制服を変えて3年目。案の定、学園の生徒達はずいぶんと今風の学生になってきた。
うん。やっぱり黒の詰め襟がいけなかったんだ。
母の送ってきたデザインは、流石に俺(様)の生みの親。
俺の趣味をよく把握してくれている。
色はちょっと奇抜だと思ったけど、髪の色はどんな色にしても浮く事は無いし、ジャケット・ベスト・ズボンのそろえは、どんな風にでもアレンジ可。その子の個性がきちんと現れる。
ああ、よかった。
俺はオタクの総大将にはなりたくないからな。
それに、この制服の色、きっと啓太に似合うと思う。
来年の入学式が大変に楽しみだ。
今まで式には出てなかったけど、来年は絶対出るぞ。
そして、啓太と感動の再会だ。
同じ勉強は出来ないけど、同じ学校に通うっていう点はクリアーだしな。
啓太だって大きくなってるんだから、この点だけでオッケーしてくれるだろう。
年の差を考えれば、この点だけでも抑えた俺を誉めてもらいたいよ。
そんな事を考えながら、にやにやと経済新聞に目を通していると、ある一面で目が止まった。
それは、製薬部門のライバル会社の株価。
なんか…動きがおかしい。
俺は急いで情報を集めた。
するとここ最近、やたらと新薬の研究チームが立ち上げられている。
この会社には、これだけの数を研究出来る様な設備は整えられていない筈。
という事は…何処からか情報が来ているという事か?
というより、これはもしかして…。
まだ、部下からの報告は来ていないが、内部で誰かが操作しているとも限らない。
うむ…学園(制服)に気を取られ過ぎていたか。
そんなこんなを反省しつつ、内部調査を開始した。
するとやはり、うちから漏れていたと判明した。
だが、社員の調査を極秘に進めていても、一向に判明しない。
何故だ?
しかも、情報の流出も止まらない。
極秘とは言えこれだけ上部が動いていて、犯人の行動が大人しくならず、その上その正体もつかめない。
管理データーは俺が直でチェックしてるけど、不正なハッキングの形跡なんかは見えない。
去年スカウトしてきた、ちょっとそこらにはいない位の優秀なハッカー(現在学園の一年に在籍中)にも、外部からのハッキングに関しては検討が付かないとの事。
流石の俺(様)も、頭を抱えた。
うーん。これは結構根が深そうだ。
何とか啓太の入学までには蹴りをつけたいな。
デジタルに関しては、それなりに強いと思っているが、アナログに関してはちょっと自信が無いし。
いや…アナログか。
そうか。
その手があったか。
頭でダメなら、行動だよな。
この部門で、俺(様)の行動を怯えもせずに行動するヤツと言えば…俺を敵対視してる奴らの中の誰か。
その中でも特に頭の悪そうなヤツは…いや、ここでは明言出来ないな。
会社の中で、あいつに加担しそうなヤツはいなさそうだし…だからと言って、これを一人で出来るとも思えない。
俺は窓から見える校舎を睨んだ。
おそらく、あそこにいる。
ヤツの不愉快な仲間達が。
ここまで考えを到達させて、誰かを潜入させようかと考えたが、どう考えても有効な手段が思いつかなかった。
だって、教師として潜入させたとしても、犯人が生徒だった場合、どうしたって証拠を固めるまでには時間がかかるだろう。
それに、教師同士の間って言うのも一種独特だと聞いている。
こう、隔離された世界って感じ。
一般社会とは、確かに違うよな。
やたら上下関係が厳しいみたいだし。
優秀だったらそれで言い訳じゃないらしい。
という事は、やっぱり生徒を潜り込ませるか。
だけど、俺の部下に当然高校生はいない。
頼める生徒がいない訳ではないが、それでも子供の視点と大人の視点では差がある。
うーん。
ふと、窓を見ると…そこには青空を透過させた俺の姿。
………。
いけるか?
最近は流石にあんまり無くなったが、一昨年までは夜に出歩くと何故か補導員に声をかけられてたし。
免許証見せるまで、前をどかなかったヤツもいたし。
俺って、若い?
いや、年齢的には若いが、高校生で通用する?
信頼の置ける部下を考えても、とても皆高校生って言うのには無理があるツラだし。
石塚はあの中ではベビーフェイスだが、彼がいなくなると仕事が困る。
…ということは、やっぱり俺?
いやでも…。
ガラスに映る自分の顔を見て悶々と考えていると、ノックの音が響いた。
「失礼します。例の件の調査ですが…」
石塚!
お前、何でそんなに優秀かなーっ!
タイミングまでバッチリだよっ!!
次のボーナスの査定、あげてやるからなっ!!!
「その件はさておき、一つ、聞きたい事がある」
「はい」
石塚の言葉を遮って、俺は問いかけた。
「私は、高校生に見えるか?」
「………は?」
あ、この顔は見た事あるぞ。
確か、俺がここに就任した日の朝一番、サーバー棟の玄関前でこんな顔をした。
そんなに驚く事か?
「いや、だから、私は高校生に見えるか、と聞いているんだ」
「あの…仰る意味がよくわかりませんが…」
ああ、そうか。
そう言えば説明してなかったな。
という訳で、俺は学園に目星をつけて潜り込んで調査する件を説明した。
「………それを、和希様がなさるんですか?」
石塚は、ほとほと困ったという顔で視線を泳がせている。
そんなにダメかなー。
自分では結構イケルと思うんだけど。
「それでは君は、他に適任者がいると思うのか?」
「いえ……それは誰も少々無理があるとは思いますが……」
だろ?
やっぱり俺だよ、俺。
「ですが、いくら高校生に紛れるにしても、人数の少ない学校ですし、不審者扱いされるのが関の山だと思うのですが」
「それは、この学園に正規に入学すれば問題ないだろう」
「………………………は?」
今日は「は?」が多いぞ、石塚。
「いえ……それは…あの…」
「俺が、来年度から学園に入学する。そうすれば、目立たずに行動出来るだろう」
学生の意見を直に聞けるチャンスでもある。
そして、実際に制服の着心地を実感出来る。
その上こうすれば、啓太とも正真正銘同じ学校に通う事になるし。
俺って頭いい!!
一石二鳥じゃ物足りない。やっぱり三鳥以上はとらないとな。
「という事だから、スケジュールの調整は任せる」
「……………………………………………………かしこまり…ました」
何故か石塚は俯いたまま部屋を出て行った。
俺は来年から始まる啓太とのスクールライフに胸を躍らせながら、この日の仕事をいつも通りに片付けた。
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