Begin The Night 8

2011/09/04up

 

 育児機関が置かれているコロニーを出て、活動が開始される。
 ライルは再びケルディムのシステムと向き合い、シミュレーションをこなし、ハロに自分の射撃ポイントを学習させた。
 その間他の面々は、情報収集と環境設備に力を入れ、月の軌道よりも地球に接近した頃、突然入った一本の緊急暗号通信が艦を沸きあがらせた。
 その時は丁度ライルはシミュレーター中で、その内容を一緒にコクピットに入っていたハロに問う。
 そうすればAIロボットは律儀に昔の仲間が見つかったと、そう教えてくれた。
 アレルヤ・ハプティズムという名前に、随分と信仰の厚い人物なのかと想像する。
「成る程ねぇ」
 その情報で、結局CBはフォーリンエンジェルスで守りきれずに死亡させてしまったマイスターは、ニール一人だったと判明した。
 まだ心の傷が癒えていないスメラギの戦術予報の優秀さを、突きつけられた。
 早く復帰してくれないかと、ブリーフィングルームに向かいながら、ライルは祈る。
 何度か酒に誘った。
 そして何度か説得も試みた。
 だが新参者のライルが紡げる言葉など、彼女の上を滑るだけで、結局楽しい酒の席にしようと、彼女にこの場の楽しさを思い出してもらおうとの努力だけで終わっている。
 頑なな彼女を突き動かしたのは、結局刹那だった。
「間違えてもいい。死んでもいい。誰もあんたの所為にはしない」
 そう毅然と言い放った刹那に、スメラギは心を動かされ、今回の作戦指揮を執る事を了承した。
 夫を亡くした刹那の言葉だからこそ、彼女の心に響いたのだろう。
 行動と頭の両方を兼ね備えている女神に、ライルは拍手してしまう。
 結局、刹那がいなければ、ココの人間は立ち上がる事が出来ないのだ。
 そんな彼女を守る。
 ライルの目標はそこだった。
 そして得た作戦を、更なる自分が渇望する世界のために利用する。
 暗号通信でカタロンに情報を流し、その場所に収監されている幹部を奪取する作戦を流した。





 アレルヤ救出作戦には、ライルにも役割が与えられていて、初出撃に、ライルは肩をすくめる。
 そんなに余裕を持たせてもらえるとも思っていなかったが、それでもライルに与えられたケルディムという名前のガンダムに、まだしっかりと慣れたかと聞かれれば、それには曖昧な返事しか返せない。
 シミュレーションやプログラムは理解したし、実際に宇宙空間で操作の訓練もした。
 だが地上では初めてだ。
 カタロンの旧型MSには訓練で乗ったが、まったく格が違うこの性能を使いきれるのか、少々不安だった。
「とうとう初実践か。フォロー頼むぜ」
 目の前を行くティエリアに請えば、ティエリアは涼しい声でライルに返す。
「出番があるとは思えないが、戦場の空気に慣れるにはもってこいの機会だ。援護射撃に期待している」
「それはどうも。精々足手まといにならないように、頑張らせてもらうぜ」
「そうしてくれ」
 簡単な会話を交わして、各々自機に乗り込む為に、格納庫に向かった。
 そこで気遣わしげに、ケルディムの前に佇んでいた刹那に出会ってしまう。
「……大丈夫か?」
 諸々の事情を理解している刹那は、縋るような瞳でライルを見つめる。
 その中に、不安が揺れ動いているのを見て、ライルは刹那の頬にキスを落とした。
「大丈夫大丈夫。物陰に隠れての援護射撃だし、ターゲットスコープの設定も、ティエリアに指導してもらった。ま、途中でビビッてトイレに行きたくなった時が心配なくらいだ」
 おどけて告げれば、刹那はそんな冗談を受け取れず、俯いてしまう。
 握り締められた拳をライルは持ち上げて、刹那に……いやソランに、この組織に参加するときの決意をもう一度告げた。
「俺は死なない。絶対に。お前を残して死ぬ事はない。だから安心しろ」
「……ああ、そうだな。信じる」
「そうそう。信じてくれ。お前が信じてくれている限り、俺には危険は無いだろうよ。勝利の女神様」
 ソランのパイロットスーツ越しの手の甲にキスを落として、彼女が見守る中、外に出るためにコクピットに体を滑り込ませた。
 各センサーを起動させれば、外部モニターが格納庫の様子をライルの視界に映し出す。
 その中で、やはり不安げに瞳を揺らしているソランに、彼女には見えなくとも笑顔を作った。
 時間が迫っている状態で、ソランも佇んでいる事も出来ずに、足早に自機であるダブルオーに向かう。
 乗り込む様まで、ずっとライルは視線で追った。
 そして心の中で祈る。
 自分よりも危険な任務の彼女が、無事に帰れるようにと。


 トレミーが大気圏突入モードに入り、しっかりと大気の中に突っ込んだ後、各機体の発進シークエンスが行われた。
 最初にトレミーから射出されたのは、地上で真っ先に潜伏する予定のライルだった。
『リニアカタパルト、ボルテージ上昇。射出タイミングをケルディムに譲渡するですぅ!』
 相変わらず緊張感の無いミレイナのオペレーションに、ライルは苦笑しながらも、初めての難易度の高い出撃に緊張した。
 それでも訓練の成果もあるのか、手が勝手に動く。
 操縦桿を握り締めて、ミレイナに返答した。
「了解。アイハブコントロール」
 順に光っていくゲージを眺めながら、各機能を、レバーを跳ね上げて実施の状態に固定させた。
 その時点で、ふと気になった。
 自分は「ロックオン・ストラトス」として、戦場に立つ。
 ニールの模倣をしなければならないのだ。
 役割的にそう認識していたライルは、ニールの補助演算機であった、AIロボットのハロに問う。
「なあハロ、兄さんは出撃の時、何か決まった台詞とかあったか?」
 どうせなら、とことん。
 この場で自分の役割を果たしてやろうと、そういう心意気でハロに問えば、「狙い打つぜ」というなんとも場にそぐわない言葉が伝えられた。
 出撃の際、狙い打つとはどういうことか。
 普通は「出撃する」や、「ミッションを開始する」などと言う、これから自分がするべき事に対する言葉だろうと思ったのだが、それでも仕方が無い。
 あの奔放だった兄を思い浮かべて、諦めて同じ言葉をブリッジに伝えた。
「ケルディムガンダム、ロックオン・ストラトス。狙い打つ!」
 やけになって叫べば、案外しっくり来る言葉に、機体を空中に固定させた後に笑ってしまった。
 ハロが伝えた言葉は、実は出撃の際に言われていた言葉ではなく、実際に敵と交戦する間際に呟かれていた言葉だったのだが、ライルのシークエンスを担当していたミレイナはニールと面識が無く、結局誰もライルに真相は教えなかった。
 ライルが思った「変な言葉だ」との感想は、当然ニールにも考え付かない言葉であって、彼が実際の出撃の際に、そんな台詞を伝えた事が無い事実は、この後もライルに知らされることは無かったのである。
 更にマイスター全員から、後に「変な気合の入れ方だ」との感想を持たれることも、この時にはわかるはずも無いことであった。

 予定ポイントに移動中に、母艦から出撃する他の二機をモニターで捕らえて、心のそこから彼女の無事を祈る。
 多分、彼女も自分の機体を見つめて同じ事を思っているのだろうと予測しながら、とりあえず目の前のミッションに思考を集中させた。


 作戦は、ティエリアと刹那の機体を主に活用する方法で、ライルは物陰に隠れながら、劣勢と判断された場合に、遠距離射撃を担当していた。
 その要請は、ミッション開始から3分余りでライルに届いた。
「結局、やる事あるのね。ま、その方が都合が良いけど」
 CBの作戦は、あくまでもマイスターの救助であり、それ以外のカタロンの構成員を逃がす作戦ではない。
 スメラギの戦術をケルディムの中で確認して、最終行動は予めライルが予測していた内容と大差ないことを確認し、最終作戦を配置につく間にケルディムの中からカタロンに連絡した。
 ライルの出番は思ったよりも多く、慣れないMSの中からの射撃でも、何機かは撃墜できた。
 流石は世界最新兵器と、感心してしまう。
 ライルの撃墜に、サポートAIロボットのハロは、嬉しそうに「アタッタ!」と繰り返してくれる。
 それに対して「まぐれだよ」と返して、次のターゲットに集中する。
 自身ではライルはそう思ったが、その戦果はターゲットに対する認識が叩き込まれているライルの能力だった。
 カタロンで入手していたアロウズの兵器の動きを機能から予測して、回避やターゲットオンのプログラムを仕込んでいた。
 それは昔、狩猟に父親に連れて行かれた時と、同じ感覚だった。
 CBの作戦に乗ったカタロンは、無事に仲間の救出を果たして、その脱出にもライルは自機を飛ばして援護した。
 その行動は、実際にはアロウズのMSを撃墜する事で達成されていたので、怪しまれる事もなかった。
 ただ、ティエリアと刹那には知られているだろうと、そんな事を考えながら、母艦に帰投する。
 そして更に、救出したマイスターの実力を見せ付けられて、唖然としてしまう。
 情報に寄れば、彼は5年もの間、連邦に身柄を確保されていたと言うのに、衰える事を知らないかのようなMSの操縦に、やはり彼らの戦力は凄まじいと、そう思えた。
 そしてプトレマイオスは、そのまま海中航行に移行して、この艦の性能も見せ付けられる。
 大気圏突入の性能だけではなく、どこでも活動できる技術力に、感服してしまった。
 当然カタロンには、これほどの性能の母艦は無い。
 素直にティエリアにその事を伝えようと、彼の後を追えば、救出したマイスターと初めての顔合わせとなってしまった。
「ロックオン! 生きて……!」
 また同じ反応を繰り返されて、肩を竦めてしまう。
 全員、ニールが死んだ場面は見ていると聞いているのに、兄に縋るクルーに、それだけ彼がこの艦の中心だった事を悟った。
 その後釜は、今の所、刹那に移行しているように見える。
 彼女は彼の妻だった。
 その立場になっても、おかしくは無い。
 ライルは面倒くさいとは思ったが、それでも自分の身を説明した。
「はい、ロックオンです。でも悪いけど、ずっと生きてました。ちなみにフォーリンエンジェルスはテレビの画面で見てました」
 簡潔に伝えれば、我を取り戻したらしい彼は、頬を染めてライルに謝罪する。
 なんとまあ、純朴な。
 そんな感想を得た。
 ティエリアは、そんな彼に「変わらない」と懐かしそうに頬を緩ませて、帰ってきた事を祝福していた。
 それが本当に、彼の人生にプラスになるかは、ライルには解らなかったが、それでも話題に口は挟まなかった。


 ライルがアレルヤに簡潔に自分の身を説明すれば、アレルヤは驚いてオッドアイを見開いた。
「双子、だったんだ」
「まあね。同じ顔の理由は、そういう事。俺の方が弟で、あいつが兄貴だった。タイムラグは30分でも、まあそういう事」
 兄が18時48分生れで、自分が19時24分生れだったと、更に追加して説明を施せば、細かい数字にアレルヤはコーヒーを手に笑ってくれた。
 だがそのライルの説明に、ティエリアが眉を寄せる。
「以前ほど、秘匿事項を強調する気は無いが、出来るだけ自分の状況は隠してくれ。それでなくては、お前の名前を「ロックオン・ストラトス」にした意味がなくなる」
 奪取されたと言われている、ライルは情報でしか知らない「ヴェーダ」が手元にあった頃は、自分にまつわる事は殆ど口にしてはいけなかったと聞いている。
 今は艦全体に、その「ヴェーダ」に対して情報が流れないようにプロテクトされているらしいが、それでも危険性を諭されて、ライルは軽くティエリアに了承を告げた。
 厳しく自分を守ってくれるティエリアに、ライルは素直に感謝していた。
 故に、言葉には沿う。
 ソランからも、勧誘の時に彼と相談して決めた事だと、名前に関しては説明を受けていたので、アレルヤに「全部終わったら、全部説明する」と言葉を濁して、会話を終わらせた。
 アレルヤもライルの言葉に沿って、頷いてくれた。


 その後、ティエリアの端末に、イアンから連絡が入った。
 内容は、アレルヤと共に収監されていた、刹那が救助した人物への対応のミーティングだった。
「ロックオン、悪いが君は、アレルヤをこの艦のシャワーブースと、部屋に案内してくれ」
「了解。だけどケルディムの調整はいいのかよ」
「一回出撃した後は、ハード部分のメンテナンスを入れる。だから、ソフト部分の僕達の出番は明日以降になる。問題なく、アレルヤと一緒にゆっくり休め」
 結局ティエリアは、初出撃をしたライルを思いやってくれているのだと理解できて、ライルは笑って了承を告げた。
 ティエリアが出て行った後、アレルヤとコーヒーを飲みながら少し談笑し、ずっと自由にならなかった身を解せと、ライルはシャワーブースに案内して、その後、フェルトが用意してくれていた彼の制服を手渡した。
 オレンジを基調にした彼の制服は、ライルと同じように自分の機体を現していて、自分たちの制服の色に、まるで殉教者のようだとの感想を持つ。
 自分達が殉じる色だ。
 ソランも刹那として、ダブルオーと同じ色の制服を身に纏っている。
 ティエリアも然り。
 ダブルオーは、元々刹那が使用する目的で作られていたとの事で、カラーリングは刹那の前の機体である「エクシア」と同じであるとの説明も受けた。
 残っていたマイスターがティエリアだけであったのに、何故その場にいない、更に生死も不明の刹那の為の機体があったのかが疑問だったが、ティエリアに質問したところ、「僕には専用の機体がある」との事で、一番生存確率の高かった刹那になったとの事だった。
 説明にもなっていない言葉を返されて、つまりはライルには流せない情報なのだとライルは判断して、その話は流してある。
 それでも色の意味を、アレルヤを部屋に送り届けた後、各部屋の説明をして自室に戻り、脱いだボレロを見つめながら思った。
 兄は、この色に何を思っていたのかと。
 ニールが生きていた頃は、制服は無かったらしいが、ソランの家で借りた事のあるニールのTシャツは、やはり緑だった。
 彼も何かを思っていたのだろうと、そう思えた。





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やっとアレルヤ。展開遅すぎてすみませ…ッ(:D)| ̄|_
本編設定を借りたパラレル(同人はみんなそうですけど)なので、どこを抽出して、本編以外のどこを書くかで、Willの時も悩みました。
そして今回も悩んでいるという事です…。
そんで今回の場所を書くに当たって、一期を全部見直しました。
兄さん出撃のときは一度も言ってないです。確認しました!ww
スコープ下ろす時にしか言ってない。当たり前ですよねぇww
でも誰も真相はライルには伝えないわけですよ。面白いから放っておかれますww