will~オーダーメイド5

※お色気シーンちょこっとあり。苦手な方はご注意を

09/11/30up

 

 ラッセの言葉に従ってロックオンが自室に駆け込んだ時、最悪の事態を目の当たりにした。
 部屋の中にいた刹那は、部屋に付いている簡易冷蔵庫の前に座り込み、その冷蔵庫の中は想像通り牛乳で埋め尽くされていたのだ。
 そして刹那の足下には、既に空になった牛乳パックが5つ程転がっていた。
「刹那! やめろ!」
 入ってきたロックオンに視線だけ送りながら、6つ目を口につけている刹那の手から乱暴に牛乳を取り上げて、行儀など構っていられずに足で冷蔵庫を閉める。
 箱を見れば、いつも皆が飲んでいる500ミリリットルの物だったので、瞬時に計算して、総量にロックオンは青ざめた。
「馬鹿やろう! なにこんな無茶してんだ! 腹壊すだろ!」
 怒鳴るのと一緒に脳天に拳骨をお見舞いすると、刹那は牛乳の飲み過ぎの所為か、その衝撃で小さく『けふっ』とゲップを出した。
 奪い取った6パック目はまだ開けたばかりの様で、そこそこ重さを感じられる。
 総量は凄いが、取りあえず2ガロンまで飲む前に止められて、手にした牛乳パックを降って確認しながらロックオンはふぅっと安堵のため息をつく。
「……おい、まだ腹痛くなってねぇか? お前元々、あんま乳製品強くねぇだろ?」
 取りあえず声をかけるが、やはり刹那は返事をしなかった。
 ロックオンが視線を向ければ、刹那はロックオンに殴られた頭頂部を抑えて、不満そうに口を尖らせている。
 気持ちは解らなくはない。
 刹那としてはロックオンの言葉を守っただけなのだろうから。
 ヤマトナデシコを目指し、胸を大きくする。
 そうすれば、問題なくミッションがクリア出来ると思い込んでいるのだ。
 あまりの律儀さにロックオンは再びため息をつきながら、朝、刹那が洗濯をしてくれたハンカチをポケットから取り出して、口の回りに付いている牛乳の白ヒゲをぐいぐいと拭いてやった。
「…ったく、こんな姿見られたら、百年の恋も冷められるっつーの。人前でやるんじゃねぇぞ」
 ロックオンの言葉に、刹那はぴくりと反応を示す。
「………お前も、冷めるのか?」
「あぁ?」
「こんな俺を見て、嫌になったのか?」
 今までに見た事も無い心細げな瞳を見せられて、ロックオンの心臓が一つ大きく波打った。
 こんな刹那は知らない。
 ロックオンが知っている刹那は、子供で、人の言う事を聞かず、神経症を抱えている割には図太く、筋トレとミッションにしか興味を抱かない人物な筈で。
 こんな、縋る様な目をする人物ではない筈で。
 本当にロックオンに恋をしている様な、こんな表情はあり得ない筈で。
 思わず見つめてしまった刹那が、再び小さく『けふっ』とゲップをするまで、固まってしまった。
「い、いや…俺は別にお前に恋してる訳じゃねぇし、どんな姿見ても何とも思わないけどよ。好きな男には見せちゃいけない姿だって言いたかったんだよっ」
 空いてしまった間を詰める様に早口で言い募り、初めて見せられた『女』の表情を刹那から消す様に、口元を抑えていたハンカチで顔全体を拭いてやる。
「とにかく、牛乳のがぶ飲みは禁止だ! クリスに調べてもらってよかったぜ」
「クリスティナ・シエラ?」
「お前の様子がおかしいってんで、ログを見せてもらった。牛乳2ガロンとか、真に受けんなよ。あんなの只の都市伝説だろ。胸でかくなる前に、腹壊してまた体重落ちるぞ」
 刹那の顔を拭いたハンカチをそのまま刹那の頭に引っ掛けて、ロックオンは立上がる。
 そして先に想定される刹那の体調の悪化を回避する為に、部屋に置いておいた胃腸薬を手に取った。
 それを瓶のまま刹那に突き出す。
「ほら、飲んどけ。この部屋にはトイレ一個しか無いんだから、籠られたら困るんだよ」
 頭の上のハンカチを取りながら、刹那は一度瓶に視線を向けたが、ふいっと逸らしてしまう。
 そして、お約束の言葉。
「薬は嫌いだと、何度言えば解る」
「だからこっちも何度も言ってるだろ。薬ってのは好き嫌いで飲み分ける物じゃねぇんだよっ。…ったく、ホントにおこちゃまだな」
「仕方ないだろう。飲もうとすると吐き気がするんだ」
 言い張る刹那に、ロックオンは再び大きくため息をついて、自分の口の中に薬を放り込む。
 そのまま手元にあるミネラルウォーターを一口含んで、自然に刹那の唇に己の唇を当てた。
 舌を使って喉奥に錠剤を押し込んで、刹那が嘔吐く前に水を流し込んでやる。
「………飲めたか?」
「…………気持ち悪い……」
「ちょっとは我慢しろ。お前の為だ」
 一仕事終えてふっと気が付くと、自室なのに視線を感じた。
 何かと思ってロックオンが振り向くと、先程話し合いをしていた三人が、ロックオンが駆け込んだまま開けっ放しの部屋のドアの所に呆然と立っていた。
 しかも、何か引いている感じがする。
 不思議に思ってロックオンが問いかけようとすると、クリスティナが指を指しながら叫んだ。
「は……犯罪! まだ手出しちゃダメでしょぉ! っていうか、さっき手出してないって言ってたじゃない! 嘘つき!」
「はぁ? 手なんか出してないだろ」
「え、ロックオンの手の範囲って、どこなんすか? 突っ込むとか突っ込んでないとか、その辺限定っすか?」
「リヒティ! お前お子様の前でなんつー事言うんだ! アホ!」
「いや…そんなお子様にキスしてたのはお前だろ…」
 最後のラッセの言葉にやっと現状を理解したロックオンは、思わずまだ腕の中にいる刹那を見下ろしてしまった。
 だが、そこにはいつもの刹那がいただけだった。
 というよりも、この行為は二人にとって特別ではなく、刹那が一人で薬が飲めないと判明してから、繰り返し行われていた事なのだ。
 それでも、根源を知らなければ誤解されても仕方が無いと思い、ロックオンは説明を試みた。
「いや、キスじゃねぇよ。刹那に薬飲ませただけだ。コイツ、自分じゃ飲めないんだよ」
 ロックオン的には普通に、本当に通常の事だとの説明だったが、ドアの前の三人はお互いに視線を送り合う。
 そして、『お前が言え』『アンタが言え』との押し付け合いを始めた。
 ロックオンは何が言いたいのか解らずにその様子を見守ったが、刹那の声が響いて意識を逸らされる。
「……これが、キスという物だったのか?」
「いや、違うか…ら…」
 ロックオンが更に否定しようと刹那を振り向くと、そこには顔を真っ赤にした刹那がいた。
 先程までは普通だったのに何故? とロックオンは首を傾げる。
 心底不思議そうな顔をしたロックオンに、クリスティナはため息をつく。
「いや…刹那の反応が普通だから。っていうか、さっきの相談はなんだったのよ…」
「や、単なる惚気っすよね」
「まったくだ」
「え、ちょっ…」
 三人の反応に、ロックオンは冷や汗を流す。
 さっきまでは救いの手を差し伸べようとしてくれていた救世主達の手の平を返した様な反応に、思わず立上がって手を差し伸べてしまった。
 そんなロックオンに三人はにっこりと笑って。

「「「責任は取る様に」」」

 夕べアレルヤに言われた台詞をもう一度頂いてしまったロックオンだった。



 三人がドアを閉めて去ると、部屋の中には静寂が訪れる。
 この状況をどう打開していいのか解らないロックオンが佇んでいると、それまで座り込んでいた刹那がすっくと立上がった。
 いつもの行動を『キス』と認識してしまった刹那が、また押し倒して来るのかとロックオンが身構えたとき、刹那の震えた声が響く。
「……すまないっ」
「………は?」
 またもや訳のわからない謝罪をいきなりされて、ロックオンは間の抜けた声を出す。
 刹那は拳を握りしめて体を震わせながら、俯いたまま口を開いた。
「お前はっ、いつも俺にキスをしてみたりと、一生懸命俺に欲情しようと頑張っていたというのに、俺が女としての訓練を怠っていたばかりに、肝心な時にお前が勃起出来ない状況を作り出してしまったっ。俺のミスだっ」
「い、いや……刹那さん?」
「俺は調べた。男が勃起する為には、女に性的興奮を覚えなくてはいけないと情報にあった。俺の所為でミッションが遂行出来ないとは…っ」
「いや、だからそんなミッションは……」
 ロックオンの言葉も聞かず、刹那はキッとロックオンを見上げた。
「俺はやる! 立派にお前を欲情させてみせる! 俺がガンダムだ!」
「え? いや、それとガンダムとどこに繋がりが……」
 あまりの事にロックオンが呆然としていると、決意を新たにした刹那は部屋から出て行ってしまった。
 そして気が付いて部屋の時計を見れば、もう訓練の開始される時間だった。
 取りあえず訓練場に行かなければと思うのだが、その前に。
「………この冷蔵庫の中の大量の牛乳、どうすんだよ…」
 部屋に一つしか無い冷蔵庫の中身は、刹那が牛乳をしまう為に今は全て出されている状態である。
 訓練が終わった後に飲みたい冷たく冷やしたミネラルウォーターも、夜にシャワーの後に飲んでいたビールも、全て常温に晒されている。
 昨日の夜からのあまりの身の回りの変化に、流石のロックオンも付いて行く事が出来なかった。
 そして状況の変化から目を逸らす様に、取りあえず周囲の事に目を向けるのだった。
 今後、その事がロックオン自身を追いつめるとも知らずに。


 ロックオンが呆然としている時間、ロックオンと刹那の部屋から辞した三人は、ため息をつきながら廊下を歩いていた。
「っていうかあれ、そのまんまにしてていいんすか? クリスさん」
「どうしろって言うのよ。ほっとくしか無いじゃない。刹那はおいといても、ロックオンも自分の気持ちに気が付いてないんだから」
「あそこまで出来ていて、気が付かないのも凄いな。あれを俺やリヒティに出来るか考えれば、直ぐに解ると思うんだが」
「ああ、ということは、つまりはロックオンはとっくに刹那が女だって気が付いてたって事っすよね」
「多分、無自覚だろうけどね」
 三人は乾いた笑いをして、再び大きくため息をつく。
「ちょっと、独り身に見せつけないで欲しいわよね…」
「まったくっす」
「というか、あの二人の思考回路はどうなっているんだ? 刹那がミッションだと誤認していると言っていたが、ロックオンも十分誤認していると思うんだが…」
「俺らに肉体派の事は聞かないで下さいよ。ラッセさんの方が、まだ解るんじゃないっすか?」
「俺をあんなデタラメ人間達と一緒にしないでくれ」
 脅威の命中率を叩き出す狙撃手や、15歳(女)にして近接戦闘向かう所敵無しの思考回路は解らんと、ラッセはもう一度ため息をつきつつ、二人と別れてデタラメ人間達の中に紛れる為に訓練場へと向かった。
 その後ろ姿を見送って、クリスティナが呆れた声を出す。
「…肉体派って、基本本能に従順なんだろうね。ラッセはまだ人っぽいけど、あの二人はもうその域を出ちゃってるんだろうね…」
「だからこそのあの身体能力っすか…。なんか、納得いった」
 ちらりと二人で視線を合わせて、今思った事は二人の心の中に止めておこうと無言の合図を送り合うのだった。



 更にその夜、騒動は起きる。
 ロックオンから牛乳がぶ飲み禁止を言い渡されてしまった刹那は、牛乳の処理の為に、基地にいる面々に、レシピを見ながらミルクシチューを作り、ご馳走することになった。
 きっちりレシピ通りに作る刹那の料理は好評で、刹那への賛辞の言葉と、ロックオンへの羨みの言葉が食堂を飛び交う。
 だが、騒動はそんな事ではない。
 いつの間にか基地内で公認のカップルになってしまった二人だったが、ロックオンにはもう否定するだけの気力は残されていなかったし、刹那は言われている事の意味を理解する事が出来なかったので、結局そのまま流れてしまう結果になっている。
 だから騒動とは、二人の間に関係する事ではなかった。
 まあ、ある意味二人の間に関係する事と言えば、そうなるのであるが。

 ロックオンが食後に同年代の仲間と談笑して部屋に帰ると、異様なアルコールの匂いが部屋を満たしていた。
 部屋の中には刹那しかいない筈で、その匂いが漂う筈が無いのにと、ロックオンはとっさに身構えて周囲を探る。
 そして開けたドアからは、女の高い喘ぎ声の様な物が聞こえる。
 今朝の食堂で刹那が女だと解った不埒なヤツが、酔いに任せて襲いに来た可能性を考えた。
 なんと言っても万年相手欠乏症を抱える組織だ。
 女は研究に没頭して男を顧みず、また男も研究や己のやる事を最優先として生活している為、アルコールなどを体内に入れると逆に、本能だけが前面に出る傾向がある。
 で、ここでロックオンがした心配は、刹那の体ではなく、刹那を襲っているかもしれない相手であった。
 あの刹那を相手に、この基地内で暴挙を働けば、下手をすれば命に関わる。
 聞こえてくるのは喘ぎ声と衣擦れの音なので、今は身を任せているかもしれないが、合意でなければ、刹那がいつも携帯しているサバイバルナイフが隙をついて急所に飛ぶのは目に見えている。
 と言いつつ、ロックオン自身も護身の拳銃を取り出して、相手の動きを止めるだけの場所を模索しようとしているのだが。
 どちらにしても、流血沙汰は免れない。
 だがそれも仕方が無い事だ。
 女に酔って手を出すなど、一度手痛い仕打ちを受けてしかるべきなのだ。
 慎重に開いたドアから覗いて、室内の様子を探る。
 だがそこには、激しい争いの空気は無かった。
 その上、声と衣擦れの音が聞こえる割に、情事独特の湿った空気も匂いも無い。
 疑問に思いつつ部屋に足を踏み入れたとき、ロックオンは朝の牛乳一杯の冷蔵庫を見た時よりも更に強いショックな場面に出会った。
「せ…刹那ぁ!?」
「………うぃ?」
 相変わらず刹那は床に座り込み、その回りには牛乳パックの代わりに、大量の瓶が転がっていた。
 しかも、ロックオンが見覚えのある物だった。
 それは…ロックオンが地元に帰る度に、楽しみに買って来ていたウィスキーのボトルだった。
「ちょ…! お前何飲んでんだよ! 子供のくせに!」
「おれはおとなだ…もうげっけいもあるんだ…」
 いつもと変わらない口調だが、確実に呂律が回っていない。
 幾つかの瓶は開封してあり、それなりに飲んではいたが、それでも刹那の回りには既に大小合わせて6本の瓶が転がっていた。
 その中には30年物の、ロックオンが楽しみに取っておいた物もあって、合わせて泣きたい気分になる。
 あまりにも衝撃的な場面を見てしまった為に忘れていた音が、その時ロックオンの背後から大音響で響いて来た。
『あ! ああぁあん! 凄いのぉ! らめぇ! いくぅ!』
「え………」
 ちなみにこの声も、ロックオンには覚えがあった。
 何故なら……。
「お、お前ぇえ! なに人のデータ勝手に見てるんだよーっ!」
 それは紛れもなく、ロックオンが持っていたアダルトデータで。
 刹那が寝た後、幾度と無くお世話になっている物だった。
 もう半泣き状態で停止させようと、刹那の端末に繋がっている自分の部屋付き端末を引っこ抜こうとすると、刹那は珍しく(というか初めて)ケラケラと笑いながら、ロックオンの腕に絡み付いて来た。
「おまえはぁ、きんぱつがすきなんだなー。おれもぉ、きんぱつにしたほうがー、ぼっきするか?」
 刹那の言葉は、ロックオンが保管していたアダルトデータを何本も見ていると言う、最悪な事態を告げる物で。
 こんな事になるなら、古い物はさっさと消去すればよかったと、後悔しても後の祭り。
 とにかく涙を堪えながらのロックオンが言えたのは、指導の言葉だけだった。
「女の子がそんなに何度も『勃起』なんて言っちゃいけません! はしたない!」
「あ! あれだ!」
「………へ?」
 ロックオンの言葉を無視して、いきなり叫んで刹那が指を指したのは、丁度クライマックスを迎えたアダルトデータで。
 男優が女優の胸に発射している映像だった。
「ろっくおん! おれのむねにもかけるんだ!」
「………はぁ?」
「おさけをのんでぇ、もんでもらってぇ、せいえきだ!」
「な、なに言ってんだお前は?」
 普通の酔っぱらいの言葉も解らないが、更に『刹那』という要素が加わって、意思の疎通はまったく図れない。
 どうしたものかとロックオンが思案していると、刹那は絡めていた腕を勢いよく引っ張って、ロックオンも床に座らせる。
 そしてモソモソとロックオンの膝に乗って来た。
「せ、刹那?」
「……んぅ?」
 行動の理由を問おうとして声をかけると、普段は無視されるのが当たり前なのだが、この日に限って刹那は返事をした。
 そして、ロックオンと視線を絡める。
 その刹那の顔に、ロックオンはドキリとした。
 アルコールの所為で薔薇色に染まった頬と、唇。
 いつもはキツい視線も酔いでトロンとしていて、それが顔全体の雰囲気を変えていた。
 可愛い。
 すとんと、普通にロックオンは思った。
 そしてそれは、子供に対する賛辞ではなく、女に対しての賛辞で。
 思わず呆然と、刹那がごそごそと自分のタンクトップを脱ぎ捨てるのを見つめてしまう。
 そうして現れた肌も、アルコールでほのかに上気していて、なにか独特の艶かしさがあった。
 刹那の蕩けた顔と上気した肌に、下半身に熱が溜まっていくのを感じる。
 そのままロックオンが動けずにいると、刹那は夕べと同じ様にロックオンの下肢を覆う衣服に手をかけた。
 ジーンズのボタンを外してファスナーを下ろす。
 ソコには熱を集めて勃ち上がりかけたロックオンの分身がいた。
 愛おしげに細い指でゆったりと上下に撫で摩られて、ふっと気が緩む。
 相手が誰であるかと言う問題ではなく、こういう状況で手が出ない男はいないだろう。
 ロックオンももれなく普通の男であった為、ついうっかり刹那に向かって手を伸ばしてしまった。

「………合意なら止めないけど、せめて部屋のドアは閉めてするべきだと思うわ」

 突然響いた第三者の声に、何となく漂っていた艶かしい雰囲気は一気に吹っ飛んだ。
 振り向けば、ドアの所から3歩程入った辺りに、スメラギが手にデータスティックらしきものを持って立っている。
 そのいささか冷めた視線にロックオンは我に返った。
「い、いや! これは違くて……!」
「ふーん……何が『違う』のか解らないけど、取りあえずソレしまってくれる? あんまり見たいものじゃないわ」
 すっとスメラギが指差した先には、ジーンズだけではなく下着からも出されていたロックオンの頑張っている状態の息子だった。
「わ……うわぁっ! すまん!」
 刹那の手をどかして、慌ててロックオンは下着の中にソレを押し込む。
 ジーンズのファスナーもあげて身なりを整えると、スメラギは漸く本題に入ってくれた。
「これ、次のシュミレーションの時の戦術プランなの。貴方中心に組んであるからチェックしておいて。その後、コピーして刹那とアレルヤとティエリアに説明して欲しいの」
 次の合同シュミレーション訓練は3日後だった。
 これは急いで確認して伝えなければと思考が仕事モードになったのだが、やはり見られてしまった事を無かった事に出来る訳も無く。
 スメラギは部屋を出る直前に、ため息とともに一言残した。
「合意ならまあホントに構わないけど……まだ妊娠させちゃダメよ。婚姻年齢に達してないんだから」
「いや、これはちょっとタマタマで……」
「たまにでも何でも同じ。……まあ、ロリコンなのは黙っててあげるわ」
「違いますーっ!」
 うっかり勃ってしまっているのを目撃されてしまっていては、これ以上のいい訳も出来る筈も無く。
 部屋のドアを外から締めてくれる前に、ロックオンは三度同じ言葉を頂いてしまった。
「責任だけは取る様にね」
 シュンッと軽い空気音をさせてドアが閉まり、問答無用なスメラギの言葉にロックオンは頭を掻いた。
 確かに勃ってしまった。
 だがソレと刹那の意向…ミッションを受け入れるかは別だ。
 ふと、ここに来て漸くロックオンは考え始めた。
 刹那に対する己の感情を。

 可愛いとは思う。
 それは顔がどうのと言う事ではなく、存在そのものを指している。
 亡くした妹の様かと言われれば少し違う気がする。
 多少頑固な所があるが、それがまた可愛いのだ。
 故に必要以上に構い倒してしまう。
 子供だと思ってはいるが、子供に対しての庇護欲がイコールで己の感情と繋がるかと問われれば、疑問を覚える。
 しつこく繰り替えすがロックオンにはロリコン趣味は無かった。
 今まで子供相手に身体が反応した事など無い。
 それが今反応してしまったと言う事は、答えは一つ。
(………うそだろ)
 子供だと思っていた。
 育てなければいけないと思っていた。
 只の仲間だと思っていたのだ。
 夕べは裸を見ても何も思わなかったのに、この雰囲気で反応してしまったのだ。
 おそらくアソコでスメラギに声をかけられなければ、間違いが起こっていたに違いない。
 つまりはロックオンは心から、普通に刹那が好きだったのだ。
 動物的な反応ではなく、心から。
 気安く会話をする相手は沢山いても、ずっと一緒に誰かと過ごす事をしていなかったロックオンが、かなりの時間を共有していても苦痛に思わなかった相手。
 冷静になって一番身近な周り、つまりは自分を見つめてみれば、今までどうやってその感情に気が付かないでいられたのかが不思議だった。
 単なるミッション(仕事)として扱うには、考えてみれば自分はやり過ぎていたのだと、この場に来て漸くロックオンは理解した。
 誰に命令される事も無く、ただ大切にしたかっただけなのだ。
 だからこそ、今この刹那の手を避けなければならない。
 接触嫌悪を引き起こす程過酷な環境にいたであろう刹那に、これから先、只でさえ自分たちの行く道は地獄だと言うのに、それに更なるマイナスの要因を付け加えたくはなかった。
 絶対に自分とだけは恋仲になってはいけない。
 ロックオンは刹那を思うが故にそう悟った。


 ロックオンの身体に、酔った刹那が腕を絡めてくる。
「ろっくおん、せいし…はやくくれ……」
 いつもの力強い腕ではなく、酔いでしどけない仕草が、気が付いたばかりのロックオンの心を揺さぶる。
 それでも出来ない。
 他の誰と寝れても、刹那とだけはダメだとロックオンが己に言い聞かせていると、背後の雰囲気が変わる。
 元々夕べの様に鬼気迫るものは無かったが、それとは真逆の……。
「ろっくお……せい……うっ」
 言葉を詰まらせた刹那を振り返ると、ソコには口元を手で押さえた姿。
 前の状況からあわせて、それが何を意味するかは当然理解してしまって。
 その刹那の仕草に、今までの雰囲気は吹っ飛んだ。
「うわぁあ! まて! ココで吐くな!」
 ロックオンは慌てて刹那を小脇に抱えてサニタリーに駆け込んで、刹那の頭を便器に突っ込む。
 それと同時に思った通りの刹那の体調変化。
 飲み慣れない酒を大量に一気に飲んだのだから当たり前だ。
 おそらく朝の牛乳とも兼ねがいがあるのだろうと、ロックオンは苦しそうな刹那の背中を摩りながら遠い目をした。
(なんか……逃げられる気がしねぇ)
 自分の為にココまで必死になる女は見た事が無かったと、ロックオンは過去を振り返る。
 誰もかれもある程度は己のアイデンティティの中でロックオンを求めていて、ココまで自分をかなぐり捨てて求めてきた女などいなかった。
 こういう刹那だからこそロックオンは心を寄せたのだろうが、それでも怖かった。
 刹那を悲しませたくないのだ。
 けれど同時に沸き起こる、刹那に対しての独占欲。
 自分でも驚く程大切にしている存在に対して、ロックオンはどう対処したらいいのか解らずに、苦しそうに嘔吐き続ける刹那の背中を只摩っていた。





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お約束のお薬の飲ませ方。これはチュウにはカウントされません。
そしていきなり兄さん自覚。引っ張り過ぎでどうにもならなくなって来たので、急展開でスミマセン……。
後何話でくっつけられるのかな……(遠い目)。
ちなみに刹那が酒を飲んだのは、当然スメラギさんを見習っての事です。次回辺りで説明を書こうかなと思ってますが、かけなかった場合の予備的にココで説明。(←姑息)<←かけなかった……(汗)03/12>
11/30のアップ時にて、ちょっと校正不足を申告。いきなりこっそり変わってるかもしれませんが、許して下さい……。