彼とコンビを組めと言われた時、バーナビーは理解した。
それが、必要な事であると。
理由はいくらでも挙げられる。
まだ新人である事。
新人が一番目立つために必要な事。
そして、性別。
女は感情的になりやすいと言われている、一般論。
更に、その性別を隠しているが故に、危険が付きまとう事。
色々な理由を自分の中で確立させて、男に向かった。
問題点は様々に思ったが、それでも彼の重要性はすぐに理解したのだ。
自分が、ヒーローであり続けるために。
中略
犯罪者は、番組が用意したショーの為のような簡単な相手だった。
結局ポイントはバーナビーが取り、虎徹はその後ろで活躍を少し映されて、少々のポイントを稼いだ。
ヒーローとしては、もっと自分をアピールしなければならないのではないかと思っているが、それでもこれが彼のスタイルなのだと、最近バーナビーは思っている。
故に、彼がヒーローを続けている意味が解らなかった。
目立つ事に専念せず、かといって、ヒーロー業を投げ出さない。
更にバディの関係を深めるために、体の関係まで結ぶのだ。
バーナビーの体は、乳房と女性器を抜かせば、男そのものだ。
突っ込める穴さえあれば問題ないのかとも思うが、それでも男をひきつけるだけの魅力を、自分自身で感じられない。
もてはやされるのは、外に出るときの男装の所為か、女性ばかりだ。
もしくは子供。
目覚しく活躍するヒーローへの憧れで瞳を輝かせる女子供に、外での自分を再確認していた。
自分の目的が着々と達成しつつあるのを、実感できる。
だが結婚を経験し、子供もいる彼が、何故自分と体の関係を持ってまで、ヒーローをしているのかが解らないのだ。
そして案の定、今回も作戦が長引いた所為で、虎徹は娘との約束を果たせなかった。
バーナビーの家のリビングに漏れ聞こえてくる少女の怒声に、みっともないほど謝り続ける虎徹。
父として、娘の成長を見守りたい意気込みは理解してやれるが、彼の場合、その意気込みは空回りだ。
電話の後、うな垂れている彼に、バーナビーはお気に入りのロゼを差し出した。
虚ろな目で差し出されたワイングラスを受け取った虎徹は、盛大な溜息を吐く。
「反抗できるってことは、まだ楓ちゃんは親離れ出来ていないんですよ。しかも会えない事の不満を言ってくれるなんて、可愛いじゃないですか」
「そうかなぁ。そろそろ本気で愛想つかされそうだ」
虎徹はワインを情緒も無く煽りながら、それでも落胆からは逃れられない。
父親である彼も、バーナビーは好きだ。
飾らないその姿勢が、自分には真似できないと思っている。
年齢的に虎徹と楓の中間地点にいるバーナビーがかけられる言葉など、大して心にも響かないだろうが、それでも彼女の心情を予測してみた。
「10歳なんて、まだ父親が恋しいでしょ。だからこその怒りですよ。これがなくなったとき、あなたは真剣に悩めば良いと思いますけど」
そんな、うわべの言葉を投げかける。
バーナビーがその年頃には、もう親は居なかった。
親代わりのマーベリック氏は、バーナビーには文句の無い後見人だった。
やりたい事をサポートしてくれて、更にこの道を許容してくれている。
得たネクストは、女に適さないと訴えたバーナビーに、快くその道を示唆してくれた。
虎徹の娘は、父が健在だからこそ、甘えているのだ。
落胆してはいるが、当然虎徹も理解しているのだろう。
バーナビーが経験してこなかった親子の絆に、憧憬を見る。
自分が10歳の頃のことを考えてみれば、もう親の敵を必死に探していた。
他に視線など向かなかった。
ただ今になって思い返してみれば、随分と見なければならなかった事を見過ごして来ていた気がする。
ソレの結果が、今の虎徹との関係だ。
結局は、父性愛を求めているのだと、自覚している。
それでも血のつながりの無い、仕事仲間として強固な関係を築き上げるために、彼と行動を共にしている。
虎徹はワインを飲み終えて、当たり前のようにバーナビーのベッドに体を横たえた。
「ちょっと……今日も泊まって行くんですか」
「あー、今俺、精神的にグロッキー。人肌で慰めてくれ」
彼とベッドを共にして、人肌だけで済む筈がない。
バーナビーは盛大に溜息をついた。
「本当に元気ですね。まあ僕も、今が一番性欲旺盛ですけどね」
事務的な会話の後、当たり前のように、再び二人で肌を重ねた。
いつものように交わって、そして虎徹の胸に背を預けて、彼の指先を弄ぶ。
いや、正確には、左手の薬指に嵌っている、死別した彼の妻との愛の証を、だ。
根元でクルクルと回して弄んでいれば、虎徹はさり気なくそれを取り返す。
「……やっぱり、奥さん以外が触るの、いやですか?」
銀色の、一般的なマリッジリング。
永遠の愛を誓った、印。
さらには彼女との間には、一子がいる。
仕事とプラスアルファの関係しかない自分には、触れてはいけないのかと問えば、虎徹は困ったように眉を下げた。
「女々しいって、わかってるんだよ。だけど俺は、アイツに何もしてやれなかった。危ないと連絡を受けたのと同時に鳴ったのは、緊急招集音声だ。どちらを取るかの場面で、俺はヒーローを取った。結局、事件が終わった後に病院に駆けつけてみれば、あいつの顔には白い布がかぶせてあったよ。それでも布をあげてみたら、あいつは笑ってた。俺がヒーローをやる事を応援してくれていた。だからコレは、俺への戒めだ」
言外に、バーナビーが、親への復讐心を忘れないのと同じだと笑った彼に、バーナビーは更に顔を伏せる。
これ以上、優しくされたくなかった。
嵌ってしまう。
年齢を重ねた彼だからこそ、心に響く言葉を、いとも簡単に口に乗せる。
それに左右される、心。
それでも諦められない目標に、バーナビーは虎徹の左手を離した。
こんな危険な職業を選ぶのには、人それぞれ事情がある。
踏み込んではいけない場所に触れてしまったと、バーナビーはシーツを纏ってベッドを降りた。
高層マンションの高層階に位置している部屋からは、深夜だというのに明かりが消える気配は無い。
虎徹がこの部屋に来るまでは、それが唯一の世間とのつながりだった。
いともあっさりと世間に引きずりこんでくれた男に、自分が返せるものといえば、女としての役割ではなく、共に戦える条件を備えることだ。
だから、決してコレは恋ではない。
自分が中々言い出せなかった理由を、いとも簡単にバーナビーに伝えられる、大人の男。
焦がれて止まないものを、彼は全て持っている。
それでも恋ではないのだ。
暫く窓の外を眺めていれば、部屋の中にシャワーの水音が響き始める。
一人にしておいた方が良いと、彼が判断したのだろう。
がさつで、頭より先に体が動くタイプに見えるが、人の心の動きに関しては、その限りではない彼はもう理解している。
しっかりと確保された一人の時間に、今の鬱々とした気分を落ち着けようと、ベッドになだれ込む前に空けたワインのボトルからグラスに注ぎ、なるべくゆっくりと傾けた。
外では男で、一部の人間にしか本来の性別は知られていない。
女であることは、女であれるネクストをもつ人間にしか許されない事だ。
そして外で男である以上、虎徹とはこれ以上、踏み入った関係を持つべきではない。
わかっているのに、心のどこかで叫んでいる自分が抑えられなかった。 next
初のタイバニ本なので、おっさんに夢見すぎた感じでお送りしてますヽ(;´Д`)ノ
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