will~オーダーメイド2

09/08/29up

 


「もう一度、なんで刹那と俺が同室なのか説明してもらおうじゃねぇか」
 刹那に確認した後、身なりを整えてすぐに部屋を出たロックオンが向かった先は、一年前に相部屋を決めた戦術予報士の部屋だった。
「だから、言ったでしょ。貴方以外に誰が同室になれるのかって」
 相変わらず酒の匂いをさせる缶を手にしながら、スメラギ・李・ノリエガは、けたけたと笑いながら睨みつけてくるロックオンに怯えもせずに答える。
 今まで気が付かなかったロックオンが楽しくて笑っているのは理解出来たが、根源が納得がいかないロックオンは、腕組みをして続きを求めた。
「栄養失調、生活教育、精神問題。貴方は私の考えた通り、ちゃんと面倒見てくれてるじゃない。貴方以外には無理な事でしょ」
「刹那の性別考えたら俺だって無理だろ! どのくらいセクハラしてたかわかってんだろ!?」
 身長体重、スリーサイズのチェックをした上に、果ては異性との同衾を強要していたかと思うと、ロックオンは泣きたい気分になった。
 一応ロックオン自身は紳士のつもりでいたからである。
「セクハラは個人の心象の問題でしょ。刹那は貴方の提案を飲んでた訳だから、問題ないでしょう」
「俺の方が問題だっつーの! てか、万が一間違いがあったらどうするつもりだったんだ!?」
「だから最初に注意したでしょ。『これ以上罪状は増やさない様に』って」
 あくまでも自分の指示は正しいと、自信満々に返答するスメラギには、何を言っても無駄なのだろう。
 それでもロックオンには問題だった。
 何せ、未だ刹那の問題は解決されていないからだ。
 今までは刹那を男だと思っていたから何とか問題はクリアしてきたが、そもそもその方法が間違いだったと今更ながらに突きつけられ、更にはこれからもう一度、刹那に対しての対応を考えなければいけないのだ。
 先ず第一歩的に、おそらく無理であろうがスメラギに提案をする。
「…初潮も迎えた事だし、同室は解除…してくれるんだよな?」
 今までは男だと思っていたから何の気にもせずに同一空間で着替えも出来たが、おそらく…いや、確実にこれからは刹那の体に視線を送ってしまう。
 それは刹那に対してのセクハラと同時に、ロックオンも刹那にセクハラをされることになる。
 切々と訴えてみたが、やはり功は奏さなかった。
「無理」
 即答で返されて、ロックオンはがっくりと項垂れた。
「なんで今更そんな事言うのよ。別に今更性別がわかった所で、何の変化も無いじゃない。刹那は相変わらずつるペタだし、大体あの子に『男』とか『女』とかの区別はついていないわよ。貴方が気にし過ぎなの」
 スメラギの言う事が真実なのだろうとは、ロックオンも思った。
 刹那に『男』と『女』の区別がついているなら、いくら接触嫌悪を抱えていて、それの治療が目的だと説明していたとしても、同衾だけは拒否していた筈なのだから。
 それに今まで注意して見ていた事は無かったが、刹那は何度もロックオンの目の前で着替えをしている。
 何度も…というか、日常的に。
 ロックオンが自分と刹那が同じ性別だと疑う余地がない程、刹那の生活は明け透けな物だった。
 それでも刹那が女だと気が付いたこの先、どうやって一緒に生活をしていっていい物か、ロックオンは茶色の緩くウェーブのかかった髪の毛を掻きむしった。
 目の前のロックオンの様子に、スメラギは一つだけ許可を下ろす。
「どうしても気になるなら、部屋の中に衝立てくらい用意してあげてもいいわよ」
「……最初からそうしてくれてれば、今俺がこんなに悩む事も無かったと思うんですけどね」
 今更な提案だったが、それでも無いよりはマシと、ロックオンは頼む事にした。
 刹那の着替えも気になるが、それよりも男は朝の体を女性に見られたくない事情もある。
 見た方がセクハラを訴える物かもしれないが、男だって別に見て欲しい訳じゃない。
 …いや、見て欲しい男もいるかもしれないが、ロックオンはソウイウ人種ではなかった。
 ため息をついてスメラギの前から辞そうとするロックオンに、スメラギは声をかける。
「あ、これ持っていっておいて。初潮は痛みが酷い人がいるから」
 ぽんっとスメラギの手からロックオンの革手袋に覆われた手の平に落とされた物は、鎮痛剤。
 そして追加された言葉は。
「知ってると思うけど、初潮から一年くらいは周期も安定しないから、基礎体温のチェックもさせてね。貴方から見て刹那の生理が重いと判断したら、トレーナーと医療チームへの連絡もよろしく」
 思いっきり女性の性を突きつけられたが、顔を赤くする程初ではないし、もうため息しか出なかった。
「……あの、これって俺に対してのセクハラになると思うんですけど」
「生理については、女同士だと逆にわからない物なのよ。どうしても基準が自分になっちゃうから、処置も自分がしている物を施すしか出来ないの。だから同じマイスターで男の貴方が、動きの鈍さとか顔色とかで判断するのが一番的確なの」
 言われてみれば思わず『そうか』と納得してしまうしか無く、ロックオンは項垂れながら部屋に戻った。
 女の性は、やはり女にしかわからないのだ。女が男の急所の痛みを理解出来ないのと同じだ。
 これも計画の為だと、部屋に帰るまでの道すがら、ロックオンは呪文の様に唱え続けた。




 『刹那は女だった』騒動は、初潮の夜から二週間経って本格化した。
 当日、初潮の少女の面倒など見た事の無いロックオンが刹那の周りを必要以上にうろつき回り、しつこく体調を聞き続けた所為で刹那が切れた事とか、ロックオンがスメラギに頼んだ衝立てが部屋の中に持ち込まれた事に対して刹那が『部屋が狭くなる』と再び切れた事など、前哨戦でしかなかったのだ。
 他にも同衾をどうするかとの話し合いもしたのだが、結局刹那の接触嫌悪の打開策として打ち出した案であったし、何よりも刹那自身が続行を希望したのだ。
 スメラギの言った『刹那に男女の区別はついていない』という言葉に改めて賛同しつつ、ロックオンは刹那の意見を飲んだ。
 それは、ロックオンも男女の区別がつかない人間だからではなく、ロックオンにとって刹那は女として認識出来ない部類だったから頷けた事だった。
 出会った頃よりは多少肉はついたが、それでもまだ骨の感触が強い体に欲情する事は無いと、ロックオンは自信を持っている。
 紳士的だと思っている割に、ロックオンはものすごく失礼な男だった。
 しかも刹那の年齢はまだ15歳。
 ロックオンには少女趣味は無かったし、ましてやまだ『少女』とも認識出来ない体型の刹那に、何の問題が起こるのか。
 そして当然ながら少年趣味も持ち合わせていなかった。
 ロックオンが性の対象とする『女』は、肉感的なグラマラスな美女だった。
 百歩譲って、顔は電気を消してしまえばわからないから抱く事は出来るかもしれないが、女の柔らかい肉の感触が無ければ勃つモノも勃たない。
 そして贅沢を言えば、年上の女が良かった。
 8歳も下の小娘など、範疇外も範疇外。
 刹那の同意が得られれば、只の仲間として扱い、共同戦線を張れる様な仲間に導く事に異存はなかった。
 性別が判明した今になってみて、日頃の刹那の行動に関して妹を見守る感覚での多少の指導は必要かと、頭の片隅で考える程度だった。


 だが、刹那の基礎体温をチェックしていたロックオンが、初めて排卵の兆しの体温の降下を確認した夜。いつも通りに二人で寝る為に、ロックオンが刹那から10分遅れて刹那のベッドに潜り込もうとシーツを捲った瞬間、それは起こった。
「うわあぁああぁああ!」
 突然部屋の中にロックオンの悲鳴が轟いた。
 その悲鳴は、スリープモードになっていたハロをも叩き起こす程の音量があった。
 ロックオンの相棒ハロは、ちかちかと目と思しき場所を点滅させながら部屋の中の危険を探索するが、ハロが危険と判断出来る物はその場には無く、30秒程で点滅を止めて、再びスリープモードに突入してしまった。
 だが、悲鳴を上げたロックオンの危機は去っていなかった。
 ロックオンが悲鳴を挙げた理由。
 それは。

「刹那っ! なんで服着てないんだ!」

 ……という事である。
 別にロックオンが女の体を見慣れていないから驚いたという訳では当然無い。
 まあ、ある意味見慣れていない体であったから出た悲鳴と言っていいかもしれないのだが。
 女が好きでもない男の股間を見たくない様に、男だって女の裸全部を歓迎する訳ではないのだ。
 慌ててシーツを放り投げて背中を向けたロックオンに、逆に刹那は不思議そうな顔をした。
「何故とは、何故だ。普通は裸で寝るものではないのか?」
 何度か深呼吸をして心を落ち着けて、刹那の言葉を頭の中で巡らせば、思い当たる事はあった。
 刹那に施していた『カンガルーケア』は、一般的には母親が子供と肌を触れ合わせる事を意味しており、その延長線上で刹那は裸になったという事なのかとロックオンは思い至った。
「いや…流石にそこまでは俺も出来ねぇから。今まで通り、普通に服着て寝る方向で考えてくれ」
 ちらりと周りに刹那の服を探して視線を彷徨わせながら、ロックオンは自分の限界を訴えた。
 専門職ではないし、それにまがりなりにも刹那は女の子なのだ。男と裸で同衾するべきではない。
 たとえ何事の無く寝ているだけだとしても、他人に誤解を与える様な行動はなるべく慎むべきだし、ソウイウ事は好きな男とする物だと、ロックオンが妹分に言おうとした矢先、刹那からはまた不可解な言葉が流れてきた。
「そこまでとは、なんだ? これはミッションなんだろう? 俺たちは遂行しなければならない。お前も早く服を脱げ」
 シュルリと衣擦れの音をさせて、刹那は全裸のままロックオンの前に立ち、躊躇する事無くロックオンのルームウェアに手をかけた。
「ちょっ、まてまて。だから服着たままでもミッションの続行は可能だろ?」
 刹那にずり下ろされそうになっているスウェットのズボンを死守しながら、これまでの成果を暗に告げる。
 だが、刹那の行動は止まらなかった。
 そしてその攻防の中で刹那が発した言葉に、ロックオンは耳を疑った。
「今日、俺は排卵日だ。お前も確認しただろう。早く俺の卵子に精子を与えてくれ」
「………………は?」
 何かとてつもなく『おしべ』と『めしべ』的な説明を受けた気がすると、あまりの事にロックオンの思考は停止した。
 つい力を入れて抑えていたスウェットのウエストから手を離してしまい、刹那はその機会を逃さずロックオンの下肢を覆う衣類を一気に足首までずり下げた。
 そして呆然としているロックオンを、そのまま背後のベッドに押し倒す。
 下半身だけを中途半端に晒したロックオンに、マウントポジションを取る様に刹那はまたがり、当然の事ながら通常状態の…いや、あまりの事に萎縮さえしてしまっているロックオンの息子を手に取る。
「……刹那・F・セイエイ、ミッションを遂行する」
 刹那はにやりと口元を引き上げて、ふにゃりとしたロックオンの息子を躊躇する事無く己の花園に押し付けた。





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兄貴、セクハラされまくりの巻(汗)。
っていうか、微妙に不安なんですが、これはR指定入れなくても平気な部類ですよね?(汗)。