愛しのチェリーボーイ

GO GO チェリーボーイ

2003.6.28UP




「せーんかんやまとにけーがはーえてー」(軍艦マーチのふしまわし)
 鼻歌まじりで本日の自称見回りを終えた丹羽が学生会室の扉を開けた。
「・・・・その下品な歌はやめろ・・・」
 丹羽が自称見回りをしている間、先日転校してきて学生会室に入り浸るようになった一年生と共に書類のチェックをしていた中嶋は、端正な眉間にしわを寄せながらつぶやいた。
「あ、観念したんですね、王様」
 自分の出番を待って、学生会室に待機していた伊藤啓太は、毎日繰り替えされている会話に耳だけを傾けて素っ気無く言葉を吐いた。
 愛想のない後輩の言葉と、自分の机の上に容赦なく積み重ねられている書類をみとめ、今まで浮かれていた 気分を一気に落とした学生会会長 丹羽哲也は、ため息と共に自分の席に着く為、視線を落とした。
 すると、後輩が時間潰しの為か開いている雑誌が目にとまる。
「おい、啓太。それナンダ?」
「ああ、成瀬さんの海外遠征のおみやげですよ」
 先輩の問いに、啓太は平然と答えた。
「王様も見ます?」
 啓太の、現在の状況を無視した言葉に、中嶋の目が光る。
「啓太!よけいな誘惑を丹羽に与えるな!!」
 現在の部屋の中で、一番権力を持っている人物の言葉に、啓太ははっとして頭をかいた。
 その時、学生会室の扉をノックする音が聞こえ、啓太の救いの神、遠藤が現れた。
「啓太、おまたせ。もう帰れるか?」
 その場に流れる中嶋の異様なオーラから逃げだせる絶好の機会を得て、強運の持ち主、啓太は急いで身支度を始めた。
 手に持っていた雑誌を予備の机の上に置いてその場を離れようとした時、その机の近くにいた丹羽は、 校舎中に轟く雄叫びをあげた。

「けっ啓太!!なんてモンを平然と読んでるんだよ!!」

「な・・・なにって、ただの無修正のエロ本じゃないですか・・・」
 啓太は、丹羽のその反応に、ただでさえ大きな目を更に見開いて驚きの表情を露にした。
 真っ赤になって口をぱくぱくさせている丹羽の反応を見て、啓太は更に不用意な質問をした。
「あれ・・・王様って、もしかして・・・・・童貞?」
 そのなんとも形容しがたい質問に、周囲の空気が一瞬凍った。
 だが、その凍てつく空気をものともせず、中嶋は逆に啓太に質問を返した。
「おまえは違うのか?啓太」
「えっ!?いや〜・・・その〜・・・」
 隣にいる遠藤の顔をちらりと見ながら、啓太は口籠った。
 その様子に、遠藤の視線が啓太に突き刺さる。
 期待の視線は、丹羽から啓太へと移され、その視線から逃れる為、啓太は視点を泳がせた。
 その時、下校の時間を知らせるチャイムが、校舎内に響き渡った。
「あっ!こんな時間!それじゃ、俺は失礼しま−す!」
 相変わらず運の良いやつ、とは、中嶋の心の中でささやかれた言葉であったが、部屋を出る時の遠藤のオーラも、中嶋に負けずとも劣らない、気迫があった。
「なんだよ、啓太の奴、あいつ経験あるのかよ・・・」
 啓太の置いていった雑誌を、食い入るように見つめながら丹羽は呟いた。
 丹羽の呟きに中嶋はにやりと口元をゆがめ席を立ち、丹羽の脇に移動した。
「今どき高校三年にもなって後生大事に持ってる方が稀なんだよ」
(啓太の場合は童貞と言うか処女だと思うがな)
 後に続く言葉を飲み込みつつ、中嶋は丹羽のネクタイを軽く引っ張りながら言った。
「そんな事は良い。早くあの山をなんとかしろ」
 中嶋のその言葉は、初めて見る女性の局部に全神経を集中させている丹羽には届かなかった。

(ぴしっ!)

 中嶋の中の亀裂音と共に、丹羽の顔が雑誌から離され中嶋の寸前で止まる。
「・・・・なんだよヒデ・・・」
「お前にセックスの経験が無いのはよ〜く分かった」
「・・・わるかったな」
 直接的表現を使われ、丹羽の顔がわずかに染まる。
「ああ、悪いとも。貴重な時間をこんな女の×××にとられていては、俺の苦労が台なしだからな」
「おまっ!!!」
 叫びかけた丹羽の口は、中嶋のそれでふさがれた。
 呆然としている丹羽の口腔を、中嶋はじっくりと侵していく。
 暫くして、自分の身に起きているとんでもない事態を自覚し、丹羽は中嶋から飛ぶように離れた。
「ヒデ!!おまっ!なにすんだよ!!!」
 そんな丹羽の様子を暗い炎を瞳の奥に宿しながら楽しそうに見つめ、追い詰めていく。
 そして、学生会室の一番奥まで追い詰めた時、丹羽を壁に押し付け中嶋は囁いた。
「いい事を教えてやろう。テッチャン。セックスはな。男と女以外でも出来るんだよ」
(ごくり・・・)
 丹羽は中嶋の異様な雰囲気に唾を飲み込んだ。
「そして俺は、セックスに置いては同じ年頃のやつよりは熟知している」
「そ・・・そうナンダ・・・」
 今の丹羽には、中嶋の発した強烈な言葉を理解できる余裕はなくなっていた。






「だからお前にも教えてやろう。セックスってやつを」






 そう言い切るやいなや、中嶋は丹羽の制服のボタンを外しはじめた。
「うわあああ!いいっ!!結構です!英明さん!!」
「遠慮するな。丹羽。俺は今、その気になっている」
 手早く着実に、丹羽の制服は中嶋によって取り払われていく。
「ヒデっ!お前のケツ借りなくても、ちゃんと女作るから!!」
 丹羽が叫んだ時、盛んに動いていた中嶋の手が止まった。
「・・・・誰がケツを貸すと言った」
「・・・へ?」
 にやりと笑った中嶋の瞳の奥に、丹羽は悪魔の姿を見た気がした。
「ケツを貸すのは、ここまで俺にストレスを溜させたお前だ」
「あ・・・・・・」







 ──────────まっくら。





 行為後、スッキリした中嶋は、再び書類の山と格闘すべく自分の机に向かっていた。
 が、初めての行為の後の丹羽が、これ以上の行動が出来るはずも無く、それまで溜めていたストレスの原因を自ら増やしてしまった事に中嶋が気付くまでにたいした時間はかからなかった。



 丹羽の災難は始まったばかりであった。

 

 

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