのかと、初めて知った訳だし。
 だから、真面目に先生の話なんぞ聞いて、心の中で「そこの説明はこの方がいいだろう」とか、「その英文の訳し方じゃ、実際に話す時には通じないだろう」とか、色々突っ込みを入れて、それなりに楽しんでいる。
 初めは戸惑う事ばかりだったけど、今ではそれなりに学生ライフなんて物を楽しんでいたりする。
 部活にも入ったしな。
 当然、手芸部だ。
 ここの生徒は、流石に俺たちが選んだだけあって、どの分野でもかなり優秀だ。
 それこそ、大人顔負けな部分が多々ある。
 だけど、会話はやっぱり高校生。
 可愛いもんだ。
 彼女がどうとか、家族がどうとか、昨日のテレビがどうとか。
 俺が普段はしない会話を楽しげにふってくる。
 啓太も今まで、他の学校でこんな生活をしていたのかな。
 今日は啓太がここに転校してくる。
 既に入学希望届けは受理されていて、審査テストも終わっている。
 寮の準備も万端。
 当然、俺の隣の部屋。
 結局、啓太の入学理由は「リーダーシップ」という事になった。
 いや、これにはちょっと俺も驚いた。
 今まで通っていた学校の交友関係などからこの理由は上がったんだけど。
 なんて言うか…啓太にはあからさまな『敵』となる人物が見当たらなかったのだ。
 普通は何人かは絶対にいるもんだろ?
 自分に悪い印象を抱くヤツって。
 自身に特に思い当たる節がなくても、そりの合わないヤツは略必ず存在する訳で。
 どんなに頭のいいヤツでも、それこそ補導される様な問題のある生徒でも、必ず啓太は懐柔している。
 故に、交遊人数など、ハッキリ言って並の高校生のレベルじゃない。
 それは、俺が思うに「可愛さ」故だと思うのだが、まあ、性格的な問題もあるのだろう。
 直接調査した石塚は、少なからず驚いていた。
 だが、この学園ともなれば多少勝手は変わってくるだろう。
 啓太のこの能力が、どの位発揮されるのか、楽しみだ。


 取りあえず、出会いをどうしようか。
 別れた時には啓太は確か5歳。
 まあ、俺の顔は覚えてないだろうな。
 というより、約束すら覚えていない可能性もある。
 でも、だからと言って素知らぬ顔で一緒に生活するのもなんなので、やっぱり教室に通す前に理事長室に来てもらうか。
 そこで、感動のご対面。
 …感動するのは俺だけかもしれないけどね。
 それでもいいんだ。
 ここまで俺が頑張って来れたのは、啓太のおかげだから。
 啓太があの時俺に、この道を進む利点を教えてくれたのだから。
 せめて、感謝の言葉の一つでも伝えてから一緒に暮らしたい。
 そして、その恩返しを少しでもさせてくれって。
 流出した情報によって身の危険がある事は、ヘタに怖がらせるとまずいので、そこは黙っていようと思うけど。
 それに、万が一誘拐された時、言及されて黙っていられる様な子にも思えないしな。
 そんな事しゃべった日には、本当に心底身の危険だ。
 まあ、コレについては、もっと身近で啓太の人となりを観察してから考えよう。


 それにしても、本当に可愛く育ったよなー。
 調査書でも何度も写真を見たけど、本当に殺人的に可愛い。
 小さい頃の面影そのままだ。
 身長は高くなっているのに、ぷくぷくした頬。
 変わらない大きなブルーの瞳。
 これも幼い頃から変わらない跳ねた茶色い髪の毛。
 細い体。
 友人達と写っている写真の中でも、一際華奢に見える。
 この容姿なら、男にも女にも、凄く人気があっただろう。
 悪い虫が付いてないといいな。
 これからは、俺がしっかりと見てジャッチしてやるからな。


 窓の外を教室の自分の席から眺めながらそんな事を考えていると、隣で騒いでいた一団が、一層大きく笑い出した。
 気になってその輪の中心を覗いてみると。
「お、遠藤。お前、この中だとどれが好み?」
 おお、男の子のお約束なえっちな雑誌だ。
 高校生らしく可愛げのある物を見てるじゃないか。
 露出も大した事無いな。
「そうだなー、俺ならこの子かな?」
 制服らしいミニのプリーツスカートに、胸元を大きく開けたYシャツからブラジャーが見えているショットの、大きな目をしたセミロングの髪型の女の子を指差した。
 なにげに、啓太に似ている気がする。
 でも、胸は結構でかい。
 体はかなり成熟していると見た。
「おー、遠藤はロリコン系が好きなのかー!でも、この女、結構年いってる様に見えるな」
 おや。結構目が肥えてるぞコイツ。
「なんだよー、年いってて制服とか着てるのかよ!イメクラのお姉さんか?これ」
「そう言えばさー、一昔前にいたよなー。卒業しても制服着て渋谷とかで遊んでる女」
 ああ、そう言えばそんなドキュメンタリー番組が流れてたっけ。
 理由は、制服の方がモテルからとか、訳の分かんない事を言ってたよな。
「大体、学校卒業してまで制服着てるって、コスプレじゃんか」
 …………。
 いや、俺にはちゃんとした理由があるし。
 それに、似合ってる訳だし。
「ヘタすると、成人してまで制服着てる女とかもいたよな」
「それ、まるっきりイメクラじゃん!」
「普段からそんな事してるって、恥ずかしくないのかねー」
 ……………。
 いやだから、俺には理由がある訳で………。
「もし身近にいたら、絶対変態扱いして近くに寄らねーよ、俺」
 ………………………。
 変態?
 変態か!?
 いやでも………。
「もう、似合うとか似合わないとかの世界じゃないっつーの。アホだよ、それ」
 ………………………………………。
 いや…啓太が同じ様に思うとは限らない……よな。
 でも………。
「やっぱり、年相応の格好してろって感じだよなー」
「年増のくせに若ぶってんじゃねーっつーの」
 ……………………………………………………………………………。


 言えない!!!!!!!!!!!


 学生の振りをしてる理由を明かせない限り、啓太に言えないよっ!俺っ!!
 変態扱いされたら立ち直れないさ!
 あの美しくも穏やかな一時が永遠に去っていくなんて、俺には耐えられないっ!!!!


 俺は急いで携帯を取り出して、直接教室へ案内してもらう様に取りはからった。
 でも…万が一啓太が俺を覚えていたらどうしよう。
 やっぱり変態扱いされて終わるのか!?
 いっそ、今から逃げるか!?!?


 ぐるぐると思い巡らしているうちに、廊下が騒がしくなってきた。
 がらりと教室のドアが開く。
 ………啓太だ!
 王様と西園寺くんに連れられて、天使がやってきた!
 きょろきょろと教室を見回している。
 俺はそっと周りの様子を伺った。
 …ヤバい。
 なんか、クラスの奴ら、目が輝いてる。
 これは、啓太の貞操の危機か!?
 ええい、一か八かだ!
「えーっと、伊藤啓太くん?」
 俺の声に、啓太はその殺人的に可愛い顔を俺に向けた。
 そして一瞬「あれ?」と言う顔をした。
 ヤバい。
 もしかして、覚えてる?
 ここは一発、とぼけるしかない!
「初めまして!俺、遠藤和希!」
 決して鈴菱じゃないぞ!
 ここにいるのは、お前と遊んでいた和にいでは決してないのだ!!
「あ、よろしく!」
 啓太は相変わらず素直な良い子らしい。
 多少疑問を感じた風だったが、俺の勢いに飲まれてくれた。
 ………よかった。
 感動の対面は、情報漏洩などの内部抗争が片付くまでお預けだと、俺はひっそりと心に決めた。
 そうしたら、ちゃんと理由を話して、すぐに学生をやめよう。
 啓太には、変態扱いはされたくない。
 超個人的な理由で、俺は啓太の『新しい』親友となった………。

 

 

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