will〜オーダーメイド 12

2010/10/18up

 

 恋愛関係を確立させて、お互いに心を安定させたロックオンと刹那は、私生活だけではなく仕事となっているマイスターの訓練も格段に充実度をあげた。
 そうなれば、当然他の問題が浮上する。
 蜜月を過ごす二人は初めての夜から2ヶ月経った頃、二人そろってブリーフィングルームに呼び出しを受けたのだ。
「呼ばれた理由はわかってるわよね?」
 二人を呼び出した張本人のスメラギは、いつでもぴったりと寄り添っている二人にため息をつきつつも切り出す。
 無意識に独り身に見せ付ける二人に、ため息くらいで終わらせる事を許して欲しいと思ってしまった。
 スメラギの言葉に、二人はそろって首を傾げた。
 訓練に支障をきたすような愛し合い方はしていない。
 他の人にも配慮はしている。
 と、本人たちは思っていた。
 そもそもマイスターとして活動できる二人は、セックス如きで行動に問題が出るような体力は持ち合わせておらず、毎晩のように愛し合っても精神の充実は感じられても、それ以外の問題など感じられるはずもなく。
 以前はロックオンのみに朝食を用意していた刹那は、夫たるロックオンに指示を受けて、希望者には夫と同じメニューの朝食を用意するようにもしていた。
 贔屓も無い。
 故に、問題は理解できない。
 首を傾げた二人に、スメラギは肩をすくめて呼び出しの理由を口にした。
「結婚前の男女が、問題もないのに同じ部屋なのが問題でしょ。刹那の問題も全部解決されてるし、ロックオンの方も然り。あなた達は今すぐ活動可能なマイスターだわ。だから、同室の理由が無くなったのよ」
 そういわれて、ロックオンは成る程と頷いてしまう。
 二人一部屋が基本的に割り振られているが、男女の比率で一人部屋の人間も当然居る。
 アレルヤとティエリアは同性ゆえに、初めから同室が決まっていた。
 だがロックオンと刹那は違う。
 現に部屋のパートナーにあぶれたリヒティは一人部屋であるし、最近合流した最年少のフェルトが基地に来るまで、クリスティナも一人部屋だった。
 秘著率の高い仕事を持っているスメラギは別格で一人部屋なのは当たり前だが、日常に秘密を抱える必要の無いものは二人部屋だったので、今まで何も思わなかったが、男女である限りそうなっても仕方がない。
 どうせ生活スペースが分かれるだけで、どちらかの部屋に入り浸ればいいやと、ロックオンは軽く考えて、スメラギの別室提案に頷こうとした。
 だが、刹那が眉間に皺を寄せる。
「……俺たちは、夫婦だ」
 しかめっ面でスメラギに刹那はストレートに訴える。
 実際に夫婦生活を送っているのだと訴える刹那に、ロックオンは少し頬を引きつらせたが、それでも無理やり別室になる理由も思いつかず、はっきり言ってどうでも良いと考えたので、残るは刹那の意思のみだ。
 刹那が同室のままが良いというのなら、このままで問題もない。
 後はお好きにどうぞと、視線をよこしたスメラギに肩をすくめて手を差し出した。
 どうせ自分たちの関係はバレているのだからとの、開き直りもある。
 渋る刹那に、スメラギは言葉を重ねる。
「でもね、あなたは建前は結婚前の女の子なの。ココ(CB)の規定では、16歳前の人間の婚姻許可は出せない事になってるの。だからどんなに実生活が夫婦でも、あなた達の間にどんな約束があっても、今は夫婦としては認められないのよ。外面的に見れば、あなたの対面に傷がつくの。わかる?」
 年頃の女の子の行動をスメラギが諭せば、刹那は頬を膨らませて視線をそらせる。
「人の噂など、どうでもいい」
「そういう訳にはいかないの。他の人に対しての規律の指標にもなっちゃうし、今は一旦同室は解除して。本当に結婚するのなら、後半年我慢してくれればまた同室に出来るから、それまで待って頂戴」
 刹那の年齢を示して諭せば、規律と言われて頷かないわけにもいかない。
 それでも素直に受け取れない刹那に、ロックオンは軽くスメラギを助けた。
「別に生活スペースがちょっと離れるだけだろ。俺の部屋の暗証番号はちゃんとお前に教えるし、別れる訳でも会えなくなる訳でもないだろ。半年お互い我慢しようぜ」
 対面的にそうすれば良いだけの話だとロックオンは進めたが、そのロックオンの言葉に刹那は視線鋭く食いついた。
「お前は妻の俺と別のベッドで納得するというのか!」
「ちょ、おいッ」
 ソコまで赤裸々に人前で言うなと、思わずどもった声を上げてしまう。
 確かにベッドは片方しか使っていないが、一応部屋には二つのベッドがあるのだ。しかも以前のような問題もなく、今の二人が一つのベッドで眠る理由など、一つしかない。
 慌てたロックオンにスメラギは冷たい視線を浴びせ、その視線の冷たさにロックオンの背中に嫌な汗が流れる。
 営倉は勘弁して下さい。
 スメラギと視線も合わせられず、何とか刹那の口を塞ごうと考えていたロックオンに、今度は再びのため息と共にスメラギが助け舟を出してくれた。
「寂しさを耐えるのは刹那だけじゃないのよ。ロックオンだって、い・ろ・い・ろ耐えるんだから、規律に従って頂戴」
 やけに強調された色々に、ロックオンは頭を掻く。

 仕方がないだろう。
 俺だってまだ23歳なんだ。
 息子もやんちゃな盛りなんだ。

  と、女性には言えない言葉を頭の中で呟いて、それでも刹那の口を止めてくれたスメラギに視線で礼を告げる。


 だが、こうして決まった別室に、一番最初に悲鳴をあげる事になるのは、刹那とロックオンの当人たちではなく、スメラギだったのだ。





 別室になってから、刹那は女性の区画に部屋を移動させられ、ロックオンは二人が使っていた、元々ロックオンが一人で使っていた二人の部屋で生活をすることになった。
 部屋が変わっても刹那の行動には変わりは見えず、朝は必ずロックオンを起こしに行き、朝食も用意する。
 更には清掃も二つの部屋をすることになり、黙って行動する刹那の行き先が見え辛くなった。
 スメラギは伝達事項があるたびに刹那を探し回り、更には医務室の呼び出しを無視する刹那を追い掛け回さなければいけなくなった。
 疲れた。
 最初の二週間でスメラギはそう感じた。
 見張りの居ない刹那がこんなに大変だとは。
 そう思いつつ、それでも女性としての何たるかを教えなければいけないのは、マイスターの管理を任されているスメラギだった。
 マイスターとして育てるにはもってこいだったロックオンは、ロリコンじゃないと言いつつ結局手を出してしまった。
 このままでは男の都合の良い女に育てられてしまう。
 社会生活を送る上で、問題が浮上する。
 エージェントの仕事をしてもらわなければいけない刹那に、少しでも問題が残ってはいけない。
 規律以外にも、そんな考えがスメラギの中にはあった。
 刹那に了解を得て刹那の端末にスメラギだけに送られる発信機をつけ、何とか基地内を追い回した。
 スメラギの努力は3週間目で実を結び、刹那はスメラギの言う事を聞くようになって来て、ほっと胸を撫で下ろす。
 元々戦術だけではなく、色々な相談は刹那から受けていたので、信頼関係は問題がなかった。
 それ以外の女としての生活の指導も素直に受け取ってくれるようになり、刹那はスメラギにとって純粋に可愛い存在になっていった。


 だが、問題はもう一人のほうだった。


 刹那の問題を解決させて、世界情報を照らし合わせて必要な戦術を組み、現場では指示をさせるロックオンと向き合わなければならなくなった日。
「……な、なによこれぇ!」
 それが一人部屋になったロックオンの部屋に踏み込んだスメラギの第一声だった。

  目の前に広がった景色。
 それは『景色』などという良いイメージの言葉を使ってはいけない状態だった。
 散らばる下着。
 シャワールームに伸びる服の道。
 それでもソレが一組しかないことで、誰が片付けているのかは一目瞭然で。
 更には床に無造作に置かれた筋トレの器具と書類。
 何度も彼の部屋には来ている筈だが、ここまでの様相はスメラギは初めて目にしたのだ。

  女性には耐えられない部屋に、ロックオンは悲鳴の意味がわからないと首を傾げる。
「なによって……なんだよ」
「なんでパンツが転がってんのよ! 私が来るのは言っておいたでしょ!?」
「聞いてたから部屋にいるだろ。なんだよ」
「なんだよって……」
 あまりの事に呆然としてしまう。
 以前はココまで酷くなかった。
 刹那が基地に来る前にも何度かロックオンの部屋には訪れているが、普通に「男の部屋」と認識するだけで気にならなかったが、今はそんなレベルではない。
 唖然としているスメラギの背後のドアが、静かに開かれる。
 チャイムも押さずに入ってきたのは、当然刹那だった。
「……すまない。遅くなった」
「あー、今から仕事の話するから、あと30分待ってくれ」
 刹那に向かって手を振るロックオンに、二人に視線を向けたスメラギは理解する。
 当たり前の二人の反応。
 つまりは……。
「……刹那、前回この部屋に来たのはいつかしら」
 スメラギの質問に、刹那は動かそうとした足を止めた。
「……トレーニングルームの前だから、2時間ほど前か」
 淡々と質問に答えた刹那に、スメラギはため息をつく。
 二時間でコレだけ散らかせる、男。
 更に言えば、女にコレだけ頼りきる男。
 この男の何が良いのか、スメラギは刹那に問いただしたくなった。
 顔と体格と体術と頭をさっぴいてもおつりがくるのではないか。
 そうは思うが、それでも自分にかかわりがなければ良いかと、スメラギですら現実から視線をそらせたくなった。
 そんなスメラギに、刹那は淡々と謝る。
「来客前に来る事が出来ず、本当に申し訳なかった」
 振り向き様に零した言葉に、刹那が必死になってロックオンの素行を隠そうとしていた事を感じられて、自ら指示した事を撤回したくなる。
 頼むから、同じ部屋に戻ってくれと。
 ロックオンと連携をとらなければならないスメラギには、この部屋はストレスが大きすぎる。
 立ち寄りたくないと、真剣に思う。
 好きでもない(恋愛感情的に)男のパンツなど、見たくない。
 それでも規律もあり、とりあえずスメラギは自分の精神的な救済処置をとるのだった。
「……刹那、今回のは機密性が無いから、お願いだから一緒に居て頂戴!」
 背後で何してても構わないからと縋れば、刹那は一見無表情にスメラギに同情するのだった。


 刹那がロックオンのこういった生活の怠惰に気がついたのは、まだ精神問題を抱えていた頃だった。
 同室になって、部屋に足を踏み入れた時、刹那は奥歯をかみ締めた。
 男くさい。
 男の部屋なのだから当たり前なのだが、それでも空気の入れ替え……宇宙空間であるから窓は開けることは無いのだが、空気清浄機のフィルターの交換をサボっているのが直ぐにわかった。
 外見上、どう見えようとも、その辺だけは刹那は女の感覚だったのだ。
 そしてCBに保護される前に、非文化的な生活を強いられていたとしても、それでも集団生活の決まりは有り、それにしたがっていた。
 少ない物資で、少女だけの生活を送っていたのだ。
 ソコには当然のように、最低限の清潔さを求めていた。
 誰も彼もが当たり前のように振舞う中、刹那も共に振舞っていたのだ。
 独特な個性を持っているように見えて、実は刹那は回りに順応する事に長けていた。

 逆に、見た目は順応性のありそうなロックオンは、一人になると個性的過ぎた。
 CBに来る前に暗殺業をやっていて、ソレの足が中々つかなかったのは、方法や作戦の立て方が個性的過ぎて、警察関係者にロックオンの行動を推測できる人物が居なかったからである。
 その事が、彼をCBに引き寄せる原因でもあったのだが、一人暮らしの延長でCBで一人部屋になったときには、一応自分で動く事が身についていた。
 故に、最低限の生活スペースは保持できていた。
 だが刹那が来て話が変わった。
 気がつかないうちに放り投げた服は、一人であればその内気がついて片付けるが、ロックオンが気がつく前に刹那は気が着いて片付けてしまう。
 そんな事を繰り返しているうちに、ロックオンは片付ける事を忘れた。
 その分、他の研究事項に頭の容量が回ってしまった。
 更にはヤマトナデシコという男に都合の良い事だけを継承している伝説を、刹那がロックオンに思いを寄せるようになって実行し始めた事によって、拍車がかかった。
 自分で動かなくとも常に周りが整えられているのが当たり前になり、ロックオンの部屋は個室になった途端に、ダメな男の見本のような部屋に成り果てたのだ。
 まあ結果を見れば、ロックオンはある意味順応性に富みすぎていると言えるのであろう。


 フォーメーションと作戦の話の最中、ロックオンは完全に仕事モードに頭を切り替えてスメラギと対峙していたが、スメラギは集中仕切る事が出来ずに居た。
 背後でちょこまかと男の世話をする刹那に意識が向いてしまう。
 要領がいい刹那が、10分でスメラギの精神を安定させられる部屋に作り変えているのを、仕事の話をしつつも観察する。


 自分が男だったら、絶対にロリコンの称号を得ても刹那をものにする。


 スメラギがそう考えるのに、時間はかからなかった。
 そしてロックオンがうだうだと悩みながらも、関係を持った後は当たり前のように刹那の隣りを主張するようになった理由も、心の底から納得した。
 牽制していなければ、少し時間が経てば、刹那は絶対に直ぐに手がつく。
 食事療法と運動療法で、刹那の体は本来の女性の形に近づきつつある。
 胸はまだ発達を見せないが、全体的に丸みを保てるようになってきた。
 加えて、生まれつきの整った顔。

 マイスターとして優秀でなければ、どうやってロックオンを吊るし上げてやろうか画策するところだったと、後にスメラギは思うのだった。





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暗くなる前のちょっとしたエピソードです。
兄貴の汚部屋は、料理のランキングを見ての妄想。
女がいたらやらないタイプだなと…。
ちなみに付属的に書き加えれば、兄貴の机の周りも大変ですが、ここに手を出されると兄貴は切れます。
O型には独特のルールがあるものです……。