『私達はソレスタルビーイング。武力による……』 組織の存在を語る創設者の映像は、作戦実行前に関係者には公開されていた。 それを公共の電波で確認して、自分たちの起こした行動を、山間の岩陰で二人で確認する。 始めてしまった。 そう呟いたロックオンに、刹那は無言で返した。
武力介入は計画通りに、刹那の誕生日の二週間後から行動を開始した。 先ずは地上に潜伏するロックオンが基地を離れ、残りの強襲用母艦のクルーで、作戦を立てた宙域に向かった。 先鋒を任された刹那は、開いたプトレマイオスのMS発出ハッチから眼下に映る地球を見下ろす。 幼い頃、神を信じて天を仰いでいたその場所にいる自分に、不思議な気持ちがした。 それでも刹那は神ではないし、人々を救う手も無い。 ただ世界を、見下ろす地上の構造を変えようとしている変革者だ。 『失敗は許されない』 ヘルメットの通信機器から流れてくるティエリアの声に、我に返る。 既に配置についている夫になる男に意識が向いて、操縦桿を握りなおした。 「解っている」 簡潔に答えて、発進シークエンスを行うクリスティナに応答する。 「刹那・F・セイエイ、出る」 望んだ世界を手に入れるために、只人の刹那は視線に力を込めた。 只人故に、先陣を切って人の前に姿を現す自分ではなく、先陣を切って戦闘配置についた己の男を思うのだった。
そうして始めてしまえば、次々とスメラギはミッションを組み、休む暇も無く戦場を渡り歩く生活に突入した。 その間、たった四人で世界情勢を変えようとしているマイスター達は、世界の四箇所に配置されて、MSに乗っていない時間は世間に潜伏しつつ状況を見極める。 見極めた状況にスメラギの指示を受けて、即座に行動できるように備えていた。
いくつかの戦場は問題なく終わらせられた。 だが当然、不測の事態は起こる。 ガンダム4機がかりで行ったミッションで、刹那が問題を起こしたのだ。 コクピットハッチからその身をさらけ出してしまった。 問題行動に、一旦4人は集まる事になった。
刹那を遠慮無しに拳で殴ったロックオンに、慌てたのはアレルヤだけだった。 女だからといって、特別視などしない。 ロックオンは元々仕事上では性別の区別などしない人物であったし、ティエリアは性別など関係ないと言い放っていた。 腫れた刹那の頬に、アレルヤが気を使う。 「ロックオンも怖かったんだよ」 危険を諭して気遣うアレルヤに、刹那は頷く。 二人の関係は誰もが知るところであるし、アレルヤは元々刹那に優しい。 関係の亀裂を気にしてくれる仲間に、刹那は頭を下げた。 刹那はロックオンの行動は正しいと解っていたし、それでも自分の論を曲げるつもりも無い。 マイスターに課せられている秘匿事項を明かすつもりも無かった。 アレルヤに頬を冷やしてもらった後、二人部屋の自室に戻っても、何も言わなかった。 ただ、暗い部屋で背中を震わせていた男に、無言で寄り添った。 背中の体温を感じて、ロックオンが顔を上げる。 そして気丈に振舞っていた外面を脱いで、気弱に刹那に縋った。 「頼むから……必要以上に危険な事はしないでくれ」 神の名を語った男を見た瞬間に、我を忘れてしまった事だけは、申し訳ないと思っていた。 刹那は自分に縋るロックオンを抱きしめながら、戦場で聞いたこの男の叫びにも似た呼びかけを思い出す。 計算した砲撃をしながら、必死に「刹那!」と呼びかけてくれていた。 過去の自分から救い出そうとしているようにも聞こえる呼びかけに、刹那は今を思い出せたのだ。 そして仲間の前で殴り、今は刹那に縋りつく。 愛情ゆえの行動と感情をぶつけてくるロックオンに、刹那も縋りつく。 清算出来ない過去もあるが、やはり今は大事だと思えた。 見失いそうな未来を導くのは、理念でも思想でもなく、感情だった。 住人のいない島の暗い部屋で、なすべきことをもう一度二人で確認しあった。
刹那の問題行動も合わせて、スメラギから指示されたのは、2日間の移動禁止命令だった。 更には行動を起こしたソレスタルビーイングに対して反発運動まで起こり、設備を備えた無人島に整備士のイアンを含めた5人で篭る事になった。 「ま、ちょっとした休暇だと思えば良いじゃねぇか」 前日の夜、思いっきり問題児を殴り飛ばした男は、爽やかに晴れ渡る南国の風景に、他のメンバーを落ち着けるためにも道化になる。 いつものパターンに刹那は顔色を変えず、アレルヤは未だに刹那に対して憤るティエリアをなだめた。仲間の気持ちを和らげる事に長けているロックオンにも宥められて、更には自分の女が迷惑をかけたと頭を下げられて、ティエリアも逆立った毛を宥めたのだ。 その後は和気藹々、とまではいかなかったが、初めてマイスターで仕事以外の時間を過ごした。
無人島に生活の設備だけを備えた場所で、刹那は当たり前のように食事を考えたが、殴られた頬の事も合わせて心配されて、台所はアレルヤに占拠された。 初めて食べた彼の料理は、刹那にかるいショックを与えた。 レシピどおりにしか作れない刹那には出せない味が、にこやかに振舞われる。 手伝いながらアレルヤの手元を心配していたのだが、そんなものは失礼だったと眉を寄せる。 そして手放しのロックオンの賞賛も、刹那の心に傷をつけた。 「マジうまい! なんだよアレルヤ、俺の嫁になりたい?」 婚約の証を首元に飾りながら、夫はそんな言葉を他の人物に投げかける。 表面上がどうであれ、刹那とて普通の女だ。 嫉妬心だって当然ある。 頬を膨らませた刹那に慌てたのは、やはりアレルヤだけだった。 ロックオンが慌てるのは、その夜の事になる。
自然な重力の中で、二人の部屋で気を抜いたロックオンは、いつもどおりに刹那に声をかける。 「刹那ぁ、コーヒー淹れて」 端末で情勢を眺めつつ、いつものように身の回りの世話を刹那にねだれば、刹那はそれに応じなかった。 返事の無い部屋にロックオンが気がついたのは、自分が強請ってから5分も経った後だった。 いつまで経っても手元に置かれない希望のものに首をかしげて、その段階で初めて顔を上げたのだ。 視線を刹那の気配に送れば、ソコにはふて寝よろしく、夕べは使っていない方のベッドに潜る盛り上がった物体がある。 頭までシーツを被った山に歩み寄り、ロックオンは顔を覗き込む。 「……なあ、コーヒー」 「うるさい。自分で淹れろ」 機嫌が悪いところは何度も見ているが、ロックオンの『お願い』を拒否する刹那は、付き合って以来初めて見る姿で、ロックオンは目を見張った。 「……なんだよ、何怒ってるんだよ」 「別に怒っていない」 「じゃあ具合でも悪いのか?」 「悪くない」 「ならコーヒー」 「だから自分で淹れろ」 埒の明かない遣り取りに、ロックオンは肩をすくめて仕方なく自分でキッチンに向かった。 何故機嫌が悪いのか解らない。 生理は終わったはずだ。 そんな事を考えながら、日が暮れた暗い廊下を歩いてキッチンにたどり着けば、そこに丁度アレルヤがいた。 ロックオンは普通に会話の出来る唯一の仲間に、今の刹那の状態を首を傾げて告げる。 「夕べ殴ったの、怒ってるのかなぁ?」 ロックオンにとって思い当たる事といえばそのくらいで、結局キッチンで顔を合わせたアレルヤに淹れてもらったコーヒーを啜りながら零す。 案外間抜けなリーダーに、アレルヤは自分の分のコーヒーを傾けながら引きつった。 「……本当に気がついて無かったですか?」 「何が?」 常に回りに気を使っていると思ってたロックオンの、懐に入った人間に対しての気のつかわなさ加減に、心の中でアレルヤは刹那に手を合わせる。 本気で理解していないロックオンに、アレルヤは引きつりながらも仕方なく説明をするのだった。 「……夕食の時、ロックオン僕の料理褒めてくれたでしょ? アレ、刹那はショックだったみたいですよ」 「なんで?」 美味いものを美味いといって何が悪いとロックオンは更に首を傾げる。 だが、問題はそこだけではない事をアレルヤは気がついていた。 「ロックオン、僕に嫁になるかって聞いたじゃない。あの時僕、刹那に凄い目で睨まれたんだけど」 「……はい?」 あからさまな冗談のつもりが、どうやら刹那には通じなかったようだとアレルヤに言われて、ロックオンは眉を顰める。 「……えっと、つまりは、アレか。浮気……とかと同じように受け取られた……と、言いたい訳か?」 「そこまでかは解りませんけど、確実に僕は嫉妬の対象ですね」 「しっと……って、お前、どう見ても男だろ」 「関係ないんじゃないですか?」 女の子の思考回路は複雑ですからと、アレルヤは肩をすくめる。 ロックオンは思わず想像してしまって、鳥肌を立てた。 「俺……ホモに見えるのかな……」 「さあ。でもロックオン、見た目軽そうだから、何でもアリに見えるのかも」 「軽そう……って、随分あっさり酷い事言うなお前」 「そうかな」 別に敵対視しているわけではないが、紅一点を手にした男に、アレルヤは容赦が無かった。 軽く落ち込んでいる様子のロックオンに、自分で淹れたコーヒーを含みながら、少し胸が透いたのは確かだった。 「まあ、口は災いの元ですよ。甘んじてホモの烙印押されて下さい」 リビングのソファで、刹那を悲しませたロックオンに、言葉で報復をするアレルヤだった。
だがこの言葉を言ったアレルヤ自体が、まさに災いを受ける事になるのである。
アレルヤに諭されて部屋に戻ったロックオンは、ベッドに篭城を続ける刹那に縋って謝り倒した。
お前の料理が一番だから。
お前以外目に入らないから。
アレルヤとホモなのは勘弁してくれ。
壁際に逃げる刹那を追いかけて、何度も繰り返す。 そしてカップルの仲直りのお約束的に、夜の生活に突入したのだ。
深夜、アレルヤとティエリアの部屋に、じっとりとした嫌な空気が流れる。 『あ……や、ろっくお……』 『ホモじゃないって、もっと解らせてやる』 そんな馬鹿らしい会話が、壁越しに聞こえてくる。 そして更に、ベッドの軋む音。 たまに壁を叩く音まで響いて、隣で何が行われているのか、二人にはイヤというほど伝わってきた。 「……ロックオンはホモだったのか?」 会話の内容に、ティエリアは静かに突っ込みをいれる。 「いや……そうじゃないけど……あはは」 そんな会話になっている理由は、アレルヤにはわかる。 アレルヤが乾いた笑を零した直後、もっと直接的な台詞が聞こえてきた。 『アレルヤに、こんな良い穴ねぇってッ! ほら、わかんだろ?』 『やあん! ばか、そんなに急に衝く……あッあ!』 ご丁寧に名前まで出してくれて、更には声が大きくなっている。 そして壁に何かが擦れる音。 どんな体位でしてるのか、なんとなく理解できてしまう。 生々しい音と声に、アレルヤは顔を赤くし、ティエリアはため息を零す。 「……君とロックオンが、そういう関係だったとはな」 静かな顔をしつつ、ティエリアは刹那が不機嫌な事も、その不機嫌な理由も悟っていた。 安寧の時間のはずの夜中に響く不埒な音楽に、更には名前を出されたアレルヤに八つ当たりも込めてティエリアは嫌味を放った。 「頼むよ……お願いだから追い詰めないで。只でさえ僕は被害者だよ……」 「一番の被害者は俺だ」 何の関係も無いのに、夜の時間を邪魔されている。 そう言われれば、アレルヤも黙るしかなかった。 隣の部屋の空気も読まずに、バカっプルは盛り上がりを見せる。 ドンっと壁が震えて、刹那の聞いたことも無い高揚した声が部屋に響く。 『やあ、そこ、やぁあ! かべ、つめたい、つめたい……ッ!』 『お前がッ、あついだけだろ? 丁度良いだろッ?』 もう一度ドンと壁が震えて、アレルヤは背後にしている壁の上下2箇所に手が着かれた事を知る。 知りたくなくても、伝えられてしまった。 そして壁を擦る音が激しくなった。 『ひぃ! も、ろっくお……!』 『イくか? ほら、イっちまえッ!』 宣誓のようなロックオンの言葉と共に、壁の音は擦れるなどという軽いものではなく、体が激しくぶつかる鈍い音を連続で奏でた。 更に追い討ちをかけているロックオンの言葉が響く。 『こんなに締め付けて……いいんだろ? 俺の良いんだろッ?』 どこのえろ親父かと思うような台詞に、ロックオンと同じ性であるアレルヤとティエリアはため息が止まらない。 ティエリアは興味の無い事であったし、アレルヤは経験はあっても、まさかそんな言葉を最中に本当に言う人物がいるとはと、驚きも混じる。 人種の違いかと、視界を遠くに定めて考えてみる。 いたたまれないこの空気を早くどうにかしてくれと、とりあえずそれだけを願った。 ティエリアは呆れた溜息の後、無視を決め込む事にしたらしく、持ち込んでいた本を開く。 破廉恥なBGMが流れる中、ティエリアの紙をめくる音が更にアレルヤを攻め立てた。 「ティエリア……よく平気だね」 男なら思うところがあるだろうと、思わずたずねてしまう。 そんなアレルヤに、ティエリアは涼しい顔で返事をした。 「勃ったなら出してくれば良い。俺はあの声の持ち主が刹那だと思ったら萎える。特に男の方は萎える」 ドンドンと壁が叩かれる音に紛れて、ティエリアの涼しい声が響き、ますます部屋の中は異常な空気が流れてしまう。 アレルヤも、状況的に男として反応してしまっているが、反応の元を考えるとそれで射精は勘弁して欲しいと思ってしまうのだ。 故に、耐える。 終わったら他のもので抜く。 そう思っているのだ。 だが隣は益々盛り上がる。 『ほらッ、イケよ! ほら!』 『やあぁあ! イくッ! イっちゃうぅ! ろっくおッ……イくぅうぅうう!!』 『あッ、刹那! すげ、しま……ッ! 俺も、イく! 刹那ぁ! あ、あッ!』 ぱらりとページをめくりながら、隣りの会話に再びティエリアは口を挟んだ。 「ロックオンはよく喘ぐな。アレではAV男優にはなれないな」 「ティエリア……感想なんて言わなくて良いから……」 二人で会話を終えると、どうやらフィニッシュを迎えたらしい隣も静かになった。 ふう、とため息をついて、アレルヤは端末に保持しているデータを呼び出そうと手を伸ばす。 勃ってしまったものは仕方がない。 端末を持ってトイレに向かうアレルヤに、ティエリアは珍しく口を挟んだ。 「まだ、待った方が良い。もうワンラウンドくらいはするだろう」 どうせ処理をするなら一度の方が落ち込みも少ないと、そう告げるティエリアに、アレルヤは口元を引きつらせてしまう。 そしてティエリアの見込みは正解だった。 ゴソゴソと動く音の後、壁際にいるだろうロックオンの声が再び響く。 『わかっただろ? アレルヤでなんてイケないって。お前のココじゃないとダメなんだよ、俺は』 『……ん、ろっくおん……』 再び名前を出されて、もうアレルヤは涙目だった。
ごめんなさい。
いじめた僕が悪かったです。
もうロックオンの事はいじめないので許してください。
ロックオンの台詞に、ティエリアは静かにアレルヤを見つめて、再び本に視線を落とした。
その無言がアレルヤを追い詰める。
更に隣りの二人は再び盛り上がり始めた。
『お前のココ、ホントに最高。すげぇ気持ち良い。こんなにヒダが沢山でさ……』 『や、こする、なッ』 『なんで? 感じるから?』 『お前の、指が、いやらしいッ』 『お前のココがやらしいんだろ? 人のせいにするなよ』 『だからッ! かきまわすな……あッ、あん!』 睦言を囁き合っている二人は、おそらく場所が頭に入っていないのだろう。 ココは基地ではなく、母艦でもなく、簡易施設なのだ。 壁も薄ければ、ベッドも悪い。 夕べも睦みあっているのは解っていた。 それでも逆側のベッドを使用してくれたようで、隣の部屋に被害は少なかった。 たまにボソボソと声が聞こえるかな、と思い、更にはベッドの悪さが可哀想だな、と同情できる程度だったのだ。 ティエリアは隣りを予測して、部屋に入るなりサッサと隣の部屋と逆側の壁に設置されたベッドを占拠してしまった。 いつもの二人は周りを気にしている雰囲気も合ったので、アレルヤは多少気にはなるが良いかと妥協していた。 予想通り、二人は周りを気にしつつ睦みあったのが理解出来て、小さな囁き声程度では気にもならずにアレルヤは眠る事が出来た。 それが今日は、とてもではないが妥協できる規模ではない。 『なあ刹那ぁ、俺のもしゃぶって』 『んふ……んぁ、あふ……』 『お前のも美味しい……あ、そこもっと舐めて』 『ん……ん、んぅッ、そこ、やッ』 『やじゃないだろ? クリトリス、凄いでかいぜ?』 『すわない、でぇ! や、あ! ひぁあ! ……ッ』 『あ、馬鹿やろッ、歯たてるなよッ!』 どうやらシックスナインに突入したらしい隣りに、アレルヤはシーツを被る。 激しい営みに、大きな体を丸める事しか出来なかった。 今日の小さな事件が二人のエッセンスになっているのだろう事は想像がつく。 それでもアレルヤは後悔していた。
どうして夜に手を差し伸べてしまったのだろう。
昼間なら自分たちは外に逃げられるし、また二人ももっと冷静に行為が出来ただろう。
盛り上がる夜に口を出してしまった自分が呪わしかった。
ロックオンに言った「口は災いの元」という言葉を、骨身にしみて実感したアレルヤだった。
結局夜中ずっと愛し合っていた二人に、ティエリアはマイペースに耳栓をして眠りについてしまったが、直ぐ横で一枚の壁越しに展開されたアレルヤはそうもいかず、朝の日差しの中でげっそりと憔悴した顔を晒した。 なのに、オールナイトで大運動会を繰り広げた当の本人達は、誤解も解けて更に愛を確かめ合い、充実した艶々の肌で元気いっぱいだった。 「なんだぁ? アレルヤ、どうした?」 目の下にクマを作ったアレルヤの顔を、ロックオンは心配そうに覗き込む。 純粋に心配してくれているのはわかるのだが、なんせ心配してきてくれている人が元凶なのだ。
お前の鈍感さが原因で……!
とは、元来気の弱いアレルヤにはいえない。
それでも何とか気合で、刹那に休暇を申し渡した本人として、台所に立とうとした。
「まて、アレルヤ。今日は俺が作る」
そう言葉を発してアレルヤを止めたのは、ティエリアだった。
言い出したティエリア以外は目を見張る。
そんな事を言い出す人物だとは思っていなかったからだ。
驚く面々に、ティエリアは秀麗な眉を寄せる。
「……なんだ、文句があるのか?」
「いやだって……お前さん、料理なんて出来るのか?」
素直に問うたロックオンに、ティエリアはふんっと鼻息荒くそっぽを向く。
「レシピなら色々知っている。問題ない。またアレルヤの料理にロックオンが惚れたら敵わないからな」
そう言って、端末を片手にキッチンに篭ってしまった。
意外な人物の言葉に、無言で背中を見送ってしまう。
それでも一番初めに反応できたのは、流石に刹那だった。
「……俺も手伝おう」
なれない作業を思っての言葉だったが、ティエリアはその申し出を拒否した。
「いい。お前はシャワーでも浴びて来い。予定が繰り上がって今日からミッションがスタートしたら、元気者の男の精液を纏ったままになるぞ」
「……すまない」
少しの沈黙の後、刹那はティエリアの言葉に従って、シャワー室へと向かってしまった。
確かに起床時間ギリギリまで睦みあっていた二人には、シャワーを浴びる時間も無かったのだ。
刹那は淡々と行動したが、固まった人物が一人。
当然、ロックオンだった。
「……え、なに、そんなに聞こえてた?」
どもりつつも問うロックオンに、ティエリアはキッチンの物の場所を確認しながら、簡潔に答える。
「全部聞こえていた。俺が寝るまでに3ラウンド、起きた時に迎えたフィニッシュは何回目だった? 別に答えなど聞きたくないが、体力は出来るだけ温存してもらいたい。もう訓練ではないのだから」
淡々と言葉を紡がれたが、その内容はロックオンには赤面物で。
フィニッシュを知られているという事は、いつものセックスの癖を仲間に暴露したようなものだ。
ちらりとアレルヤに視線を送れば、頬を染めてあからさまに顔を逸らされる。
居たたまれない。
それ以外、感想など無い。
「……以後、気をつけます」
ロックオンは反省だけを口にして、刹那の背中を追ったのだった。
だが、アレルヤの悲劇はコレに留まらなかった。
「「「う゛……ッ!」」」
食事の席で、思わず三人が漏らしてしまった擬音。
同じタイミングでスプーンを口に運んでしまったが為のユニゾンだった。
一人涼しい顔のティエリアが、その擬音に首を傾げる。
「……どうした?」
自分が作った食事を黙々と口に運んでいるティエリアは、普段どおりの様子で。
その仕草に、彼が気がついていないことをアレルヤは悟った。
そして再び後悔に襲われる。
何故夕べは口を出してしまったのか。
また何故今、自分は台所を譲ってしまったのか。
後悔だらけで、涙腺は緩みっぱなしだ。
ティエリアの料理は、見た目も凄まじかったが、味も凄まじかったのだ。
なんと言っても、塩分を舌で感知できない。
更には微妙な刺激が口の中を襲う。
全てがペースト状になっている食事に、ロックオンは問う。
「……ティエリア、お前、何入れた?」
まるで毒でも食らわされたかのような台詞に、ティエリアは眉を寄せる。
「普通の食材だ。栄養面を考えて調理しただけだ」
「塩とか……入れたか?」
「必要最低限はな」
「この刺激は?」
「最近俺たちの食事にカプサイシンが不足していたように思えたので、唐辛子だ」
「あ……そう」
それっきり、ロックオンは黙り込んだ。
栄養素の話を持ち出されれば、どういう感覚でティエリアが料理をしたのかが伺える。
ロックオンは誤魔化すように、刹那の淹れた紅茶に手を伸ばした。
刹那は横目でそれを見つつ、ロックオンに夕べの報復をするのだった。
「……ティエリアとも結婚すれば良い」
栄養価満点の食事を出してもらえる。
そう呟いて、何とか己の頭の中にあるレシピの料理を付け加えて、ティエリアの食事を食べられるものに変換しようと、刹那は席を立った。
その後姿にロックオンは吠える。
「お前いい加減しつこいぞ!」
バカップルのじゃれ合いに、食卓に残ったロックオンに向かって、アレルヤはため息をつく。
お前が全ての元凶だ。
そう意思を込めて冷たい視線を投げかければ、ロックオンは大きな体を小さくした。
そしてポツリとアレルヤに呟く。
「……悪かったよ」
アレルヤが朝体調不良なのも、刹那が不機嫌なのも、全てが自分の所為だと理解して、ミッション以外では立場の弱い自分を自覚して、ただひたすら体を丸めるのだった。
ジャブ的に暗いところと思わせておいて、この落ちですみません(土下座)
まだ前半戦なので、明るく出来る兄さんです。
そしてエロの兄さんは、私の大いなる勘違いの賜物です。
だって……ねえ。欧州人だし。
おーいえす、かもんかもん、あいかむ、いえす、的な妄想しか出来なくてすみません(ジャンピング土下座)
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