貴方と私の夢の国

2013/01/08up

 

 

 

「おはようございまーす」
朝、いつものように、始業時間ギリギリで虎徹が事務所に飛び込めば、そこは普段と様相を変えていた。
とはいっても、机の位置がかわったとか、壁紙が変わったとか、そんな事ではない。
普段、確実に虎徹より早く着ているバーナビーの姿がないのだ。
「あれ……バニーは?」
事務職の同僚に尋ねれば、簡潔に「半休だそうよ」と返事を貰い、何かあったのかとは思いながらも、会社に連絡できる状況なら、事件に巻き込まれたとも思えず、虎徹は自分の書類に向き合った。
そして言葉通り、バーナビーは昼の休憩時間に現れた。
「午前中、すみませんでした。何か重要な案件とかありましたか?」
かけられた謝罪と言葉に、虎徹が回転式の椅子をくるりと回してバーナビーを視界に入れれば、珍しくロングのスカートを着ていた。
「おはよーさん。別に何にもなかったぜ。それよりその格好、珍しいな」
普段はライダーパンツを好んで着ている彼女が、ロングのスカートとは、何事かと虎徹はバーナビーを伺い見る。
「これから暫く、ズボンとはお別れです」
何かを決心しているようなバーナビーの真剣な瞳に、虎徹は更に疑問を持つ。
その気迫も虎徹には理解できない。
説明を受けていないのだから当たり前なのだが。
虎徹の首を傾げさせたまま、バーナビーは事務室を出て行った。
「……なんだぁ?」
普段の彼女なら、勤務に付いた途端、必ずパソコンを立ち上げて、自分に廻ってきている仕事を確認する。
それがない今日は、本当に虎徹にとって理解できない時間になった。
だがそれも、昼食後、ヒーロー事業部部長のロイズからの呼び出しで解決を見せた。
「困るんだよねぇ。恋愛関係は自由だけど、これはねぇ……」
「あの……何が困るんですか?」
「あーもう、本当に君はいい加減だな」
眉を寄せて、窓辺から部長席にロイズは戻る。
「バーナビー君、本当に君、産むきかい?」
「……産む?」
会話の端を捉えた虎徹は、その後30秒で、今日のバーナビーの行動を理解したのだった。
「おッ! お前! 普通は俺に一番に報告だろう! 妊娠は俺にだって……」
ソファに座っているバーナビーに振り返って通常を諭せば、バーナビーは何処吹く風と言った風情で、ソファで寛いでいる。
そして痛い言葉を虎徹に投げた。
「結婚しているわけでは無いですし、合意の下の行為でこうなっているんですから、虎徹さんは関係ないでしょう。この子は僕の子供です」
「おまッ! 俺以外に思い当たる節があるのかよ!」
「無いですね。ですが、婚姻関係にないあなたに、真っ先に相談するほどの問題ではないと思いますけど」
「そういう問題だ! 俺の遺伝子継いでる妊娠なら、真っ先に俺だろう!」
「ですから、遺伝子だけの問題だからこそ、その他の重要事項をロイズさんに相談しているんです。まだ3ヶ月ですから、ヒーロースーツに問題はないでしょうが、流産しやすい時期なので、産むまでのタイムスケジュールを相談させていただいていたんです。もし真っ先にあなたに報告すれば、確実に大事です。よくある流れ的に手を握って「結婚しよう」とでも言いそうなので、先に生活の問題を解決しておこうと思って」
長い説明の中の、虎徹には考えられない計算に、そしてバーナビーの言葉通りに行動していただろう虎徹の理解者の、ソファで寛いでいるバーナビーを虎徹はじっと見つめてしまう。
更に会話の中で何度も繰り返されている「婚姻関係」と言う言葉に、虎徹の眉間に皺がよる。
恋人としては、上手くやって来られたと思っていた。
仕事も私生活も共に過ごし、このまま行けば結婚だと思っていた虎徹には、衝撃のバーナビーの言葉だ。
娘の楓にも言う台詞を毎日考え、この先を夢見ていた。
当然その夢の中には、バーナビーとの子供もある。
固まった空気を崩してくれたのは、ロイズだった。
「君たち、今日早退していいから、そういう痴話げんかは自宅でしてくれないかな」
入り込んだ第三者の声に、虎徹はロイズに振り向き、バーナビーはため息をつきながらソファを立ち上がった。

 






妊娠ネタが大好きで死にそうです