啓太が転校してきてあっという間に2か月経った。
その間、本当に色々あった。
俺に対抗してきていた奴らが、とうとうその本性を現して喧嘩をふっかけてきたり、その為に啓太が巻き込まれたり、その啓太を守る為にかけずり回ったり。
そして、MVP戦。
一連の騒動を終えた時、俺は啓太の親友から、恋人へと関係を進めた。
いや、これには色々とあってね。
いつの間にか惚れてたんだな。
この、可愛くも色っぽい大きくなった啓太くんに。
笑った表情とかは昔と変わらずにものすごく可愛いんだけど、襟元から覗いてる首筋とか、長い前髪から上目遣いで見上げてくる瞳とか、お前、こんな成長をするなんて反則だろ!と叫びたくなる程色っぽかったりしたんだな。
でまあ、男だってわかっているのに胸がときめいてしまったと。
勿論、啓太も俺に惚れてくれたからこうなったんだけど。
そりゃもう、今はこの世がパラダイスってな感じだ。
恋人になったんだから、当然の様に俺の正体なんかもちゃんと説明した。
転校初日に不思議そうな顔をした啓太だったけど、本当の所はきちんと覚えていた訳ではなかったらしい。
というより、多分今でもちゃんとは思い出していないだろう。
俺の家のプールで、啓太がバタ足の練習をしていた時に、俺の大事な所をおもいっきり蹴り上げた事とか、テレビでやってたアニメのキスシーン見て、俺を相手にまねしてた事とか(しかも、キスした後必死に口を拭いていた)、庭に置いてあったブランコから、俺のまねをして飛び降りて、戻ってきたブランコに頭をぶつけた事とか、そんな事は覚えていない様だ。
告白して、その日のうちに勢いに任せて最後までした。
なので当然キスもしたんだけど、その時に『ファーストキス』だって言ってたしな。
で、話は戻して、俺が制服を着て変態している理由なんかもちょろっと説明をしたわけで。
本当に当たり障りのない所だけだけど、情報漏洩の事とか、啓太が感染したウィルスの事とか。
その理由を聞いて、啓太は俺の制服姿に感心してくれた。
よかったよ。変態扱いされなくて。似合ってるって思ってた事とかは、勿論言わなかったけどね。
コレを言ったらきっとオシマイでしょ。
クラスメートと同じ反応だったと俺は見たね。
なんだかんだで、啓太って結構普通の子なんだよ。
でも、「お仕事大変だね」なんて、新妻みたいにまたまた可愛い事を言ってくれちゃったりする。
そして今日、俺の努力の賜物か、はたまた啓太のリーダーシプの賜物でくせ者どもがそろいも揃って協力してくれた御陰か、情報漏洩、その他反抗勢力の一網打尽に成功した!
苦節一年、そりゃもう寝る間も惜しんで働いたかいもあったって物だ。
折角ラブラブになった啓太との時間だって、かなり裂いて仕事に当ててきた俺に乾杯だ!
だけど、コレでこの制服ともお別れだと思うと少し淋しい気がする。
だって、もう学生の振りをする必要はない訳だろ?
いくら昔の約束があったからって、これ以上仕事に穴をあける訳にはいかないからな。
本当は啓太と一緒に3年間学生生活を過ごしたかったんだけど…まあ、無理だよな。
これでもいくつも役職掛け持っている身だし。数ヶ月一緒に学生出来ただけでも満足しなきゃな。
誰もいない教室を、感慨深く眺めていると、隣の啓太も何かを感じ取ったのか。
窓の外の夕焼けを見ていると、さわりと俺の髪の毛が揺れた。啓太がそっと梳いてくれたのだ。
「俺は…和希と一緒に学校通えて、たのしかったよ」
極上の笑顔で、啓太はゆっくり俺の髪の毛を梳いてくれている。
なんか…いい雰囲気。
「小さい頃の約束、ちゃんと守ってくれて…コレからも和希とはいつでもあえるんだから。俺は、和希がいればそれでいいから」
それは、こっちの台詞ですよ啓太くん。
だけど………。
このシチュエーションは……。
啓太の唇が、夕日に照らされて、いつもより赤く光っている。
そっと啓太の頬に手を添えると、啓太は瞳を伏せた。
そのまま、引きつけられる様に唇を重ねる。
柔らかい感触に夢中になり、隣同士で座っていた椅子から啓太を俺の膝の上に抱き上げた。
「ん…」
顔の位置が逆転して啓太が上になり、啓太は俺の頭をかき抱く様にして舌を絡めてくる。
甘い唾液が口内に流れ込んできて、クチュリと音を立てた。
その音が、誰もいない教室にいやらしく響いて、嫌が応にもそういう雰囲気になってくる。
頭の隅では『ちょっとまずいだろ』と思ってるけど、そんな理性はこの誘惑には勝てない。
俺は啓太のジャケットの中に手を差し込んで、腰と背中を更に引き寄せる。
「…ふぅっ………んぁ」
啓太の口から漏れる声が段々と色を帯びてきて、俺の下半身が熱を持ち始めた。
息苦しくなったのか、啓太がそっと唇を離す。
ああ、ここでこんな事出来るのも最後なんだなぁ。
啓太のYシャツのボタンを外しながら、白い肌に顔を埋めると、クスリとその体が揺れた。
「でもさ」
「ん?なに?」
お互い荒い息で言葉を続ける。
…だが、続けた事に俺は思いっきり後悔した。
「理事長と生徒が恋人って…なんか、援交みたいだね」
…………………………………………。
今のは聞き間違えか?
いや、耳は遠くなってないぞ。
なんだか凄く不適切で問題な発言を啓太がさらりと言った様な気がしたが……。
「デートのときは、スーツはやめてくれよな?ホントに援交みたいだから」
くすくすと笑いながら啓太は続ける。
『援交』って…あれだよな。デートとかえっちとかさせる代わりに男からお小遣い貰うってやつだよな。
確かに今まで啓太とのデートの時に、啓太に財布を出させた事はなかったけど、それは収入の違いってヤツな訳で…。
何が悲しくて高校生に財布を出させなきゃいけないんだよ、この俺様が。
しかもこんな天使に!
…そう言えば啓太は嫌がってたなぁ。
それってそう言う意味だたのか?
「だから俺、制服着てる時の和希が凄く好きだった。本当に普通の恋人同士になれた気がしてたから…でも、もう終わりなんだな」
……………………………。
この時の俺の脳細胞の働きぶりをお見せしたいくらいだ。
そらもう、フル回転。
これから先、どうやって仕事と学生を両立させるか。
そして、静かに啓太に告げた。
「…俺、学生やめない」
「はぁ?」
『援交』と言われて、誰が学生やめるかって言うんだ!
もうこうなったら三年間、啓太と普通のラブラブ学生生活を送るしかないだろ!
二人で揃いの制服着て、一緒にすごすんだ!
…そうか。キーワードは『制服』だったんだ!
「俺、制服似合ってるだろ?」
ここでは『援交』うんぬんは伏せておこう。
「それは、まあ似合ってるけど…ホントに高校生に見えるし…でも仕事、どうすんだよ」
「それは何となる。結構出来るもんだぜ?学生と理事長職の兼業って」
研究所所長と製薬部門取締もあるけどな。
それでも啓太とのラブラブスクールライフには代えられない!
啓太はもっとごねるかと思ったけど、ホントは俺と一緒に学生をしたかったらしく、素晴らしい笑顔を俺にくれた。
「じゃあ、コレからも一緒だな」
「そうだよ。コレからも一緒に制服着て、一緒に登校するんだ」
俺達は改めて唇を合わせた。
ああ、制服様様だ。
これで俺は啓太と普通の恋人同士なのだから。
援交にはこれでならない訳だ。
制服、最高だ!!
END
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