will~オーダーメイド6

10/03/12up

 


 一連の騒動が過ぎ去った後も、刹那の行動は変わらなかった。
 朝はロックオンよりも早く起き、朝食の支度をする。
 そしてロックオンが目覚める前には部屋の中は整っていた。
 ただ酒だけは懲りたらしく、相変わらず牛乳は飲み続けているが、それ以外の物の摂取は考えなくなったようだった。
 その生活にロックオンが慣れて来ると同時に、ロックオンは気持ちを抑える事が難しくなって来る。
 今までよりも常に刹那に視線を向け、自分の周りをちょこまかと動き回る様子を何とは無しに眺める。
 それが幸せで仕方が無かった。
 それでもそれ以上の関係を刹那と築けるかと言われれば、それには相変わらず躊躇をしている。
 ただロックオンにとってラッキーだったのは、刹那が酔った時に起こった二人の間の事を、すっかり忘れ去っている事だった。
 ロックオンが刹那の肌で勃ち上がってしまった事実は、今の所ロックオンとスメラギしか知らない。
 そして最近は夜毎に刹那の寝顔で処理をしている事など、当然ロックオン以外に知る者はいなかった。
 それでも日々成長して行く自分の心に、ロックオンは一つの決断を下す。

 夜、シャワーをお互いに浴びた後、いつもの様に刹那がロックオンの場所を空けてベッドに入ったのだが、ロックオンがそれに続く事は無かった。
 並べていた枕を自分の分を手に取り、暫く使われていなかった自分のベッドに向かう。
 その行動の意味が分からずに、刹那は呆然と口を開いた。
「ロックオン……?」
 彼の好みになろうと調べた『ヤマトナデシコ』の作法に添って、壁際にいつも寝ていた刹那は、布団に入る順序は変えなかったが、それでもロックオンが身体を横たえるまでは掛け布団を捲った状態でベッドの上で正座で待っていたのだが、ロックオンがいつもと違う行動を取った為に、リズムを崩す。
 そして自分から離れて行くロックオンを呆然と見つめた。
「…もうお前も、誰かとセックス出来ると思う位は、触られても平気なんだろ。だから今日からは俺は自分のベッドで寝る」
 視線を逸らせながらのロックオンの言葉に、刹那は一瞬何を言われているのか解らなかった。
 だが本格的にロックオンが、刹那のベッドと部屋の対になる壁側に設置されているロックオン用のベッドに乗り上げた所で、何とか自分の所に引き戻そうと口を開く。
「……俺は『誰か』とセックスが出来る訳ではなく、お前と出来ると言った」
「俺でも何でも同じ。クリスやリヒティに触られてもお前、最近平気だろ。年頃の女が、必要性もないのに男と同衾なんかするもんじゃない」
「必要性はある。同衾しなければ、セックスが出来ない」
「するつもりは無いって言ってるだろ。だからお前ももう今日からは一人で寝ろ。問題があったら起こせ。いいな?」
 結局視線を合わせる事なく、ロックオンは刹那に背を向ける様にベッドに潜り込み、口を閉ざしてしまった。
 あまり見ないシーツが人の形に盛り上がった様子を見ながら、刹那は顔を俯かせる。
「……それは、お前が決めた事か」
 くぐもった刹那の声にロックオンの心は痛んだが、それでも刹那にこれ以上の期待を与えてはいけない。
 どんなに体術が優れていようとも、刹那はまだ子供だ。
 ロックオンと関係を持つと言う事が、どういうことになるのかを理解しているとはロックオンは思えなかった。
 だから、なるべく冷たい声色で返答した。
「ああ、俺が決めた事だ。お前の精神状態はもう至って健康。俺の役目は終わり。解ったら寝ろ」
 必要な言葉だけ選んで放ち、これ以上話す気はないと表現する様にロックオンは更に深くシーツに潜ってしまう。
 そして沈黙が訪れた。
 暫く部屋の空気を探っていたが、刹那が動く気配を感じて、ロックオンは集中する。
 奮起してロックオンのベッドに来るかもしれないと、少し考えていた。
 だがそれは希有に終わり、刹那が自分のシーツに潜り込む衣擦れの音が聞こえる。
 あっさりと引き下がられて、やはりその程度の物だったかと、ロックオンは少しの落胆と、安堵を覚えた。
「電気、消すぞ」
「ああ」
 久しぶりに夜の時間に遠くから刹那の声を聞いて、手元のリモコンに手を伸ばす。
 音もなくタッチパネルに触れると、部屋の照明が落ちる。
 残った明かりは、非常用の出入り口に設置されている蛍光塗料と、ベッド脇に設置されているパネルの淡い光だけになった。

 静かな空間に、二人の重なる事のない息遣いだけが響く。
 腕の中に何もない喪失感に、ロックオンはシーツをたぐり寄せて抱きしめる。
 自ら手放した熱を、補う様に。



 翌朝、ロックオンはいつもよりも早い時間に目覚めた。
 慣れてしまった熱が腕の中に無い所為で、熟睡出来なかったぼーっとした思考を必至に巡らせる。
 刹那のベッドを見遣れば、やはりそこには刹那の姿は無かった。
 夕べ、徹底的に撥ね付けたロックオンの態度に、思い改めてまた眠っていると、少し期待した。
 久しぶりに寝顔が見られるかもしれないとも思ったが、それは叶わなかった。
「あー……」
 誰もいない部屋の中で、遠慮なく寝起きのぼさぼさの髪の毛を掻きむしる。

 自分で手放したと言うのに、早々にロックオンは後悔を感じていた。
 暖かい刹那の体。
 刹那と出会うまでに感じていた寂しさが、それで補われていたと言う事を痛感した。
 精神問題は刹那だけではなく、己にもあったのだと漸く理解したのだ。
 おそらくスメラギは、その事に気が付いていた。
 ただ刹那だけを育てるのなら、役目はロックオンではなくスメラギ自身でいいのだから。
 刹那の性別を考えれば、それが自然だ。
 この先、冷静にチームを引きいらなければならないロックオンの問題も、一気に解決したかったのだろう。
「……もしかして、刹那より俺の方が問題だったのかも……」
 訓練の成果は、刹那と合流してからの方が格段に上がった。
 元々の射撃の成績だけではなく、状況判断と言う点に置いても。
 ロックオンだけが特別に加えられている、戦略ミッション構築の訓練は、以前よりも仲間の生存確率が上がっている。
 スメラギには当然到底及ばないが、現場の取りあえずの指示には事欠かないまでに成長した。
 その訓練の時、ロックオン自身気が付かないうちに刹那を頭に過らせていた。
 彼女が(最初は彼だと思っていたが)生き残る為の手段として、これは正解か否か。
 人の命を考えるミッションプランは、理屈や理論だけでは完成しない。
 人は機械ではない。
 心を考えて、人となりを理解しようとして、初めてミッションは成功させられる。
 頭では解っていた事だが、実際の理解には程遠かった。
 その切っ掛けが刹那だった。
 刹那が男だと思っていた事や、年齢などの表面的な問題を、ロックオンは無意識のうちに感じて己をセーブしていただけだったと、刹那と離れて眠った後の、この言いようの無い喪失感で感じた。
 結局は、何を思っても今、ロックオンが刹那を求めている事には変わりない。
 そして無意識のうちに求めていた相手を、そう簡単に手放せる訳もないのだ。

 それでもロックオンは、まだ己の考えにしがみついていた。
 これでよかったのだと。
 刹那にとって、これが幸せの道なのだと。

 だがそんな決心も、直ぐに崩れることになる。

 ベッドにいなかった刹那が、最近の恒例で、ロックオンのいつもの起床時間に合わせて部屋に戻って来た。
 既に起き上がっていたロックオンに向かって、刹那にとっては慣れない場所に膝をつき、情報通りの挨拶をする。
「今日は早かったんだな。申し訳ない」
 夕べ、酷い扱いをしたロックオンに対して、相変わらず殊勝な刹那の言葉に、頭を抱える。
 まだ諦めていないと、その刹那の態度は表していたからだ。
 ロックオンの枕元に、いつもの様にロックオンの洗濯済みの洋服を整えて、刹那は踵を返す。
 そして今までは一組だったシーツを二組み出して、当たり前の様にロックオンを振り返った。
 最近はロックオンも刹那の行動に慣れて来て、刹那に出された洋服を普通に受け入れ、そのまま洗面所へと向かっていたのだが、流石にロックオンはこの日は出来なかった。
 目が覚めてから考え込んでいた、ベッドに上半身を起こしただけの姿勢で、ロックオンは再び髪の毛を掻きむしる。
「……あのさぁ、こんな事、しなくていいんだぜ」
 もう必要以上に刹那に関わる事は無いと……否、なるべく遠ざけなければと思っているロックオンは、己の趣味の女性になろうとしている刹那の行動を咎める。
「……差し出がましいか?」
「そう言うんじゃなくって……はぁ」
 体中の空気を抜く様にため息をつくロックオンを、刹那は伺う様に覗き込む。
 部屋以外では決して見せる事の無いその刹那の表情は、ロックオンの心を更に苛む。
 可愛いと、思ってしまうのだ。
 どんなに頭の中で否定しようとも、一度気が付いてしまった事を無かった事にも出来ずに、思いは更に募るばかり。
 朝の事情は落ち着いたと言うのに、その顔だけでまた持ち上がりそうな下半身を自覚する。
 振り切る様に刹那を押しのけてベッドを降りて、ロックオンは洗面所に足を向けた。
 その行動の中、刹那に言葉をかける。
「俺の好みになんて、なったって仕方ないだろ。普通に女の子らしくすればいいだろ。普通でいいんだよ」
 視線も合わせずに言い放たれたロックオンの言葉に、刹那は首を傾げる。
「……これが普通なのではないのか?」
「さあ、その辺の事情は俺には言えないな。女性陣にでもリサーチしてみな」
 ヘタに口を出して今までの二の舞になっては困ると、刹那の問いかける視線を無視してロックオンはユニット形式の洗面所に入った。
 そして自覚出来ない範囲で刹那を受け入れる。
 以前は使う前には必ず洗っていたカミソリを、シェービングフォームの後に当たり前の様に何もせずに使用した。
 もう刹那が身の回りの世話をしてくれる事に慣れきってしまっていた。

 それでも次の朝も変わらずに起こしに来た刹那に、形だけはため息をつく。
「おい、もうしなくていいって言っただろ」
 前日の会話を思い出させれば、刹那はそれに対して自信満々に答えた。
「お前に言われた通り、スメラギやクリスティナに聞いてみた。そうしたら俺は俺がなりたい女になればいいと、助言を貰った。俺がなりたいのは、お前が好みの女だ。だからこれでいい」
 甲斐甲斐しくロックオンの身の回りの世話をする刹那に、もうため息も出ない。
 無くなったら無くなったで寂しく思うくせに、ロックオンは変な意地を張る。
「だから、俺の好みになってどうすんだっつーの」
「当然、お前を勃た……いや、なんでもない」
 あからさまに言葉を発してしまった後、刹那はロックオンの言いつけ通りに、その言葉を濁した。
 はしたない言動は、ロックオンの好みではないと思っている所為だ。
 意図がアリアリと解る刹那の言動行動に、当てつけの様にロックオンは刹那が用意した物とは別の洋服を手に取った。
「ぜってーしねぇ。お前とだけはありえねぇ」
 どこの思春期の男の子だと言われそうな行動を、ロックオンは気が付かずに取る。
 その手に取った洋服も、全て刹那が世話をしてくれていた事に、もうこの時には気が付く事が出来ない程、当たり前のことになっていた。
「……解った。一層の努力をする」
 そんなロックオンに対して、刹那は少しだけ視線を揺るがせた後、いつもの様にベッドメイクをする為に洗い立てのシーツを手にした。



 そうして意地を張り合っているうちに、時間は流れた。
 刹那も大分体が出来て来たと医療チームにも太鼓判を押され、本格的に刹那に対する指導は終了と言う事がロックオンに伝えられた。
 ロックオンの端末に送られて来たデータでは、刹那は歳平均の女の子よりも筋肉量も多く、体重はまだ軽いと分類されてしまうが、体脂肪率を考えれば及第点以上の物を維持出来る様になっていた。
 スリーサイズに視線を落として、『野郎と変わりねぇじゃねぇか』とロックオンは心の中で呟くが、それでも刹那に対する思いは消えない。
 うっすらと盛り上がっている胸元を思い出して、慌てて思考を払う。
 だが思考は刹那の体から離れない。
 次に思い浮かべたのは、子鹿の様な細い、だがしっかりと筋肉の付いた形のいい脚。
 その上を辿れば……と思わずまた考えてしまい、更に頭を振って思考を追い出す。
 丁度、そのデータが送られて来た前の日に、サニタリーで刹那をネタに抜いてしまったのがいけなかったと後悔してしまう。

 意地を張り合っているこの時間、ロックオンは刹那との時間を過ごす事も出来ず、妄想は膨れるばかりだった。
 思い起こすのは、酔った刹那の肌。
 上気した肌で、とろんとした視線で、ロックオンを求める。
 実際にはその先は無かったのだが、ロックオンの脳内では先が出来上がっていた。
 小麦色の肌に己の唇を落とし、刹那が己の息子を愛撫する。
 我慢の限界まで待つ事無く、ロックオンは刹那の中に入るのだ。
 そして上がる刹那の嬌声。
 聞いた事の無いそれは、数々のアダルトデータの中の女優で刹那に似た声の持ち主の物だったが、蕩けた刹那の顔だけで、ロックオンは何度も達していた。
『あっ、ロックオン! おっきいの気持ちいい……! 中に出してぇ!』
 ……などと、刹那なら言わないであろう台詞まで頭の中で構築してしまい、普段でさえロックオンは刹那にまともに接触出来なくなってしまった。

 挙動不審なロックオンを、刹那は訝しげに見つめていたが、このこう着状態を打破しなければ、刹那の望みは叶わないと、ロックオンが刹那に視線を向けていない隙に、刹那は画策していた。
 心痛な面持ちで持ちかけられる相談は、実際にはかなり破廉恥な物であったが、それでも周りの人間はロックオンと刹那の関係を見てしまっているが故に、一大事だと刹那の相談に乗る。
 実際に付き合っている訳ではないのだから性交渉が無くても当たり前なのだが、クリスティナやリヒテンダールやラッセは、二人が唇を合わせている場所を目撃している。
 更にスメラギなど、情事の雰囲気満々で、ロックオンが刹那で勃っている所まで目撃しているのだ。
 コレで何も無いなど、刹那の情緒が不安定になるのではと、心配しているのだ。

 そして刹那は決行する。
 最近は『少しは女の子らしくなったね』との社交辞令も受ける様になり、もしかしたらとの期待を胸に、再び端末に向かってある物を注文した。
 それはロックオンに手渡される前の、ロックオンがおそらく好みだと判別されるアダルトデータから検索した物だった。

 最近は、刹那がロックオンの世話をしても、文句を言われる事は無くなった。
 そしてそれを当たり前の様に受け入れてくれるロックオンに、最初とは違う希望が見出せたのだ。





 ロックオンが夕食後、同じ年頃の仲間と少量のアルコールを交えながら交流して、最近は意図して刹那の就寝時間より遅く部屋に戻っていた。
 いつもの様に部屋の電気は落とされて、刹那が寝息を立てているであろう事を想定して、そっとドアを開ける。
 シュッと消音設定にしたドアが静かに開いた直後、ロックオンは固まった。

 視線を落としながらドアを開けたロックオンの目に飛び込んで来たのは、見慣れた素足だった。
 ココはロックオンと刹那の部屋で、そんな無防備な格好をしているのは刹那だけだと理解出来、普通に声をかけようと視線を上に上げた瞬間。

「……いやあぁぁああああぁああ!」

 まるで乙女の様な悲鳴を上げて、ロックオンは慌てて開けたドアを全力で拳をパネルに叩き付けて閉じた。
 衝撃的な場面を見てしまったからだ。

 部屋の中にいたのは、刹那で間違いは無かった。
 だが、その格好があまりにも凄まじかった。
 あの刹那が、ピンクのすけすけのベビードールを着て、仁王立ちでドアの前に張り込んでいたのである。

 色っぽい格好の筈が、着ている当人が刹那と言う事もあって、どこかイメージは違う物になっていたが、それでも欲望の対象になっている物をいきなり見せられて、平静でいられる訳が無い。
 閉じたドアに背を向けて、ドキドキと胸を打つ鼓動を手の平で抑えて、一体今のはなんだったのだと思い返す。
 何とか落ち着かせようと深呼吸をしていると、背後のドアからドンドンと叩く音がする。
『何故閉める! 入ってこいロックオン!』
「そんな格好でお前がいる部屋に入れるかぁ!」
 はっきり言って心臓に良くない。
 今ので寿命が10年は縮んだのではないかと思ってしまった。
「早くいつもの服に着替えろ! 俺はもうちょっと部屋を空ける!」
 絶対に、今日のオカズは今の刹那だと頭を抱えて、ロックオンは部屋を後にしようと再び廊下を戻ろうとした。
 だが、この日の刹那は一味違った。
 再びシュンッとドアの空く音がして、刹那が部屋から躍り出て来たのだ。
「何がいけない! お前の好みの格好だろう!」
 再び体のラインを微妙に晒した刹那が目の間に出て来て、反射的にロックオンは駆け出した。
「そんな格好で俺の前に現れるなぁあ!」
 目の前で下半身が反応してしまっては、もう誤摩化しはきかない。
 そう思ってロックオンは元居た談話室に向けて走り出したのだが、背後からもう一つの走って来る音が聞こえる。
「逃げるなロックオン! いい加減に腹をくくれ!」
 そう叫びながら、公共の場の廊下を、刹那は全力疾走でロックオンを追いかけて来ていた。
 走る度に、元々短い丈のベビードールがまくれ上がり、下着がギリギリ生で見えるか見えないかの、男として視線が釘付けになる姿に、ロックオンの独占欲が顔を出す。
「ばっ! バカやろおぉ! そんな格好で部屋から出てくるなぁーっ!」
 慌てて回れ右をして刹那を小脇に抱えて、部屋まで駆け込んだ。


 思いっきり勢いよく部屋に駆け込んで、すかさず部屋のドアを閉める。
 もう、ロックオンはぐったりと疲労を感じていた。
 滅多に無い肩で息をする程、疲れきっていた。
 それでも好きな女の刺激的な格好に、意識は刹那に向いている。
 視線は向けてはいけないと自制しながら、鼻の奥がつんとする感覚に、鼻と口元を手で覆う。
 無言のロックオンに、刹那はロックオンの腕から降りると、再びロックオンにその格好を見せつける様に堂々と仁王立ちの姿勢を取った。
「どうだ。コレでまた俺と一緒に寝る気になったか? 取り寄せるのに時間がかかってしまってすまなかったが……」
 殊勝なんだか威張っているのか解らない刹那の言葉に、ロックオンはちらりと刹那に視線を送る。

 格好は可愛い……と思う。
 ただその下着の使用用途は、可愛らしさを演出する為の物ではなく、いやらしさを演出する物だと理解していた。
 だが、豊満なボディに施されればいやらしいシースルーの生地や、胸元のリボンやレースは、素晴らしく真っ平らな体に纏わせれば、可愛さしか強調してくれなかった。

 下半身に熱が溜まる感覚を覚える。
 好きな女がこんな格好で迫ってくれば、ロックオンとてただの男だ。抵抗しきれない。
 だがそれでも……と、まだ往生際悪く、ドアに寄りかかって踞って頭を抱えていると、ロックオンが思ってもいなかった刹那の言葉が溢れた。
「お前が俺を拒む、本当の理由はなんだ」
 男らしく仁王立ちのまま、刹那はロックオンを見下ろして問いかける。
「お前は以前、俺では勃起出来ないと言っていたが、今では俺で性欲処理をしているのも知っている。なのに何故、本人には手を出してくれないんだ」
「お……まえ、何言って……」
「毎日、お前のシーツやら洋服、寝間着、下着を洗濯しているのは俺だ。匂いの違いに気が付かない訳が無いだろう。それに以前は同じベッドで性欲処理をしてくれていたのに、何故離れてする。目の前の方がやりやすいだろう。態々トイレで俺の事を呼ばなくても、俺はベッドから逃げない。ずっとお前を待っていた」
 知られているとは思っていなかったロックオンは、瞳がこぼれ落ちんばかりに目を見開いた。
 そこでふと、以前遊んだ事のある女に言われた事を思い出す。
 その女は、ロックオンが気が付かないうちにイク時に喘ぐと指摘していた。
 それが可愛いと、年上の彼女はロックオンを抱きしめたのだ。
 自己処理の時も気が付かないうちに同じ様にしていた事を指摘されて、あまりの恥ずかしさにロックオンは首まで赤く染め上げた。
 そんなロックオンに構う事無く、刹那は言葉を続ける。
「俺はお前の精子が欲しいと言った。今でもそれは変わらない。お前の子供以外、俺は産みたいとは思わない。ミッションに異論は無い」
 刹那の言葉に、ロックオンは見張っていた目を戻して俯く。
 結局は、刹那は勘違いのまま事を進めているのだ。
 こんな格好をしてロックオンを誘うのも、ミッションだと勘違いしている所為だと、この場に来てもロックオンは思った。
 大きくため息をついて、ロックオンはこの日初めて反論する。
「……だから、そんなミッションは無いんだよ。お前が俺の子供を産むなんて、考えるな。普通に恋愛して、好きな男の子供産めって言ってるだろ」
「それに付いても何度も言っている。俺はお前の子供以外、産む気はない。素直に俺の膣に陰茎を挿入してくれ。それがお前にとって性欲処理でも何でも俺は構わない」
 以前とは違い、その手の事を刹那が必至に調べていたのは知っていた。
 女らしさから男の性まで、事細かに刹那は勉強して、ロックオンの世話をしようとしていたのだ。
 それがロックオンの好みだと思っていた所為で。
 だが刹那から溢れた最後の言葉に、ロックオンは瞬間的に頭が沸騰する程の怒りを覚えた。

 パンっ。

 部屋の中に、裂音が轟く。
 それはロックオンが刹那の頬を打った音だった。
 訓練で二人で組み手をする事はあっても、真剣なまなざしで平手をされた事など、刹那には初めての事で、呆然と立上がったロックオンを見上げる。
「……お前、さいってー」
 冷ややかな視線で刹那を見下ろした後、ロックオンはそれ以降何も言わずに部屋を出た。
 そのまま、夜も遅いと言うのにスメラギの部屋に向かう。
 これ以上は我慢が出来なかった。
 好きな女に手を出せず、更に性欲処理に使えと、その女は言う。
 気持ちが、追いつかなかった。
 刹那がミッションだと思っている事がありありと解るのに、それでもロックオンの気持ちは治まる事が無い。
 これ以上、共に生活をするのは無理だった。





next


まだモダモダしています。
でも次回くらいで進展させられるか……な(疑問系)。
兄さんが受けくさい件は、気のせいですから。ええ、気のせいです。
大事な事なので二回言いました。
ベビードール刹那は、皆様のいい様にご想像下さいませ。(逃っ)