「い・や・だ!」
「え〜っ!そんなこといわずにさぁv」
「ぜっっっっっったいヤダっ!!」
夕食後に始まったいつもの押し問答に、相変わらず和希は余裕の笑みだ。
どうせすぐに俺が折れると思っているに違いない。
だけど……コレだけはいくらノリのイイ俺でも抵抗有りまくりだ!!
時は既に秋。
体育祭も文化祭も終わって、2学期の中間テストも終わった。
コレから一か月は平穏無事な生活と思っていた矢先に、アメリカ帰りのこの理事長は
「島全体でハロウィンパーティ」
などと言い出したのだ。
理由は地域親交の為と、もっともらしい事を言っているのだが……
「なんでそんなにイヤなんだよ。文化祭の時もスカートはいてたじゃないか」
「アレは膝下まであったろ!なんだよっこの短さは!!トランクス見えるだろ!?」
当日の俺の衣装をいそいそと嬉しそうに用意していた和希が持って来た物は……
「どんなに言われても『ティンカーベル』だけはやらないからなっ!!」
……である。
体毛が濃い訳ではない。ハッキリ言って薄い方ではある。
だけどっ!!
俺だって高校生なのだ!!
それなりにすね毛だって生えているんだ!!
「だって……俺、啓太に合わせてフック船長の衣装、用意しちゃったよ」
じ・自分だけそんな普通な物っ!!
卑怯だっ!!
「フック船長だったらピーターパンでも一緒じゃないか!」
「え〜っ!仮装でも啓太と敵同士になるなんてヤだよ!!」
「ティンカーベルも敵じゃないかっ!」
「別にティンカーベルとフック船長が直で対決する訳じゃないじゃないか。……ああ、そうか。俺がピーターパンやればもっとイイのか」
成人男性がピーターパンかよ。
「俺……和希の半ズボンは見たくない」
「……流石に半ズボンは……ちゃんとロングバージョンで」
だ〜〜〜〜っ!よけいにずるいっ!!
「可愛いじゃないか、コレ。我ながらイイ出来だと思ってるんだけどなぁ」
出来の問題じゃないっつーの!!
「何を言ってもダメな物はダメだ!!俺はトランクスの見える様なミニスカートは履かない!」
「……その日だけブリーフってのは?」
なんだその上目遣いは!!
「却下!」
仰々しくため息をついたってダメな物はダメ!!
俺にだって一応恥と言う文字は辞書に載っている。(一応なのか)
しかも当日は……家族も来るのだ。
前回の学祭の時のセーラー服は、今だに家族内の笑い話だ。
しばらく笑いの提供は差しひかえたい。(近所で何言われてるか……)
……ふと。
まだ俯いて悲嘆に暮れている和希に目を向けた俺は……好い事を思い付いた。
「なあ和希、なんでそんなに俺に女装させたインだ?」
落ち着いた口調の俺に、まだ食い下がるつもりなのか、キラキラした視線を向けて来た。
「だって、たまには世間から見てもおかしくないカップルに見せたいじゃないか。啓太の身長ならちょっと大きな女の子ならその位あるし……まだ少年体型だからなんとかなるなと……」
ふーん。成る程ね。
「じゃあ、和希がスカート履けばいいだろ?まだ高校生で通用するその顔と体型でさ。そしたら俺がエスコートしてやるよ」
「……はあ?」
思った通り、和希の目は点になった。
俺は心の中でガッツポーズをとる。
「まあ、女にしてはちょっと(?)大きいけど、顔は俺より綺麗系だし、上半身さえ誤魔化せればイケるだろ……決まった!」
「いやっ!ちょっとまて啓太!」
俺の提案にあわあわしている和希を無視して話を進める。
ーーー無視しないと確実に『ティンカーベル』をやらされる……・
「そしたら流石に和希に『ティンカーベル』は無理だから……ウェンディーな!そしたら俺がピーターパン!!よっしゃー!!可愛いカップルの出来上がり〜!」
「か……可愛いのか!? 俺の女装で!?」
「過去の”クィーン”が何をおっしゃっておられますか!お兄さまv(青い三角定規参照/汗)あ・俺の衣装は和希に任せるな!ズボンだったら短くても長くてもどっちでもいいぞ!」
「い・いやっそれは半ズボンだけど……じゃなくっ!啓太!!」
「ダイジョウブだって!理事会のパーティーにもエスコートしてやるから!皆にうけるぞ!」
俺もご近所のうけを取ったんだ。お前も理事会のうけを取れ!(立場違い過ぎ)
「……わかった。俺がウェンディーやれば良いんだな?」
……あれ?案外あっさり引いたな。
しかもちょっと目が笑っている様な……ま・いいか♪
ーーーこうして俺の逆襲は成功したかに見えた…………
だが。
世の中そんなに甘くはなかったのだ。
「お〜〜っ!啓太、ピーターパンか!可愛いじゃねーか!」
当日、和希の用意したピーターパンの衣装(やっぱり半ズボン)を着て、パーティーの会場になった島の中心の広場に俺は赴いた。
「王様もカッコイいですよ!でも……えーと、それ……何ですか?」
「これか?レット・バトラーだ!」
王様の服装はちょっと硬い感じのスーツといった、いつもと違ってはいるが普通といえば普通な物だ。
「なんか……似合ってますけど……ちょっと面白くないですよ」
俺なんかこの年でピーターパンなのにっ!(しかも半ズボン)
「あはははは〜っ!これはなっ、中嶋と組むから面白いンだよ!」
……中嶋さんと?
「……って事は……」
「おうよっ!奴が『スカーレット』だ!」
……………………えええええええええええええっ!!
「どうせだったらペア物の方が視線集めるだろ?だから俺が提案したんだよ。んでよ、どっちが『スカーレット』やるかでジャンケンして俺が勝ったって訳さ!」
……身長180後半の王様がスカーレットって言うのもなんだけど……中嶋さんもデカいから……どうだ?
そんな疑問符を頭の中に浮かべていたら、背後からすごいどよめきが起きた。
……なんだ……って!!
「おおっ!遅かったじゃねーか!」
うそっ!あれ中嶋さん!?
「このスカートをお前も履いてみろ。……途中でイヤになるぞ」
「すげー膨らみだなぁ。ナンマイだ?」
「ケツが薄いから4枚重ねた」
淡々と王様と話しをしている中嶋さんは……遠くから見れば単にデカい美人さんだ……
ていうかっ!あの肩幅をどうやって誤魔化しているんだ!!
「ああ、啓太か。お前はいつもと変らないな」
「えっ……そんな事ないと……思いますけど……」
貴方が変り過ぎですぅっ!!
「なんだ。そんなに変ったか?」
「……お化粧してるんですか?メガネもかけてないし……コンタクトにでもしたんですか?」
あんまりドギツイ化粧ってわけじゃないみたいだけど……あまりにも普段と違い過ぎる……
「この格好で化粧してなかったら、単に無気味なだけだろう。お前は生足か?」
いつもの不適な笑みで、俺の半ズボンから出ている足をじっと見つめている。
「生ですよ。寒いったらないです」
「俺が暖めてやろうか」
その格好で口角だけ上げて笑うのやめて下さい……
思わず引きつり笑いをしてしまった俺に何を思ったのか。中嶋さんは周りを見回したかと思うといきなり俺を抱き上げようとした。
「なっ!なんですか!?」
ドレス姿の人に抱き上げられる程恥ずかしい事はない!!
「鬼の居ぬ間にその生足を堪能させろ」
「なっ!生足を堪能ってなんですか!!」
「なんだ、ハッキリ言って欲しいのか?」
うわ〜〜〜〜っ!スカーレットに奪われるのだけはいやだ〜〜〜〜っ!!(そう言う問題じゃない)
俺が必死の抵抗をしていると、再び背後からどよめきが起こった。
今度はなんだよっ!!
「そこまでにしてもらいましょうか?スカーレットさん」
なんか……聞き覚えのある声が……
「なんだ。もう来たのかウェンディー」
ウェンディーって事は……
「かっ和希!!」
振り向いた先には……ドレスっぽいネグリジェを着てヘアピースと薄化粧を施した『ウェンディー』な和希が『スカーレット』の中嶋さんを睨んでいた。
……い・いやな対決だ。
「いくら啓太とペアとはいえ、お前がそれをやるのは詐称にも程があると思うんだが……」
「ウエスト80のスカーレットに言われる覚えはありませんね」
……醜い。醜すぎる応酬だ。
「啓太、お前のお望みのウェンディーだよ。ちゃんとエスコートしてくれるんだろ?」
「う……うん」
にっこりと……爽やかに微笑むその顔が……少し恐いよ?
恐怖の対決を終わらせて、俺は約束通り和希をエスコートするべく常に和希の手を取って和希の予定をこなした。
想像通り、何処に行っても話題の中心は和希になって、俺の半ズボンは目立たなくて済んで良かったけど……
こいつも化けるにも程がある。
普段の大人の表情を穏やかな笑顔に隠して、理事会の親父達を……その名の通り色仕掛けで落としていく。
何より驚いたのが、俺なんてセーラー服着ていても歩き方とか気にもしなかったんだけど……ちゃんと女の歩き方に変えてる辺り……凄いというか、何というか……
仕草とかも普段の和希からは想像も付かない程の『淑女』っぷりだ。
前に一度、俺たちが異性だったらもっと堂々としてられるのにって思った事があったけど……
この様子を見ていると、和希が女の人だったら、俺なんかには高嶺の花だったなと思う。
へんな安心の仕方かもしれないけど、和希が男で良かったかも。
「なんだ啓太。惚れ直したか?」
うっかり和希を見つめていた俺に、からかい半分で話しかけてくる。
だけど……ホント、別な意味でも惚れ直しそう。
「なんか……和希ってホントに美人さんなんだなあって」
思わずうっとり呟いてしまった俺に、余裕の笑顔を見せてくれた。
その笑顔も……やっぱり綺麗で。
「啓太の方が可愛いよ。俺なんて化粧して誤魔化してるだけだしな。それにこの肩幅、誤魔化すのに苦労してるんだ」
それは……そうだろうけどさ。俺なんかより全然体格いいし。
「で、そろそろ連れてってくれるかな?」
「へ?何処に?」
惚けている俺の顔に自分の顔を近付けて、和希は満面の笑みで訳のわからない事を囁いて来た。
「どこって……『ピーターパン』だろ?行くとこなんて決まってるじゃないか」
……ピーターパンと言えば『ネバーランド』だけど……
「しょうがないなあ、この『ピーターパン』は。じゃあ、ワタシがお連れいたしますかv」
「ええっ!? 何処行くんだよっ!っておいっ!!」
なんだなんだ!?
俺があわあわしているうちに、和希は嬉々として俺の手を引いて会場を後にしようとしている。
「ちょっマテっ!和希!?」
「もうっvイケズなピーターパン様だ事vワタクシを攫って下さらないならワタクシが攫って差し上げますわvv」
なにを言ってるんだっこいつは!?
「攫うってっ!ちょっ和希!?」
「ピーターパンってしけ込むこと前提の提案だろ?いやもうっ、啓太がそんな大胆なこと考えてくれてるんだって思ったら、女装なんていくらでも出来るってものだよv」
最初にピーターパンネタを持ち出したのはそれが狙いダッタのか!
不純な事を純真無垢なウェンディーのカッコで言うな〜〜〜〜っ!!
抵抗を続ける俺に、和希はしびれを切らして……・
「そうか。『攫う』っていったら、やっぱり『お姫さま抱っこ』が基本か。やって欲しかったんなら早く言えよ〜v」
「いやっそうじゃなくっ!……うわああああっ!!」
あっというまに俺を抱き上げて、和希はわざわざ会場のど真ん中を突っ切って歩いた。
俺はすっかりパニックになって、周りの野次に答える事も出来ない。
「やっぱり啓太の足はきれいだなあv触り心地も良いし……もうウェンディーも我慢の限界だよv」
我慢の限界を感じるウェンディーはいやだ〜〜〜〜〜っ!!
「啓太〜v『Trick or Treat』v」
「お菓子あげても悪さする癖に〜〜〜〜!」
……結局。
俺は『ネバーランド』という名の理事長室に連れ込まれて……大人になってしまった。
逆襲なんて考えると、ろくな事はない。
次の日、限界まで我慢していた和希が要求した回数によって力のはいらなくなった足腰と、『ウェンディーに連れ去られたピーターパン』という、なんとも情けない称号を得て……
こんな事ならトランクスをはみ出させていた方がマシだったかもという後悔に襲われまくったーーーーー
END
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