部屋の明かりを消して、初めて二人でベッドの中で肌を寄せた。
同衾を解除して一ヶ月近く経っていた所為か、はたまた初めての状況の所為か、刹那の肌は、ロックオンの想像以上に柔らかかった。
そう感じた。
ソレが勘違いかどうかなど、どうでもいい。
「刹那……」
闇にまぎれるような黒髪を撫でて、前髪を掻き揚げて額に唇を落とせば、刹那は小さく震える。
ピクリと震えた意味は、刹那は言葉にしなかったが、ロックオンはなんとなく理解した。
どんなに男勝りでも、やはり刹那は女だったと、その動作で痛感させられる。
お互いに本能に準じて、ロックオンは刹那の唇を貪り、刹那は少し苦しそうに受け入れた。
唇を合わせながら胸に這わされた、骨ばったロックオンの素手に、刹那は手を添える。
手に触れた暖かい感触に、ロックオンは唇を離した。
「怖いか?」
囁くように問いかければ、それには首を横に振られて否定される。
強がって、と、ロックオンはひそやかに笑う。
怖くないわけがない。
男の本能は、種を蒔くことだけで止まる。だが女はさらにその先を予想して、本能に準じる事の恐怖を感じるのだ。
ソレがわかるくらいには、ロックオンも大人で、更にその思いをするには早すぎる刹那に眉が下がる。
それでも二人で求めたのだ。
後戻りなど、考えられない。
自分の気持ちを精一杯唇に乗せて、ロックオンは刹那のまだ丸い頬にキスを落とす。そこで再び刹那は震えた。少し可哀想だとは思ったが、それでも欲は抑えられず、せめて気持ちを和らげようと、何度も刹那の頬にキスを落とす。その間、ロックオンの手は刹那の手に阻まれて、更には導かれて刹那の下半身に移動していた。
刹那の行動の意味を悟ろうと、薄闇の中顔を伺えば、闇の中にあっても存在感のある濃い赤褐色の瞳が揺れていた。
不安と、緊張と、そしてもう一つの要素が見え隠れしていて、初めての女特有の危うい雰囲気に、ロックオンは小さく笑ってしまう。
その表情が、あまりにも普段とかけ離れていたからだ。
柔らかく唇を合わせて、息が触れ合う距離で刹那の不安を取り除く。
「大丈夫だ。お前の胸触って萎えるとかないから。寧ろ元気いっぱいだぜ?」
証拠を見せるために、刹那の手をとって己の股間に導けば、そこにはすでに普段の様子と変えているロックオンの分身があり、刹那の手にすら歓喜した。
普段、近接戦闘の時にはナイフを使う刹那の手は少し硬く、敏感な性器には、触れられるだけで刺激を覚える。
興味を引かれたのか、刹那が辿る様に何度もロックオンの分身を撫でさすり、その熱と質量にため息をついた。
色が含まれた息に、ロックオンもまた煽られて、再び刹那の唇をむさぼる。
そのまま、一度手を遠ざけられた胸に再び戻り、薄い肉付きの、それでも成長過程の柔らかさを持つ胸を、指を使って肉を集めて揉みしだいた。
「ん……っ」
あわせた唇からうめき声が漏れ、ロックオンは唇を離して刹那を伺う。
「痛いか?」
小さい胸は敏感だと噂で聞いていたので、力が強すぎたかと問えば、刹那は首を横にふった。
「痛くは、ないが……」
否定の言葉とは逆に寄った眉にロックオンは首をかしげて、それでも痛みはないらしい事を確認して胸に這わせている指を動かせば、刹那は更に顔を顰める。
だがその頬にうっすらと紅を浮かべたのを見止めて、成る程とロックオンは納得して更に指を動かした。
「あっ……ろっく、お……、ちょ、まて……っ」
「なんでだよ」
性感を煽るように指を動かせば、ロックオンの思ったとおりに刹那は吐く息に熱を混ぜながら、困惑した声を出す。
日頃から、先進国で育ったものには考えられないほど肌を隠し、その清純さを見せ付けられてきた。故に今ロックオンが刹那に与えている感覚が、彼女の意識の中には無かったのだろうと想像がついた。
刹那の華奢な首筋に顔を埋めて、黄色人種の滑らかな肌の感触を舌で楽しむ。その傍らに、両手で胸の肉を集めて接触を訴えるように揉み込めば、酒に酔った時以降、初めて刹那がロックオンに縋りつく。
「たのむ……っ、なに、か……体が……っ」
己の変化を訴える刹那に、ロックオンは首筋から耳元に唇を移して、殊更淫猥な雰囲気で囁いた。
「おかしいって、言いたいんだろ? いいんだよ、おかしくなって」
「だが、この感覚は……ひっ」
くちゅりと耳たぶを口に含まれて、聞いた事もなかった鼓膜の近くの水の音に、刹那は体をすくませる。
強張った体を弛緩させる様に、ロックオンが片手を胸から離して撫で上げれば、その感覚にも刹那は体を震わせて、緊張は増すばかりだった。
「大丈夫だから。お前の体が、俺を受け入れる準備をしてるだけだから」
「……ん、うけ……?」
「そう……ほら」
想定してロックオンが指を這わせれば、刹那の訴えどおりに刹那の体は反応していて、刹那の女は少し濡れていた。
その感覚を教えようと指を動かせば、刹那の口からは想像も出来ないほど高い声が毀れる。
「はっ……! だめ、ろっくお……!」
ロックオンの肩に震える指を食い込ませて、普段からは想像もつかない可愛らしい声を上げる刹那に、ロックオンの興奮も高まる。
拒絶の声を受託と受け取り、盛り上がった気分のまま、ロックオンは唇の位置を変えた。
刹那の耳元から首筋に戻り、更に体の下方に向けて辿り、時折小さくリップ音を立てて、闇の中で刹那に知らせる。
愛されている事実を。
そうしてロックオンがたどり着いたのは、刹那の性器だった。
概要だけは知っていても、実際の性行為に無知な刹那は、ロックオンの行動に驚き、慌てて足を閉じようとした。
「……こら、閉じんな」
「いや、だがっ」
動いた足に俊敏に反応して刹那の足を固定したロックオンに、刹那は混乱のままに声をかける。
股間に口を這わされるなど、刹那の常識の中には無いことだった。
「お互いに気持ちよくなる為だ。黙って足開いとけ」
闇の中に響いた慣れているはずの声は酷く平坦に聞こえて、普段の軽薄とも取れる雰囲気は無く、刹那の抵抗は一瞬で奪われる。
男というものを、このとき初めて刹那は怖いと思った。
それでも求めていた相手が己の体に固執して出た声だと理解して、身を任せる。
事実、それ以外の方法は無いのだが、それでも一瞬、刹那は何も身に着けていない自分の状況が酷く頼りなく感じた。
そんな思考も、次の衝撃には耐えられずに霧散する。
暫く薄い陰毛が掻き分けられる感触があり、その後に感じたロックオンの唇の刺激に、あられもなく足は開いてしまった。
「……ひっ!」
陰唇上部に感じる唇から、全身が痺れるような感覚をもたらされる。
「い、いやぁ! やだ……ろっくお……!」
叫ぶような刹那の声は届かずに、ロックオンは変わらずにソコに唇を這わせた。更には舌まで使い、器用に刺激を繰り返し、先ほど少しだけ触れた刹那の蜜壷に、再び指を沈める。
あまりの刺激に、刹那の背はシーツから離れて浮いた。
「だめ……だ! それ、だめっ!」
硬直した体を、今度はロックオンは宥め様ともせず、更に助長させる。
力が入り、つま先でシーツを蹴る足を撫で摩り、力んだそれを解くこともせずに、抵抗を封じるように片足を持ち上げる。
じゅるじゅると吸われる水音が室内に響き、行為のいやらしさを刹那に伝えた。
羞恥と未知の感覚に、幼い刹那の混乱は増す。
そして体の中心に集まる熱と、のど元に何かがせり上がる感覚に、今までの経験から近い状況をロックオンに訴えた。
……だがその言葉は、男の獰猛な野生をそぎ落とす破壊力を持っていた。
「ろっくお、だめだ! も、我慢……っ!」
「ん……すんな、いいぜ」
「だ、だめ! だって……っ」
「出そうか? いいぜ、出しても」
ロックオンの想定内の刹那の反応に、当然言葉すらロックオンは想定していた。
刹那の蜜壷は、男を誘う蜜を溢れさせて、ロックオンを受け入れる意思を示している。
指を逸らせて注挿させている膣壁は、過去の女たちと同じ動きを見せていた。
近いであろう絶頂を促すように更に激しく指を動かせば、漏れる言葉は当然絶頂を示すものだと思ったのだ。
だが、刹那の口から出た言葉は……。
「ろ、トイレ!」
「…………大丈夫、ココでいい」
一瞬動きが止まったが、それでもソノ感覚が尿意に近いと聞き及んでいたので、そのまま気持ちを取り直して事を進める。
それでも流石に、次の言葉には思いっきり顔を上げてしまった。
ロックオンが刹那の蜜壷に、刹那の限界を導こうと殊更強く指を突き入れた、その時。
「は、吐くー!!」
「……はあ !?」
がばっと刹那の足の間から体を起こして、慌てて叫んだ刹那を覗き込む。
吐くとは。
そんなに自分との接触が気持ち悪かったのかと。
刹那からの気持ちは理解していたはずだ。
周りと自分の意見の一致も見て、更には確認もした。
そもそも、最初は刹那から誘ってきたのだ。
あまりの事に、手元の明かりすらつけてしまった。
「吐くって、具合悪かったのか !?」
そんな素振りは見えなかったが、それでも色々な要素を想定して問えば、いきなり点った明かりに刹那は目を瞬かせ、動きの止まったロックオンの顔を視界に入れる。
暫く呆然とした後、ことりと首をかしげた。
「……いや、去った」
「さっ……え?」
絶叫せんばかりの先ほどの緊迫感は既に無く、刹那は頬を上気させて首をかしげている。
少し汗ばんでいる様子も、通常の情事の様子と変わらない。
それにやはり、刹那がロックオンに向ける視線は、信頼と愛情に満ちていた。
それでは先ほどの言葉はと、ロックオンも刹那と同じ方向に首を傾げる。
流石にそのまま続きをするわけにもいかない。
「……具合、悪いんじゃないのか?」
根源を問えば、刹那は目を瞬かせて、首を横にふった。
ロックオンも今日一日を思い返し、刹那にその節があったか考えてみるが、体調不良など考えられもしない。
訓練も万事快調のようで、今日はロックオンすら床に沈められた。
更に食事も綺麗に平らげていたのを思い起こし、なら何故と更に首を傾げる。
そして残りの可能性を思い、一旦刹那から手を離して、恐る恐る問うてみた。
「……もしかして、いやなのか?」
「いや、とは?」
吐くほどの嫌悪を感じたのかと、頷かれたら落ち込むどころではすまないが、それでも誤魔化されて受け入れられるよりはいいと、ロックオンは口にした。
だがやはり、刹那は首を横に振る。
「そんな事、あるわけが無い」
「……だよなぁ」
ほっとして、思わず刹那の体にすがり付いてしまう。
その時、ロックオンの髪の毛が刹那の首筋に触れ、再びピクリと刹那の体は反応した。
素直に受け取れば、それは刹那の快感の表れで。
それでも先ほどの衝撃発言が抜けないロックオンは、刺激しないようにそっと体を離す。
「……で、気持ち悪いのは平気なのか?」
出来れば続きをしたいロックオンは、刹那に体調を問う。
すると刹那は、また瞬きをして首をかしげた。
「気持ち悪いとは言っていない」
「え……でも」
嘔吐感を覚えたのならばそういう事だろうとロックオンが刹那を伺えば、刹那の感じた嘔吐感の正体を説明してくれた。
「気持ち悪いわけではない。寧ろ、気分は高揚したんだが……」
「……だが?」
「こう、体の中心が熱を持った感じになって、のど元に何かがせり上がって来る気配がしたんだ」
「のど元……なのか?」
説明だけ聞けば、嘔吐感に似ている気がしなくも無い。
だが場面が場面で、ロックオンは刹那が感じたものがなんとなく違う気がした。
そしてその予感は当たった。
「このへんに、大きな塊がきて……」
そういって刹那が指を刺したのは、何てこと無い胸元で。
更に大きな塊と聞いて、そういえばソウイウ感覚だと、どこかの軽い女が話していたのを思い出す。
つまりは、単なる絶頂だったのだ。
あまりの事に、ロックオンはシーツに突っ伏した。
ありえない。
『イク』を『吐く』と叫ぶ女。
初めて見た。
それが素直な感想だった。
そんな話は聞いた事が無い。
それでも気力が削がれない息子を確認して、再び刹那に手を伸ばす。
明かりをつけたまま行為に及ぶロックオンに、刹那は少し躊躇したが、それでも暗闇の恐怖は無く、相手を確認できる状況に瞬きをしただけだ。
だが再び愛撫を受ければ、当然同じ感覚に襲われる。
刹那は素直に訴えた。
「あ、ろっくお……」
「……んだよ」
「やっぱり……だめ、だ」
再度嘔吐感に似たものを覚えて訴えれば、更にロックオンの愛撫は激しさを増して、刹那は体を強張らせた。
「だから……っ」
「……吐け、いいから」
刹那の感覚を助長させるように、蜜壷に含ませている二本の指を大きく動かし、更に胸の頂にも逆の手を這わせる。男よりは少し大きいが、ロックオンが今まで相対してきた女性よりは格段に小さい実を、指先を使って捏ねる。快感を集めたその実は硬く勃ち上がっていて、愛撫を施している筈のロックオンの指先を逆に愛撫した。
「あ……ろっくお、ちがっ」
「違う? なにが?」
体を震わせて快感を受ける刹那は、次第に嘔吐感と離れていく体の感覚をロックオンに訴える。
何かが違うのはわかり、だがその根源が解らずに、首を振りながらロックオンの腕に縋りつく。
しっかりとした明かりの下で、ロックオンが表情を確認しながら愛撫を施せば、言葉の色気の無さとは正反対の様子を刹那は見せた。
常は殆ど無い表情を出し、頬を薔薇色に染めて頭を振る。
幼い中の艶に、口から出る言葉との差が、余計に刹那が誰にも染められていないことをロックオンに知らせた。
初物に拘りは無かったが、なんとなく拘る男の気持ちも理解できてしまう。
可愛いと思えるのだ。
誰にも求めてこなかったモノを刹那に見て、ロックオンは更に自覚を進める。本気で自分が、この少女に落ちていることを。
「ろっくお、ちが、や、ちがっ……あっ」
近づいている絶頂に、刹那の言葉があやふやになる。
その様子に笑みを浮かべた。
「ちがう、な。うん、吐くんじゃない。イクんだよ、お前は」
「い、イク……? いく、イク……っ」
初めての言葉を舌で転がしながら、初めての絶頂に駆け上がる様子を、一瞬も漏らさないように目に焼き付けようと見つめれば、刹那はしっかりと閉じていた瞳をうっすら開けて、潤んだ視線を投げかけた。
その艶に、ロックオンの背中に電気が走る。
促されるように殊更激しく指を動かせば、刹那はロックオンの腕に爪を立てた。
「や、だめ、だ、ろっくお……っ」
「イクか? イっちまえよ、ほら」
蜜壷を探る指と同時に、スリットの上部に位置するクリトリスまで刺激すれば、刹那はあっけなく背中をそらせる。
「イク、イク……イクイク……やあぁ!」
初めての言葉を、初めての絶頂に乗せて、体を硬直させる。
視線が中を彷徨い、刹那が本能でロックオンの指の感触を追っているのが解った。
ぴくぴくと跳ねる体を暫く眺めて、激しい感覚に怯えさせないように頬を撫でてやれば、刹那は体から力を抜いた。
「は……、はぁ……」
荒い呼吸に、快感の激しさを見る。
体中を薔薇色に染めて喘ぐ様は、ロックオンの雄を更に刺激した。
それでも初めての行為を思い、絶頂で一度止めた蜜壷を探る指を、ゆっくりと確かめるように動かす。
一度達した所為もあるのか、ソコは十分男を受け入れられる柔らかさだった。
確認すれば、抗う術などない。
ベッドの下に落としたジーンズのポケットから、組織から成人には支給されているコンドームを取り出して、犬歯で封を切る。
固めのビニールパッケージが破かれる音に、刹那は大きく息をつきながら目を開けた。
「……何をしている」
パッケージから取り出しているロックオンに向けて、まぶたを半分落として質問する。
散々清純な様子を見せ付けられた後でのこの言葉に、ロックオンは口元を引き上げつつ、中身を取り出して空になった包装を、ベッド下に吐き捨てた。
「コンドーム。知らないか?」
言った後、この言葉をロックオンは後悔する事になる。
散々幼い仕草を見せられて、夢を見てしまったのだ。
刹那がどういう人物かを忘れてしまった。
人間は、強烈に印象に残った事を主流に考えてしまうものだと、ロックオンはこの時痛感させられた。
「知っている。だが何故俺が見なければならない」
「……へ?」
ロックオンは、言葉の意味が解からなかった。
いまだに快感を残した刹那の染まった頬を眺めながら、首をかしげる。
避妊は当然のマナーだ。
特に刹那はまだ年若く、ロックオンの意識する婚姻年齢にも到達していない。
何か刹那の機嫌を損ねていることは何となく解かっても、どこにその原因があるのかが解からないのだ。
素直に首を傾げれば、刹那は体を起こして、ロックオンの指に挟まっているゴム製のモノを取り上げる。
そして見せ付けるように、思いっきりその中心に爪をつきたてて破った。
「あー! なにすんだよ!」
これから使用するものをダメにされて、目を見張る。
刹那と同室になってから清い生活を送っていたロックオンにとって、久しぶりの行為はあせりを感じるほどに興奮していたというのに、相手がその意思を覆すように中断を促す。
了解はとっていた。
それなのに、この土壇場に来て何故拒否されるのか。
ロックオンには、刹那の行動は拒否にしか受け取れない。
「おま…っ、嫌なら嫌って口で言えばいいだろ!」
頬をバラ色に染めているくせに、瞳だけはハッキリとした意思を示す刹那に、彼女の行動の論をロックオンは否定した。
嫌なら嫌で仕方が無い。
刹那は初めてであるし、怖いと思う気持ちも理解する。
時間が欲しいなら、そう口で伝えて欲しかった。
ロックオンがそう説明しようとすれば、刹那はその口をさえぎる様に言葉を発する。
「せっかくの処女を、なぜこんなもので遮るんだ。お前は俺が欲しくないのか?」
「……え?」
言葉の意味がわからずにロックオンが再び首を傾げれば、刹那も首をかしげる。
「……処女とセックスすれば、原罪が無くなる。男はその瞬間を望んでいるのだろう? 俺はそう理解していて、そのタイミングは愛する男に捧げられるものだと思っていたが……」
聞いたことの無い論に、ロックオンは顔を顰める。
それでも刹那の表情は真剣で、本気でそう思っていることが伺えた。
「……あー、多分それ、土着的なものだ。俺の地域ではそんな事聞いたこと無い」
ロックオンの言葉に刹那は軽く目を見開いて、その後あからさまに失敗したと顔を顰める。
マイスターの個人情報は、マイスターに選ばれた時に固く口外を禁じられていたのにと、思わず漏らしてしまった出身地の土着的な考えに舌打ちした。
刹那の考えは土着的なものではなく、宗教的なものであると後で判明することになるのだが、この段階で刹那が理解することは無く、快感で火照っていた頬の赤みが引くほど、後悔をした。
刹那がコンドームを嫌がった理由がわかり、ロックオンは肩の力を抜く。
少し気がかりではあるが、それでも刹那がそう思って育ってきたと思うとその夢を無碍にも出来ず、場面に似つかわしくなく刹那をいつも通りに扱い、癖の強い髪に指を差し込んで撫でた。
「わかった。んじゃ、ちょっと待ってろ」
頭を撫でて、頬にひとつキスを落として、ロックオンはベッドを降りる。
理解してもらえたと思った言葉の後の行動に、刹那は首を傾げつつ、見慣れない裸体の男の背中を視線で追った。
ロックオンは自分のクローゼットを開けて何かを取り出し、再びベッドに戻る。
その手には、刹那が拒否したコンドームが握られていた。
刹那はロックオンの手の中のものを見止めて、更に顔を顰める。
言葉と行動の違いが理解できなかったのだ。
ロックオンは枕元にコンドームを置き、再び刹那と共にシーツに潜る。
「出そうになったらする。それでいいか?」
毎日計測している基礎体温で、刹那が今、排卵後の高温期だと認知している。
多少先走りがこぼれる程度では妊娠はしないだろうとの考えでロックオンが問えば、それでも刹那は首を横に振った。
何故、とロックオンが視線で問うと、刹那はきりっと視線をきつくする。
「そんなものをつけられたら、俺はお前の精子を受け取れない」
「……出さないとダメなのか? そういう風習?」
「違う。だが折角のセックスで、何故子供を諦めなければならない」
「子供って……」
確かに今しているのはセックスであり、その本来の目的は当然子作りだ。
だが条件は満たされていない。
この状況で出来るセックスといえば、愛情の確認作業以外、何があるというのか。
「……結婚できない年齢の癖に、何言ってるんだよバカ」
最初から刹那の目的は一貫していた。
この場に来てもそれが変わらないのだと、ロックオンはため息が出る。
別に刹那に自分の子供を身篭って欲しくない訳ではない。
将来的には当然ロックオンとて考えている。
それでも今この場なんて、当然考えられない。
「結婚できなくとも、子供は産める」
真顔の刹那に、再びため息を漏らす。
「子供が子供産んでどうすんだよ」
「生物学的には俺は大人だ」
「社会生活営んでる種族としては、お前はまだ子供。ソウイウのは一般常識身に着けてからだ」
ぱちんと軽く額を弾いて考えを正せば、刹那は弾かれた額を押さえて頬を膨らませる。
「なら何故今する」
根本を理解していない発言に、今度はロックオンはため息ではなく笑いをこぼす。
「そらお前、お前さんの事愛してるからに決まってるだろ」
だからこその欲情と行為なのだ。
確かに行動自体は繁殖行動だと、ロックオンも頷く。だがそれをする為の感情行動だとも合わせて自覚していた。
愛を育みながら、時間が解決することを待てばいい。
そう思っていた。
だが刹那は変わらずに頬を膨らませる。
その表情は素直に可愛かった。
故に、行動は止められない。
納得しない刹那に、ふとロックオンは思い出したことを告げた。
「俺は、ちゃんと結婚してから子供は作りたい。これが俺のお願いだ」
片目を瞑って悪戯に笑って見せれば、刹那はキョトンと瞳を瞬かせる。
忘れているのだろう事に、ロックオンは刹那の耳元で囁く。
「前、お前言っただろ? 俺に借りは返すって。俺の言うこと聞いてくれるってさ」
「……あ」
それは、まだロックオンが刹那を女と認識する前のことで、言われて漸く刹那は思い出す。
刹那の望むマイスターの形に近づけてくれたロックオンへの、感謝の言葉からでた約束だった。
思い出し、一度ぱちりと瞬きをした後、刹那はため息をつく。
「……お前は、卑怯だ」
刹那がどの答えを選ぼうとも、全てが自分の都合のいいように先回りをするロックオンに、刹那は心底呆れる。
そこまでロックオンが何に慎重になっているのかは皆目見当がつかなかったが、それでも「お願い」と言われて断れるわけもない。
約束は約束だ。
刹那が逸らせた視線に、伺うような視線をロックオンはかぶせる。
「……な?」
ダメ押しのように相槌を求められて、かぶせられた視線に促されるように、刹那は翡翠の瞳を見つめる。
どこかで気がついていた。
この男の幼児性に。
大人の行為をしているはずなのに、その雰囲気を前面に出すロックオンに、刹那は表面には現さずに心の中で問う。
生きることに必要な行為以外、刹那の頭の中にはなかった。
故に、今のロックオンの心情がよくわからない。
子供は作りたくないと言うくせに、セックスをしたいという。
更には『性欲処理には使えない』と断言したくせに、現状の何が違うのかがわからない。
愛情の確認というが、そんなものは態度だけで十分だと思っていた。
大人の癖に、まるで幼子のように体温を求める気持ちに、疑問を持つ。
それでも了承してしまうのが愛情かと、刹那は目を伏せる。
「……わかった」
本当は何一つわからない。
それでもロックオンが刹那を求めている気持ちだけは理解出来、一生に一度の機会を彼に与えたいと刹那は思い、自分よりも何回りも大きな体に腕を回して抱きしめた。
「俺は、お前のものだ。好きにしろ」
刹那の了承の言葉に、ロックオンは破顔する。
ぶっきらぼうな、飾り気のない言葉に、裏を感じることはない。
ストレートな愛情に、心から喜んだ。
すみませんベッドシーンが続くとか…万死です(ジャンピング土下座)
次回はエッチシーン自体は大して長くないです。
また兄さんがんばる予定。
……いえ、色々と(汗)
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