今日は、学園島の責任者として初出勤だ。
辞令は、昨日のうちに本社でもらってきている。
その時、俺の秘書だというヤツとも対面した。
彼の名前は「石塚」と言うらしい。
温厚そうな顔をしていたし、だからと言って会話に切れがない訳でもなかったので、きっと彼は秘書としてかなり優秀なのだろう。
その彼に、色々と学園や研究所についての情報をもらった。
研究所の設備には、聞かされた限り問題はないと思う。
それなりに整っている。
まあ手を加えるべき所はあるが、別に急いでやらなければいけない物でもない。
そして、学園。
こちらに付いても、授業カリキュラムや寮の設備、その他に付いても問題はない様に思える。
だが…一点だけ不明な点がある。
それは、『制服』。
こちらについての説明は無かったのだ。
先日の商店街の風景から、俺はこれにとても興味を持っていたのだ。
今時の学校を、直で見られる。
何年も日本を離れていたし、義務教育以外はこの国の教育を知らない俺としては、まさに絶好のチャンス。
きっとこの先、人事を見る上でもプラスになるだろう。
いや…趣味の面でも。
趣味と言っても、別に学生ウォッチングじゃないぞ。
手芸だ、手芸。
別に制服マニアな訳では断じて無い。
俺は逸る気持ちを抑えきれずに、出勤時間の一時間前に学園に到着し、生徒の様子を見る事にした。
現在の時刻は午前8時。
学生がゾロゾロと寮から校舎へと歩いている。
だが、ここで初めて俺は、じいさんが造った学園に対して不満を覚えた。
それは何か。
ここまでの話の流れで大体想像がつくだろうが、当然制服だ!
今時、黒の詰め襟って有りか!?
全国から優秀な生徒を集めているだけあって、全員ドレスコードにめちゃめちゃ忠実。
じいさんだって別に厳しいドレスコードをひいていた訳じゃないのに、何故か揃いも揃って今時の若者がこんな物を好むのかという位、髪型まで超真面目。特に染めているヤツが目立つ訳じゃないし、染めていたとしても、とてもナチュラルに、それこそ「学生らしい」というコードにマッチさせてる。
別に一昔前のヤンキーの様な格好をしろと言っている訳じゃない。
あれはあれで、問題だとは思うし。
だけど!
これで外に出たら、間違いなくオタクの集団と間違われるっ!
頭を抱えて、俺はとぼとぼと理事長室に出勤した。
「お早うございます和希様。学園の様子をご覧になられたのですか?」
俺の歩いてきた方向からそう判断したのだろうか。
サーバー棟の玄関で、石塚がにこやかに挨拶してきた。
「…今から、理事会を開けるか?」
「は?」
俺の開口一番の言葉に、石塚は鳩が豆鉄砲をくらった様な顔をした。
「あの…なにか問題でも?」
無言で理事長室に向かう俺の後を、おどおどしながら石塚は付いてくる。
『問題』?
問題ありありだろっ!
「君は、あの学生達を見て何も思わないのか?」
「いえ…私は別に…」
そうか。
普通のヤツには、何も感じないか。
だが、(ニット)デザイナーの息子として生まれてきた俺には、あれは我慢出来ない!
「至急、一番早い日程で、理事会を組んでくれ。学生の制服に付いて、改善させたい」
「…制服、ですか?」
「そうだ。あれでは今時の学生としては可哀相だ」
きっと、学生達だって変えて欲しいと思っているに違いない。
あんな生真面目にオタクな格好をしている奴らだって、おしゃれ心位はあるだろう。
いや、何と言っても、あれを毎日見続けるのは、俺が我慢なら無い!
それに、三年後に啓太をこの学園に入学させようとしている俺的には、「和にい、センス無い」とか言われては大問題なのだ。
今のうちに変えて、痕跡を抹消しておく方がいい。
という訳で、俺の着任第一号の仕事は、母と連絡を取る事になった。
お母さん、どうか息子(の視界)と学園を救って下さい。
素敵なデザイン、お待ちしております。
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