愛しのチェリーボーイ

チェリーボーイにお任せV

2003.7.7UP




「うわっ!」
「げっ!」
  二人の奇妙な声が上がったのは、学生会室に一番近い階段の上部。
「ごっ!ごめんなさいっ王様!」
「いや、ダイジョウブか?啓太」
 資料を抱えて階段を降りようとしていた啓太は足を滑らせて、丹羽の腕に抱きとめられていた。
「・・・はい、王様のおかげで・・・イテッ」
「おいっ、どうした!?」
「いや・・・ちょっと足が・・・」
「!啓太!?どうした!?」
 階段の真ん中で抱き合う様な形になっていた二人の背後から、啓太の背後霊改め保護者の遠藤が驚きの声とともに駆け寄って来た。
「あ、和希。ちょっと足滑らせちゃって・・・」
 いつまでも丹羽の腕の中に収まっている啓太を自分の腕の中に引き込みながら、遠藤は啓太の顔を覗き込むようにしながら丹羽から啓太を隔離した。
「まったく!王様が仕事を逃げるから啓太がこんな目にあったんですよ!」
「あ・・・わりい」
 どこか上の空で丹羽は遠藤に謝罪の言葉を告げる。
 そんな丹羽の様子を方眉を潜めながら遠藤は啓太を抱き上げると足早にその場を去っていった。
(・・・・・あいつ・・・・)
 丹羽はそんな二人の背中を見つめながら、腕の中に残った啓太の感触を思い返してため息をついた。




 数日後、学生会室には珍しい光景が繰り広げられていた。
 なんと、丹羽がまじめに机に向かっているのである。
「王様が逃げ出さずに仕事をしてくれる日が来るなんて・・・夢見たいですね、中嶋さん」
 二人が処理をした書類を、ぱたぱたと嬉しそうにファイリングしては部屋の中を走り回る啓太は、久しぶりに自分の仕事のみに没頭している中嶋に対して話しかける。
「・・・そうだな。どういう風の吹き回しかは知らないが、いい事だ」
「・・・うるせえぞ、お前ら」
 二人の会話に不貞腐れ声で対応する丹羽の視線は、自分のすぐ横に迫った啓太の体に注がれている。
(・・・・なんだ?)
 中嶋は、丹羽の啓太への視線が今までの比ではない位の頻度で注がれる事に、この時気がついた。
 その丹羽の視線は、恋をしている・・・・といったものとは少し違っている様な感じであったので、中嶋の疑問は己の中で解決の糸口を見失っていた。

 確かに少し、目元が熱っぽい。
 頬も赤らんでいる。
 だが、何かが違う。

 そんな条件を頭の中で並べ立てていた時、丹羽が動いた。
「なあ、啓太」
 背中越しにかけられた声に、啓太は頭だけを振り向かせて丹羽と視線を合わせる。
「何ですか?王様」
 啓太と視線を合わせたまま、丹羽は啓太に近付いていき・・・・・









 むぎゅっ









「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」


 瞬間、学生会室は惑星の極点と化した。
 そこにやはりタイミングよく現れる啓太の守護神遠藤。
「・・・・なにしてるんですか、王様」
 遠藤のこの一言と視線は、極点に変化した学生会室の体感温度を更に低下させる。
 ・・・・そう。先ほどの擬音は、丹羽が啓太を抱きしめた音だった。
 そして現在進行形で啓太は丹羽の腕の中に(放心状態で)居る。
「いや、ちょっと抱き心地を確かめ・・・・・」




 ごきっ




 中嶋の必殺の蹴り技が丹羽の頭にクリティカルヒットした。
「悪かったな、啓太。それから遠藤。今日はもう帰っていいぞ」
 激しい動きで少し乱れた制服のジャケットを直しながら、努めて冷静に中嶋は二人に向かって相棒の謝罪を述べる。
「・・・そうさせてもらいますよ。それから、啓太はこれから俺がいない時には学生会室に出入りする事を控えさせてもらいます」
 座った目で放心状態の啓太を抱き寄せつつ、丹羽と中嶋を一瞥して遠藤は入って来たばかりの学生会室のドアを再度潜った。


「・・・・で?何であんな事をいきなりした。哲也」
 残された部屋の主にその有能な補佐官は、ため息とともに己の疑問をぶつけた。
「いやさあ、この間偶然啓太の事抱く機会があってさあ」
「・・・ほお」
 この合図値には勿論、丹羽が伝えた事とは別の意味の解釈がなされていたのだが、当の丹羽がそれに気がつく事は無く話を続ける。
「なんかさあ、すんげー柔らかかったんだよ。あいつ」
「・・・それで再度、確かめようとしたわけか」
「まあなー・・・だってよお、今まで俺が触る機会のあったヤローなんて、みんながっちがちだったんだぜ?それなのに啓太はなんか柔らかくってさあ・・・正直女ってこんな感じなのかなーなんて想像しちまった」
「・・・あいつも男だから女のソレとは比べ物にならないと思うが・・・」
 丹羽は、中嶋の言葉に力なく反論をした。
「・・・お前、この間の俺が童貞だったって事忘れたのか?」
「いや?そんなに記憶力は悪くない。後の事もばっちり覚えている」
「ぐっ・・・・」
 『後の事』・・・とは丹羽が中嶋に奪われてしまった「童貞」ならぬ「処女」の事をさしている。
「一つ称号を取ってやったんだ。感謝してもらいたいな」
「あのなあ・・・俺はそっちは一生取っておきたかったよ」
 その言葉とともに、丹羽からいつも生徒の前に出ている時に発せられている威厳のオーラが消える。中嶋は己の欲求のままに動く事を耐えなかった。
 顔を赤らめて俯き加減な背中から、中嶋は腕を回して丹羽のシャツのボタンを外しはじめる。
「・・・アニやってんだよ、ヒデ。俺はもうケツ貸さねえぞ」
 一度経験してしまえば、その行動の意図は容易に想像が付く。
 女性との経験が無くとも、今の丹羽には理解の出来る事柄になっていた。
「ほお、よく分かったな。これも俺のおかげだな」
「分かんないわけないだろ。俺も記憶力は悪くない」
「それではやはり、俺のおかげだな。哲」
「あーそうだな。お前のおかげだよ。ヒデ」
 会話の間にも中嶋の手は止まる事無く丹羽の着衣を取り払っていく。
「・・・だからケツ貸さねえって言ってんだろ?俺は女とヤリテエんだよ」
 丹羽の言葉に中嶋が臆する事は無い。
「お前の為に教えてやってるんだ。授業料だ」
「・・・何を教えてくれてるって言うんだ」
「セックスに決まってるだろう。こんな年になってまで童貞をあたためているお前が、いざという時に恥ずかしくないように教えてやってるんだ。ケツくらい惜しみなく貸せ」
 何を言っても自分の体から離れない中嶋の手をほぼ強引に払いながら、丹羽は会話を続ける。
「あのなあ、こう言う事は例え男同士でも愛し合ってるからやるもんだろ。そら愛がなくても出来る事くらいは俺も解ってるけどよ」
「・・・・お前はホンッとバカだな」
 丹羽の言葉にため息をつきながら中嶋は返した。
「なんだよ」
「あのなあ、ここまで来てどうして解らないんだ。俺はお前の事が好きだぞ?」
「 ! はあ!?」
 突拍子も無い中嶋の告白に、丹羽の頭には白い雲が漂った。
「なんでこの俺がお前の為にここまでしなければならない?理由は簡単だ。俺がお前の事が好きだからだ」
「でっでもこの間は俺が苛つかせたからだろ!?」
「・・・二年半も我慢させられていたんだ。アレくらいいいだろう」
「・・・二年半・・・・ってつまり・・・」
 最初の頃の大げんかは、今だに丹羽の中に鮮明な思い出として残っている。だが・・・・
「・・・俺は好きなやつはいじめたくなるんだ」
 にやりと不適な笑みを浮かべて、中嶋は再びその手を丹羽の体に戻した。
「はっ!いっいやっ、俺の気持ちは・・・・」
 あまりの事柄に自分を見失いそうになっていた丹羽は、中嶋の手の感触に己を取り戻して慌て始める。
「・・・だから『授業』で我慢してやっているんだ。これからのお前の為だぞ?俺の好意を素直に受け取れ」
「いやっ!お前の好意は嬉しいがっ!」
「そうか。それはよかった」
「だっだからっ・・・・うわあああああああああああ・・・・・・」




 (またまた)暗転──────────。




 丹羽の「脱・童貞」ヘの道は狭く険しい・・・・・・・・・。

 

 

NEXT→働くチェリーボーイ

 


TITL TOP