will〜オーダーメイド 11

※R18です。18歳未満の方は閲覧しないでください

2010/10/17up

 

 再び仕切りなおしの意味を含めて唇を重ねて、刹那の状態を確かめる。
 少し時間が経ってしまった事を気にして指先で触れれば、そこはまだロックオンを受け入れる意思を示していて、初めて自身の雄でそこに触れる。
 子供の見かけとは裏腹に、やわらかく暖かい成熟した女の感触を切っ先に感じて、とうに失った理性が更に野生に変換されるのを感じた。
 絡めていた舌を解いて、赤銅色の瞳に問う。
「いくぜ?」
  確認を言葉にすれば、刹那は瞳を閉じたまま頷く。
 その動作を確認して、ロックオンは腰を推し進めた。
「……んっ」
  異物が挿入される違和感に、刹那が小さく声を上げる。
 寄った眉にキスを落としながら完全に挿入して動きを止めれば、刹那は見たこともないほど穏やかな表情を見せた。
「……暖かい」
 体内に取り込んだ雄に、うっとりと感想を零す刹那に、ロックオンも笑みが沸く。
 普段の鋭い視線もなりを潜めて、表情全体で幸せを訴えてくる。
 その表情が見られただけで、ロックオンの心も温かくなった。
 こんな子供と体の関係を持つなんて、少し前までは考えることも出来なかった。
 だが今、ロックオンは確かに幸せを感じていた。
 年齢も何もかも、関係が無い。
 心底心を通わせられた相手との行為に、いまだかつて感じたことの無い程の幸福感と興奮を覚えた。
「動くぜ。痛かったら言え」
  薄いゴムの膜の無い肉の感触に、ロックオンの雄は素直に欲求を表す。
 ぴくりぴくりと動いてしまう分身を早く満足させたくて、刹那に確認すれば、刹那は幸せそうな微笑で答えてくれた。
 頬にキスを落として、足を抱えなおして体制を整える。
 初めての刹那を思いつつも、ロックオンはゆっくりと腰を動かした。
 中の肉はロックオンの想像以上に柔らかく、甘く絡みつく。
 あまりの快感にふっと気が抜けてしまう。
「……いたく、ないか?」
  言葉を途切れさせながら問えば、刹那は瞳を閉じたままロックオンを受け入れて、フルフルと首を振る。
 表情に苦痛は見られなかったが、それでも開かない瞳を気にしてロックオンが頬を撫でれば、刹那はその促しにしたがって薄く赤銅色の瞳を覗かせる。
 普段よりも涙を湛えたその瞳は、刹那がどれだけの幸福を感じているかをロックオンに伝えるには十分すぎた。
 そして更に言葉にされれば、ロックオンはこれまでの人生の中で、もっとも幸福な時間を手に入れられた。
「こんなに、きもちい、いなん、て」
 体が揺れるタイミングで途切れる言葉が、尚の事ロックオンに自分が少女に与えている感情だと認識させてくれる。
 うっすらと微笑む刹那に、ロックオンも今までに無く柔らかく笑う事が出来た。
 それでもこの行為に付属するものは、幸福感だけではなく。
「……痛み、ないなら、いかせて貰うぜ?」
  ゆったりと動かしているだけでは当然物足りないロックオンは、その先を刹那にねだる。
 刹那は意味は解らなかったが、ロックオンの言葉に頷いた。
 その後、急激に襲ってくる力強い律動に、背をそらせる。
「は……ッ! ロク……ッ!」
  まるで産まれた時からソコにロックオンのそれを受け入れるように決められていたかのような、やっと得られた充足感と、指の先まで痺れるような快感に、刹那は驚き喘ぐ。
 普段では聞くことの無い甲高い彼女の声に、ロックオンも気分の高揚を抑える事は出来なかった。
 それに、今までの経験など吹っ飛ぶほどの刹那の胎内。
 名器とはこのことだと、貧相な見た目とは程遠い女の中に、常識も何もかもが吹っ飛んでしまう。
「なんだ、これ……おま、反則だろッ」
  ロックオンの雄を包む肉は、雄の性感を煽るように凹凸を見せて、入り口、中腹、そして再奥と、締め付けの力を変える。
 当然初めての刹那にそんな技がある筈も無く、天然のものだと理解できるが故に、予想外の快感に野性が止まらない。
「あ、あぅ、ろ、ろっく、お……ッ、きもち……ッ!」
  なれない性的な快感は、はっきりいって刹那には理解できていない。
 それでも快感に伴う精神の高揚が、刹那にこれが「気持ちのいい事」だと教えていた。
 男が出入りする感覚にも慣れてきた頃に、刹那がうっすらと目を開ければ、自分の上で頬を染めて、必死に刹那を求める刹那が愛した男の顔が見える。
 その愛しさに、刹那の性感は高まった。
「あ! あぅん! ろっくお……ッ! また……ぁあ!」
  先ほどは嘔吐感と間違えた感覚が、今回はそんな間違いを感じる暇も無く刹那を襲う。
 愛しい男を胎内に受け入れて、その熱で体の中心を焼かれるような激しい感覚を得て、息も荒く己の快感を訴えた。
「イくのかッ? 初めてで、ココだけでイけるって、ヤラシイなぁッ!」
  皮肉のような愛撫の言葉を浴びせて、ロックオンは打ち付ける腰の動きを加速させる。
 激しく貪られて、刹那はあっという間に体を硬直させた。
「や、あッ! ひぁあ! イく、イ……ッ――――!」
  教えてもらった言葉を悲鳴に変えて、刹那は絶頂を迎える。
 頬を薔薇色に染めて、生理的な涙のたまった瞳で慣れない感覚の助けを求める刹那に、ロックオンは急激に追い上げられてしまう。
「ちょ、やべ……ッ!」
  絶頂の硬直に、刹那の胎内は収縮して、ロックオンを締め上げた。
 その締め付けはロックオンの想定外の強さで、あまりの快感に持っていかれそうになってしまったロックオンは、慌てて刹那の胎内から己を引き抜く。それでもコンドームをつける暇は無く、ロックオンはそのまま刹那の下腹部に精子を放ってしまった。
「ぅわ……嘘だろ」
  今までで最速かと思う早漏に、ロックオンも呆然としてしまう。
 今までの経験からすれば、自分の一回の射精で、どんなに不感症の女でも2回は昇天させていたのだ。
 ロックオンにとって、今までセックスとはゲームみたいなものだった。
 お互いに快感をあおり、愛情という名の感情を楽しむ。
 欲情する事を最大の愛情表現として、長く続く快感を楽しんでいた。
 そんな考えが、根底から覆される。
 楽しむ余裕など、どこにも無い。
 刹那に対する愛しさに簡単に追い上げられて、あっけなく吐精させられてしまった。
 そして感覚を楽しむ余裕など与えられないほどの、快感。
 まるで童貞に戻ったかのような感覚に、己の吐き出した精を眺めてしまう。
 それでも見慣れた白濁した液体が、刹那の女に流れそうになったところで我に返り、慌てて手近においておいたティッシュで拭った。
 刹那の入り口にソレが触れただけで妊娠など滅多にないが、たまにそういう事例も聞く。
 万が一があってはいけないのだ。

  綺麗に汚れを拭き取って、ふと再び刹那の足の間に視線を止める。
 凄まじい名器。
 それ以外の感想などなく、更にはソコが己にもたらした快感を、時間を置かずに体が反応する。
 ケダモノか、とロックオンの頭の片隅に自分の欲望に対する感想が掠めたが、それでも抗う事など出来なかった。

 改めて今度はコンドームを装着して、刹那に許可も得ずに再び己を埋め込む。
「ひぁ!?」
  前置きなしの挿入に、絶頂の後の霞んだ思考に支配されていた刹那は驚き、目を見開いた。
 目の前には、今まで見たこともない凶暴な顔の男がいた。
「ダメ、まだ満足できない」
「ま、満足……?」
「お前のコレが、凄すぎるのが悪い。付き合え」
「な……んの、ことだ? ……ッあ!」
  問うた質問に答えはなく、刹那の心の準備も待たずに、再びロックオンは少女を貪る。
 続けざまの快感に、刹那も精神の高揚と性的な快感の両方を感じて、動物的な体の反応を理解する。
 広げっぱなしの股間が少し痛んだが、それでも己を欲する愛しい男に敵うはずも無く、今までとは違う自分を刹那も感じるのだった。



 行為が終わったのは、ロックオンが使用済みのコンドームを包んだティッシュが、床に花のように散らばる頃だった。
 時計を見れば、既にいつもの起床時間に近い。
 刹那は普段、ロックオンの起床時間の二時間前に起きて、彼の身の回りの世話をするのだ。
 ここから眠っても大して体の疲労は変わらないと悟った刹那は、眠っているロックオンを置いてベッドを降りた。
 そして、自分のクローゼットを漁る。
 普段着は直ぐに出せる場所にあったのだが、この日の刹那は普段の3倍の時間、クローゼットに潜っていた。
 そして身についた習慣を、どう誤魔化して行使するかを悩んだ。



 刹那が葛藤を終えて直ぐに、ロックオンも目を覚ました。
 だが当然刹那の姿はなく、ロックオンが散らかしたゴミも既に片付けられた後だった。
「……あいつ、初めてだったのに」
 いつものように朝寝ている姿を見せなかった刹那を思う。

体は痛くないのか。
無茶をした自分に怒っていないか。

 そんな考えがロックオンの寝起きの頭を過ぎったが、それでも低血圧気味のロックオンにはそれ以上は思いつかなかった。
 それでも情事の香りの残るシーツに、夕べの自分たちを思い出す。
 こんなに充足した心など久しぶりの事で、シーツに残る刹那の香りに身を任せる。

 可愛かった。
 愛しかった。

 止まらない感情に、何度も求めて、そして何度も己に酔う刹那に高揚した。
 本当の心の安息を手に入れて、瞳を閉じる。
 捜し求めていたパーツが手に入ったと、そう思えた。
 家族を失った時の空虚感は、もうどこにも感じられない。
 いつでも頭の中に思い描いていた弟の事も、夕べは忘れていた。
(薄情だな)
  あんなに縋りついていた弟を、たった一人の女を手に入れた事だけで忘れるなど、酷い。
 それでも沸き起こる幸福感に、目を閉じて浸った。

  暫くシーツの中で余韻に浸り、気がついて視線を時計に向ければ、起床時間だった。
 そうと気がつくと同時に、いつもの様に部屋のドアが開く。
 愛しい女が帰ってきた喜びに振り返ったロックオンだったが、あまりの様子に目が点になってしまった。
 入ってきた刹那は、余りにも普段と様子がかけ離れていたのだ。
「……あの、刹那さん」
  何とか口を開くが、どう問えばいいのかロックオンにもわからない。
 刹那は静々といつものように、ロックオンのベッドの脇に膝をついた。
 そして、身に纏っていた重装備を脱ぐ。

 ロックオンの目が点になった理由。
 ソレは刹那の服装だった。
 空調の効いている室内なのに、ロングコートを羽織り、コートの下にはフードつきのジャケットを着て、更にはマスク。ジャケットのフードはご丁寧にも刹那の頭を覆っていた。
 それらの普段は着ない服をロックオンの前で脱いで、いつもどおり頭を下げる。
「おはよう。今日の朝食は中華にした。早く食堂に来てくれ」
 やはりいつもの台詞を口にして、当たり前のようにロックオンの洋服を枕元に置く。
 楚々と振舞う様子は、何度も繰り返すが普段と変わりはない。
 ただ、格好を除けば。
 どこから突っ込んでいいのかわからないロックオンは、静かに出された洋服に手をつけるのだった。
 だが、いつものようにシーツを交換しようとした刹那が、その動きを止める。
 Tシャツを被りつつその動きを目に入れて、ロックオンは問いかけた。
「どうした?」
 昨夜愛し合ったシーツに照れている……などという可愛らしい雰囲気は、刹那にある筈もなく。
 どう見ても『固まっている』様子の刹那を伺えば、刹那はフルフルと震えていた。
 そして、怒気の篭った声でロックオンに問いかける。
「……お前、夕べは俺のどこに突っ込んだ」
「……はい?」
 問いの意味がわからなく、ロックオンは首を傾げる。
 刹那の言葉の破廉恥さなど、気にしていられる雰囲気でもなかった。
 真剣に怒っている。
 刹那の纏う空気は、今にもロックオンを射殺さんばかりの険悪なものだった。
 何がそんなに刹那の琴線に触れたのか解らずに、素直にロックオンが問い返しても仕方のない雰囲気だった。
「俺が初めてだからと侮って、俺の知らない場所に突っ込んだのか」
「……え、知らない場所ってどこだよ」
  質問の意味自体が、本当にわからない。
 寧ろそれを懇切丁寧に俺に説明しろとロックオンが言いかけたところで、刹那は視線鋭くロックオンを振り返った。
「俺の膣に挿入しなかったな、お前!」
「……はい? え? いえ、堪能させていただきました……けど?」
 思わず馬鹿な答えをしてしまう。
 初めての朝に「堪能させていただきました」はないだろうと、このあとロックオンは落ち込む事になるのだが、今はそんなことに構っていられる雰囲気ではない。
 刹那が怒っているのだ。
 こんなに怒っている刹那など、初めて見る。
 何事かとロックオンが刹那の顔を覗き込めば、刹那はよれたシーツを指差した。
「膣に挿入していれば、血がつくだろう! お前が俺の知らない場所に挿入した証だ!」
 知らない場所など、逆にロックオンが聞きたいと思ってしまう。
 初めての女とアナルセックスに興じる趣味は持ち合わせていない。
 それ以外の場所など、官能小説以外では無理な話だ。
 普通の性交の認識は当然ロックオンにはあり、刹那の説明に首を傾げる。
 だが、シーツを見直してみれば、刹那の言うとおり、処女の証は刻まれていなかった。
 刹那の言葉と現状に、一回瞬きをして、そして普段の刹那を照らし合わせて、髪の毛をかきむしった。
「……あのな、処女が全員血が流れるとは限らないの」
 何で自分がこんな説明を……とは思ったが、ロックオン自身が刹那の怒りを治めてやらなければ、誰かに情事を漏らされても困る。
 確実に営倉行きだ。
 子供に手を出した変質者とののしられるのは勘弁願いたい。
 愛し合っている結果としても、そして暗黙の了解としてとられていても、表ざたにはしたくない。
 また、する事柄でもない。
 刹那はロックオンの言葉に、鋭い視線を少し和らげた。
「……嘘だ」
「嘘じゃねぇって。特に激しい運動してる女は、大体が処女膜なんて自然と破れてるんだよ。お前だってそうだろ。日頃MSのGに耐えまくってて、近接戦闘訓練してて、筋トレだってアスリートの何倍やってるんだよ。処女膜なんてあるわけがない」
 実際に、夕べも刹那は痛みも感じずに、平均からすれば巨根の部類に入るロックオンの男根をすんなりと受け入れている。
 そして初めての性行為の後の今、普段と同じ行動が取れるのだ。
 もう随分と昔に無くなっていたのだろう事は、容易に想像がついた。
 夕べは何も思わなかったが、道理で処女なのにすんなりセックス出来たなぁとロックオンが考えていると、目の前の刹那はがっくりと肩を落とした。
 そんなに洗濯する気満々だったのかと、ロックオンが頓珍漢な事を考えていると、当然刹那は違う理由で涙を流す。
 涙まで流されて、流石にロックオンも慌てた。
「ちょ、なんで泣くんだよっ! 痛くないに越した事ないだろうが!」
 夢が壊れたのかと、そう気遣って言葉をかければ、刹那の涙は当然ロックオンの考えとは違う部分で。
「……俺は、女として役立たずだっ」
「…………なんで?」
 あんな名器の持ち主が……と、ロックオンが下世話な事を考えていれば、刹那は再び夕べの再現をしてくれる。
 つまりは、迷信を信じていたのだ。
「処女の血で原罪が洗い流されるというのに、それすらも流せないとは……ッ! 俺はガンダムになれないッ!」
「……えーと……いや、な?」
 刹那の言葉が意味不明なのは今に始まった事ではないが、取り合えず刹那の涙が迷信ゆえの夢が破れた事が原因とわかって、どう慰めたらいいのかロックオンは考える。
 処女の血で原罪とか、本当にどんな場所で育ったのやらと、あまりにも自分との育ちの違いに天井を仰ぐ。
 都市部の習慣が正しいとは思わない。
 伝統を守り、受け継いでいるのであろう刹那の育った場所の素晴らしさも、当然あるのだろうと理解する。
 それでも自分が理解できない部分で悲しまれて泣かれた男はどうしたら……と、ロックオンはため息をついてしまう。
 涙を流す刹那を見れば、どう見ても『男泣き』としか見えない泣き方で、夕べの可愛らしさはどこに行ったと引きつった笑いも出てしまう。
 可愛げのない泣き顔を、刹那が毎日綺麗にしてくれているハンカチをポケットから取り出して、ぐしゃぐしゃに拭いてやった。
「あのさ、お前の夢は壊れたかもしれないけど、俺は気にしないぜ?」
「……ッ、だがっ……」
「俺が育ったところにはそんな習慣ないし、それにお前が初めてを俺にくれたのは間違えようの無い事実だろ? 俺はお前の初めての男になれただけで嬉しいし、お前が俺の為にソコまで考えてくれたのが嬉しい。それだけじゃダメか?」
「だが……原罪がっ……」
 拘る刹那に、ロックオンは最終手段に出る。
 己の出自や経歴は口にしてはいけないが、ここまで悲しまれれば言わなければ収まらないだろうと思ったのだ。
 それに、計画がスタートすれば、みんな同じ穴のムジナになる。
 自分が少し先に、しかも生活の糧として罪を犯してきた。
 それを口にした。
「……原罪だけなくしてもらっても、どうせ俺は天国には行けないんだよ」
 ハンカチでは拭いきれない涙を、ロックオンは刹那を抱きしめて自分のシャツで受け止める。
 暖かいなれた体と、体の内側から響く声に、刹那は大人しく身を任せた。
 男の言葉の意味を正しく理解できていない少女に、言葉を続ける。
「……俺はな、ここに来る前から人殺しなんだ」
「…………」
 黙って言葉を聴く刹那に、ロックオンは告白する。
「数え切れないくらい、殺してきた。しかも、生活の為だ。人の命と引き換えに金貰って、それで生きてきた。ここに入ったのは当然理想もあったけど、自分の身の隠し場所としてもいいと思ったから参加した。そんな男の原罪なんて、重ねた罪の量に比べれば無いに等しいだろ。だから気にするな」
 長い言葉を吐き終えて、腕の中の刹那をうかがえば、涙は止まっていた。
 その代わりに、今まで以上に苦しそうな表情で唇をかみ締めている。
 後悔したのかと、ロックオンは苦笑をもらす。
 こんな所で出会った男に操を捧げて。
 咎人の妻になんてなりたくなかったと言われる事を想像して、刹那を腕の中から開放する。
 騙されたと罵られても仕方がない。
 それでも自分は刹那を愛したと、そう伝えようと思った。
 だが、刹那からは何も言葉は出なかった。
 ただ床を見つめて、そしてポツリと一言だけ漏らした。
「……すまなかった」
  謝罪の理由は色々考えられるが、おそらく取り乱した自分に対する謝罪なのだろうと、ロックオンはあくまでも自分を立ててくれる刹那にため息をつく。
 こんなに優しい子供が、何故自分など愛したのだろう。
 もっと相応しい男が居ただろうにと、再びそんな考えが頭を過ぎる。
 過去を吐露したロックオンに対して、ロックオンの過去に恐れるでもなく、また憤るでもなく、告白させた事を後悔しているのだろう刹那に、どうしようもなく愛情があふれる。
 止められない流れに、一度は開放した体をもう一度抱きしめた。
「……俺は、お前がどんなでも、愛してるよ」
 刹那が望んだ『初めて』はなくとも。
 因習の原罪がなくならなくても。
 お前だからと思いを込めて腕に力を入れれば、刹那も答えるようにロックオンの背中に腕を回す。
「……俺も、お前が過去に何をしていようと、愛している」
 受けた愛情は本物だったと、刹那は感じていた。
 罪を罪と知りながら行う事の辛さ。
 それを乗り越えて、刹那に優しくしてくれた、悲しいまでに優しい男を刹那も抱きしめる。
 一生お互いに触れられない傷を持っていたとしても、アナタだけが己の半身だと、お互いに確かめ合った。



 刹那の涙も止まり、ロックオンもシャツを変えて、少し冷めてしまったであろう朝食をとりにいこうとロックオンが促せば、そこでまた問題が発生した。
 こくりと素直に頷いた刹那が、再び重装備を手にしたのだ。
「……あのさ、それ、なんだよ。具合悪いのか?」
 着々と着込んでいく刹那に、その格好は不審者以外何者でもないと手を伸ばせば、刹那はポッと頬を赤らめた。
「なるべく普通の服を選んだんだが……どうしても肌が隠せなくて……持っているものを並べたらコレになった」
「肌ぁ?」
 普段でも首元まで隠しているシャツに、黒のスラックス。更にはターバンまでスカーフ代わりに巻いて隠しているのに、これ以上とはどういうことだと首をかしげずには居られない。
 ロックオンの疑問を感じ取った刹那は、ここにきて初めてモジモジと恥ずかしそうに口を開いた。
「俺ももう……人妻だ。夫以外に肌を見せるなんて、恥ずかしくて……」
 その言葉でやっとロックオンは悟った。
 アラブ諸国の既婚者の女性は、多くの人が頭から足元までを黒い布で覆い、見えているのは手先と目元だけだ。
 肌の色から考えて、刹那の出身国がソコから近いとなれば、わからなくもない思考だが……。
「……普段どおりにしろ」
 思わず命令口調になってしまう。
 視線は合わせられない。
 刹那にそんな格好で歩かれれば、もう営倉行きは決定だ。
 その上きっとこの先の通り名は「ロリコン・ストラトス」になってしまう。
 ロックオンの命令口調にも従えずに、珍しく頬を染めて恥ずかしがっている刹那に、お互いのための魔法の言葉をロックオンは口にした。
「マイスターの個人情報はレベル7の極秘事項。お前、そんな格好で外出てみろ。お前がどこの地域の、どこの国の人間か、みんなに言い回ってるようなものだぞ」
 先ほどは自分の都合で自分の過去をばらしたくせに、都合のいいところだけ拾い上げるロックオンだったが、刹那はハッと我に返った様で、コートとマスクを素直にクローゼットにしまってくれた。
 それでも普段の格好身に着けているターバンを口元まで引き上げてしまうのは、彼女の乙女心なのだろう。
 それくらいならとロックオンは首を縦に振って、二人で食堂まで仲良く出向いたのだった。

 だが、ロックオンは失念していた。
 刹那が部屋に戻ってきた時、既に重装備をしていた事を。
 そして勘の鋭い仲間が、夕べ刹那にあった事に、刹那の格好を目にしたものは気がついてしまっていたことを。
 重装備でいつもどおり朝食の支度をしていた刹那は、多数の人間の目に触れた後だった。

 そして、いそいそと刹那が夕べ頑張ったロックオンの為に用意した、精力増強のスタミナ朝食を並べている隙に、通りがかり様に仲間は言った。

「おはよう、ロリコン・ストラトス」

 人の噂も79日。
 それまでに自己崩壊しない事を、ロックオンは涙ながらに念じるのだった。





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やっと身も心も結ばれました! 長かった……(汗)
ニョタ刹那さん名器説は譲れないライン(真顔)
そして刹那の出身地風習は、クルジス・アザディスタンの位置を、元石油産出国と考えての、マイ設定です。
この後は本編沿いに話を進めていくので、だんだん暗くなります。