それでもやはり、ロックオンは男だった。
愛しい人を抱きしめて勃てば、もう気分は淫碑な方向に流れて行く。
冷めかかった雰囲気を引き戻す様に刹那の唇を舐め上げて、初めて懇願した。
「なあ、刹那……させて」
ずっと誘われていたのを断っていたのはロックオンだったが、今はもう我慢が出来ない。
しかも今までの経緯を考えれば、断られる事などないと思い込んで、雰囲気満々でロックオンは刹那の体を撫で上げた。
だが、ここでもロックオンは過去の自分に後悔することになる。
「『させて』とは、なんだ」
刹那の言葉を勝手に解釈して事を進めようと、ロックオンは反応している下半身を刹那に押し付けた。
「そうだよな、もう俺の嫁さんだもんな。頼むなんて可笑しいか」
細い太腿に成長した息子を布越しに擦り付けて、刹那のターバンに手をかける。
そのまま脱がそうとした所で、思いっきり刹那に体を押し除けられてしまった。
「………あれ?」
思いもよらなかった拒絶に、場にそぐわない間の抜けた声を上げてしまう。
刹那はもぞもぞとロックオンの下から這い出て、ベッドの上で正座の姿勢を取る。
「だから、何をしたいんだ。俺のターバンをどうするつもりだ」
「え……………と?」
真顔で問うてくる刹那を、思わず凝視してしまう。
あれだけ男の性を調べていた刹那から、まさか今更行為に対して質問が及ぶとは思わなかったのだ。
だが、どう見ても刹那は本気だった。
本気で現状を理解していないのが、ありありとロックオンに伝わって来た。
今まで二人でベッドの上で抱きしめ合い、更に愛まで囁き合って、キスまでしたのに、どうして伝わらないのかと、ロックオンは考える。
だが、はたと気が付いた。
今までずっと同衾して来た自分達にとって、ベッドで抱き合うのは珍しい事でも何でもない。
しかも、お互いあまり寝相がよくなく、朝に気が付くと、ロックオンが刹那を敷いている事もあったし、刹那がロックオンにのり上がってる事も多々あった。
キスは一区切り付けてしまっていたし、寝る前にベッドの中で会話をする事もあった自分達には、現状はまったく珍しい物ではなかったのだ。
つまりは、刹那はロックオンとベッドに入っても、それが直接特別な事と認識出来ない、と言う事で。
現状が理解出来ないのは、今までのロックオンの指導の方法の所為だった。
過去の自分を思わず呪ってしまうが、もう遅い。
冷めてしまうとは思ったが、それでもこの先を考えれば、今説明しなければ、この先色気に溢れた生活は望めない。
ロックオンはため息をついて、刹那に習う様にベッドに正座の姿勢を取った。
「あのですね……一般的には、男女でベッドの上で抱き合ってれば、セックスになだれ込むんですよ、刹那さん」
「……つまりは、ロックオンは俺とセックスをする気になったと言う事か」
「ええ、だから『させて』って言ったんです。ちなみに俺は、お前のターバンをどうにかしようとした訳じゃなく、普通に服を脱がそうとしたんです……」
事の説明を一から十まですると言う事が、これほど萎えるとは思わなかったと、ロックオンは項垂れる。
先程まで元気いっぱいだったロックオンの息子は、ロックオンの気持ちに合わせる様に、しゅるしゅると小さくなった。
そんなロックオンに構う事なく、刹那は口を開く。
「そうか、それは嬉しい。主語がなかったから理解出来なくてすまなかった。だが服は脱がさない方がいいと思うが」
「……なんで?」
気力を削がれてはいるが、取りあえず頑張ってロックオンは答える。
「俺の体型は、お前が勃起出来るまでにまだなっていない。勃起を優先させるなら、下半身だけを脱いだ方が効率的だと思う」
「……そんなマニアックな趣味は、俺はないです……。俺は普通にお前を愛してるから、セックスがしたいんです……」
ロックオンの言葉に、刹那は顎に指を当てて考え込む。
「俺はAカップにも満たないが、それでもお前は勃起出来るのか? Dカップじゃないと勃起出来ないんじゃなかったのか?」
心の底から心配そうな声を出す刹那に、ロックオンは大きくため息をつく。
「だからですね……それは、俺の根本的な好みと言うか、好きなアダルトデータのタイプと言うか、ぶっちゃけ恋愛感情無しで抜ける女なタイプであって、恋愛対象とは別物なんです。刹那は別格なんです。なんと言っても愛してますから」
「愛していれば、Dカップでなくともお前は勃起出来るのか?」
「はい、出来ます。イン ●じゃないです。その辺は刹那も理解していると思ってたんですけど……」
以前の初めてのセックス騒動の時に、刹那が滔々と語った生物の繁殖行動に付いてロックオンが指摘すれば、刹那は視線をまっすぐにロックオンに固定したまま、恥じらう事なく誤解の元を説明してくれた。
「俺も初めは愛があれば男性はセックスが出来る物だと思っていたが、お前は俺が女だと知りつつずっと優しかったが、俺が裸になった時は勃起出来なかった。だから愛だけでは出来ない物だと思っていた」
つまりは、ここでもやはりロックオンの所為と言う事で。
勘違いも何もかも、刹那はロックオンから学び取っていたのだ。
そう解れば、ロックオンに言える言葉など、一つだけだった。
「……すみません。鈍い俺が悪いんです……」
自分の感情に気が付く事が出来ずに、過剰な愛情を注ぎ続け、言ってしまえばロックオン自身が刹那を煽った様な物だ。初めての排卵を喜んだのは、おそらくそんな経緯なのだろうと、今のロックオンなら理解出来る。
刹那が愛情を返そうとしたのも気が付く事が出来ず、更にそれを拒み続け、悩ませて来たのだ。その上のこの言葉に、ロックオンは申し訳なさと不甲斐なさに、顔を両手で覆ってプルプルと震えてしまう。
「謝られるのはよく解らないが……それと、何故さっきからお前は敬語なんだ?」
「いやもう……こう、いたたまれない感じで……」
自己嫌悪に苛まれているロックオンを、刹那は不思議な気持ちで眺めた。
というか、理解出来なかった。刹那にとっては、ロックオンがその気になってくれただけでもありがたい話だったからである。その上、刹那を嫁に貰ってくれると言うのに、何がいたたまれないのか。
首を傾げつつ、それでもこの機を逃してはならないと思い、俯いているロックオンを置いて、自らの服に手をかけた。
俯いている自分の前から衣擦れの音が聞こえて来て、何事かとロックオンは顔を上げる。
すると、刹那がいつもの様に丁寧に洋服を脱ぎ始めていた。
「……な、なにやってんだ、お前」
今はまったくそう言う雰囲気ではない。
なのに刹那は洋服を脱ぎ始めている。
関連性が解らず、それでも目の前で晒される刹那の肌に反応しかけている下半身を気にかける事もせず、ロックオンは尋ねた。
そのロックオンの問いに刹那は答える事なく、下着まで全て、ロックオンの目の前で脱ぎ終える。
その上、脱いだ洋服を丁寧に畳んだ。
「せ、刹那さん?」
一連の行動を終えると、刹那は再びロックオンの前にきちんと正座をして、更に朝にしている謎のポーズをとる。
ベッドの上に両手の平を付いて、指を揃えて頭を下げる。
「……『ふつつかものですが、よろしくおねがいいたします』」
「…………はい? なに?」
刹那は英語でも共通語でもない言葉を口にした。
ロックオンは当然、それが何を意味しているのか解らない。
言葉の意味以前に、何語かも理解出来なかった。
刹那は、ロックオンが情報で見た事のある土下座スタイルの頭だけ上げて、ロックオンの疑問に答える。
「情報にあった。ヤマトナデシコは、セックスの前にはこう挨拶すると」
「えーと……って事は、それ日本語か? お前、いつの間にそんな言葉覚えた?」
「お前が日本人が好みだと言ったから勉強した。まだ勉強中で、流暢とまでは行かないが、それなりに話せる様にはなっていると、スメラギに言われている」
「……Oh my……」
思わず額に手を当てて、天井を仰ぎ見てしまう。
徹底してロックオンに合わせようとする刹那に、ロックオンは目眩を覚えた。
これでは刹那の個を否定してる様に感じてしまう。
それにしても驚くのが、刹那の頭脳だ。
最初のセックス騒動の時から勉強し始めたと考えても、そんなに時間は経っていない。それで一つの言語を習得するとはと、ヴェーダが神経症を患っているにも関わらずに、年齢も関係なく推薦した理由を理解してしまう。
後は一般常識さえ身につけられれば問題ないのだろうと、裸の刹那を目の前にして、思わず考えてしまった。
額を抑えたロックオンに対して、刹那は申し訳無さそうな顔をする。
「すまない。この言葉をどう英訳していいのか解らなかったんだ」
「英訳って……どうして」
「お前の母国語は英語だろう。やはり慣れ親しんだ言葉の方がいいだろう?」
「………どうして解った?」
先程、ロックオンは曖昧に出身を告げたが、欧州には様々な言葉がある。
フランス語にイタリア語、ドイツ語など、代表的な物だけでも指折り数えられるのに、刹那は断定した物言いをした。
理由を尋ねれば、あっけらかんと刹那は答える。
「これだけ多種多様な民族を見られる場所に居るんだ。共通の癖は解る。お前の言葉の癖は、英語圏の人間の物だと理解している。今さっきだって『 Oh my God』と言おうとしただろう。イタリア圏なら誤摩化すにしても最初にくる発音は『M』だ。ドイツ語圏なら『A』。フランス語圏にしては、ハッキリと『H』の発音をする。コロニー出身なら共通英語で育っているから、独特の言葉は出ない」
あまりの観察眼に、ロックオンは開いた口が塞がらない。
黙って人を見つめる子供だとは思っていたが、まさかこんな能力があるとはと。
15歳などとは考えられない能力に、刹那を見つめてしまう。
「お前……凄いな。流石その歳でマイスターに選ばれる訳だ」
「お前程ではない」
「いや、俺はお前の歳じゃ、そんな事出来なかったから」
この観察眼なら、ロックオンが自分で気が付いていなかった刹那への気持ちなど、刹那には駄々漏れだったのだろうと笑ってしまう。
だがやはり子供だ。
そうロックオンが思うのは、情報ばかりに思考が走り、男一人まともに誘う術を持っていないのが解るから。
頑張っているのは解るが、それが解るが故にそう思ってしまう。
今も刹那は、ロックオンを誘う事に集中していて、自分の能力を示してしまったなどとは思っていないのだろう。
全裸で男の前に居るのに、色気のない姿に笑ってしまう。
しかもセックスを前提としていると、自分でも言っているのにだ。
だがそこが可愛い。
ロックオンは、刹那の全裸よりも、きょとんとした無垢な赤褐色の瞳に、ふるっと背中を野生動物の様に振るわせた。
そして全裸の刹那を、背中から掬う様に自分の腕の中に納めて、細い顎を支えてもう一度唇を合わせる。
刹那も先程の経験から、素直にロックオンに唇を開いて舌を差し出した。
それを絡めとり、軽く擦り合わせて唇を離す。
唇を離せば、キスにうっとりとした表情をする刹那がいた。
その顔は、今までに見た事もない程色気が備わっていて、軽くロックオンを驚かせる。
だが次の瞬間、何かを思ったらしい刹那が体を捩らせたのを、ロックオンは腕に力を入れて押しとどめた。
「……ロックオン、離してくれ」
「なんでだ?」
おそらく、ロックオンの知らない情報で刹那が動くと予想して問えば、刹那は情報ではなく、生物学的な事を口にした。
「脚が、開けない」
「……脚?」
「お前の陰茎を挿入する為には、俺の脚を開かなければいけないだろう?」
「………あ、ははははは……はぁ」
思わず乾いた笑いを零したあと、ため息をついてしまう。
結局は、この子供は何も解っていないのだ。
自分のアダルトデータを見られているので多少は理解していると思っていたのだが、考えてみれば、ロックオンは女が奉仕するデータが好きで、そんな物ばかりが蓄積されていたのを思い出す。
アレを見て、セックスを理解するのは無理だと、自分の趣味さえも呪ってしまった。
それにその手の情報は、大抵成人していなければ見られない様になっていて、 CBの未成年の端末には、厳しい規制がかかっている。
刹那が情報を集めるのは無理なのだ。
改めて、自分が犯罪に手を染めようとしているのを自覚してしまう。
いや、『犯罪』というカテゴリーなら、未成年に対する性行為など、ロックオンには取るに足らない罪なのだが。
「……ホント、今更だしな」
「何がだ」
ぽろっと零してしまったロックオンの言葉に、刹那は不思議そうにロックオンを見つめる。
その返答の様にもう一度軽く刹那の唇にキスを落として、ロックオンは今度こそ刹那をベッドに押し付けた。
間髪入れずに、深く刹那の唇を塞ぐ。
それと同時に脚を絡めて、刹那の動きを封じる。
刹那が諦めずに身体を捩るからだ。
「んっ……ふぅんっ……」
深く舌を絡め合い続ければ、刹那の鼻からは耐えきれない様な喘ぎ声が漏れる。
意図して出していない限りは、喘ぐ女と言うのを見てこなかったロックオンにとって、それは大変に興奮を促した。
段々、刹那の抵抗する様な脚の動きもなくなって来て、幼い唇を貪り尽くして離す頃には、刹那はとろんと快感に身を浸した表情をしていた。
幼さの中の色気に、今までに感じた事のない興奮を、ロックオンは覚える。
それでも一言釘を刺す理性だけはたぐり寄せた。
「……これからするけど、お前は俺の事だけ考えて、何もしようとするな」
「何故だ? 俺も動かなければいけないのでは……」
「女はそんな事考えなくてもいいんだよ。……ま、慣れたら少しは頼むかもしれないけど、初めてなんだから、男の体を思う存分感じてろ」
これ以上何か面白いことをされれば、ロックオンに……いや、男にとって大変に不名誉な結果を、好きな女に晒す羽目になってしまうと、端から見ていれば爆笑物の刹那の行動を封じる。
どこの世界に「セックスをします」という流れになって、「じゃあ脚を開きます」と答える女がいると言うのか。
いや、ここにいるのだが。
どこかの飲み会の笑い話に使ってやろうと、思わず考えてしまう程、刹那は面白すぎた。
だが、笑いで気力を削がれている場合ではない。
刹那は初めてなのだ。
初体験での快感や痛み、羞恥で、その先セックスレスになってしまう女性もいると言う事を、ロックオンは聞いた事があった。
万が一にもそんな目に合わせたくない。
そして自分が拓く身体がそんな事になっては、本気でこの先男として生きて行けないと、気を引き締める。
そんな事を考えて緊張しているロックオンとは裏腹に、刹那は相変わらずの無表情で、どっしりと構えているように見える。
ロックオンはソレにも気がつけずに、童貞かと思われるほどオドオドとしてしまうが、それでも言葉だけは発した。
「……これからはちゃんと、愛し合おうな」
自分たちはこれから『男』と『女』になるのだと囁けば、刹那は少しだけ瞳を揺らして、それでも頷いた。
あれ…えちにたどり着きませんでした(汗)。すみません(ジャンピング土下座)。
うちの兄さんは、大人でもなく頼れる人でもない、唯の直情型のビーストです更にすみません…
基本的に、このシリーズはライルが基準で、その反対がニール、という感じです。
果てしなく世間と逆で本当にすみません謝りまくりますっ。
次回は本格的にベッドインです。でもギャグ入りますけどね(汗)。
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