数日後、修理が終わったドックのスタンバイルームで、刹那は薄闇の中に浮かび上がる4機のガンダムを見つめていた。
アニューが去った後、当たり前のように奇襲はぱたりと途絶え、完璧な補修が終わった機体を、複雑な気持ちで眺める。
引き換えたものの大きさに、刹那は目を閉じた。
その時、背後に気配を感じ、その気配が沙慈の物だと諭されずに理解していた。
理由はわからずとも、刹那は理解する。
その不自然さには、気がつかなかった。
「……他に方法はなかったの?」
命を奪う、その極論しかなかったのかと、刹那が思ったとおりの人物である沙慈がスタンバイルームの扉で問えば、即答で刹那は答えた。
「なかった。あの時彼女は、アニュー・リターナではなかった。撃たなければ、ライルが死んでいた」
きつく拳を握り締めて、苦しみに耐えている事を表現するように、刹那は思わずライルの本名を明かしてしまう。
そんな刹那に沙慈も眉をひそめて、それでも攻撃の理由を問うた。
「どうしてそう言い切れるんだい?」
「……何故だろう。でも俺には確信があった。多分、ライルも……」
今までの彼女を知っているからこそ、断言できるのだと言う刹那に、沙慈は首を傾げる。
人質をとって、逃走を図った彼女。
十分、彼女にも疑念があった。
なのに刹那は、その事を否定する。
ライルも、今の刹那と同じように、攻撃に関しては何も言わなかった。
何かが前と変わっている。
沙慈にはそう思えた。
「ルイスもそうだ。彼女も何かに取り込まれている」
「ココにいないルイスのことも感じるのかい?」
「ああ。……何故だろうな。根拠などないのに、確実に彼女の事も感じられる」
視線を合わせれば、真実だといわんばかりの真剣な眼差しを沙慈は受ける。
「ねえ、最近の君は、どこかおかしいよ。今までとは何かが……」
沙慈が指摘しようとしたところで、館内放送が入る。
『艦内のシステムチェックの為に、一時的に電源をカットします』
放送終了と同時に、あたりは真っ暗になった。
何気なく沙慈が刹那がいる辺りに視線を戻せば、驚く現象が起こっていた。
目が、光っていたのだ。
瞳が金色の光彩で、今まで見てきた刹那の赤褐色の瞳とは変わっていたのだ。
「刹那!」
「どうした、沙慈」
何の変化もないような声音で、叫んだ沙慈に首を傾げる。
沙慈も首をかしげ、刹那に刹那の体に起こっている事を伝えようとしたところで、電源が戻った。
それと同時に、刹那の瞳の色も元に戻る。
「艦の操舵の時間だ。沙慈も今のうちに休息をとった方がいい」
自覚症状がないものなのだと、沙慈は理解する。
故に余計、刹那が心配だった。
「ちょっと待ってよ、刹那」
「なんだ」
「君、どこも体調はくずしていないかい?」
突然の質問に、刹那は数回大きく瞬きをする。
「いや、特に体調は崩していないが……なんだ、突然」
沙慈が先程の刹那の異常を伝え、医務室への促しを刹那に伝えようとしたタイミングで、刹那がブリッジに呼び出される。
目の一件は、この場では伝える事が出来なかった。
アニューがプトレマイオスに与えた打撃で、システムがダウンしている時に、暗号が入っていた事が問題になり、ブリッジに全員が集合した。
そしてランデブーポイントのみの暗号通信に、クルーは答えることを選択した。
当然初めはライルが刹那と共に行くと提言したが、この非常時にマイスターが二人も抜ける事など出来ず、オーライザーの操舵士として沙慈に配役が決まった。
時間が押していたランデブーに、ブリッジを出て直に、沙慈と刹那は格納庫へと向う。
格納庫へ続く道に、ライルは先回りで刹那を待った。
数分遅れでその場所に到着した刹那は、ライルの行動に首を傾げる。
たった今決めた進路に、何か不服でもと伺い見れば、眉間に皺を寄せて刹那と視線を絡めない。
「……お前、ホントに沙慈といくのか?」
決まった事柄に対しての問いに、傾げた首が戻らない。
「一番妥当な配役だ」
なにを今更と、刹那がライルに視線で問いかければ、実に馬鹿馬鹿しい理由でライルは頬を膨らませた。
「俺以外の男と二人っきりで、何日も過ごすのかよ」
「…………」
ライルが白状した理由に、刹那は一瞬呆けてしまう。
その後、ライルの馬鹿馬鹿しい嫉妬に、ため息をつく。
「……馬鹿か。相手は沙慈で、これは作戦だ」
「その作戦も、単に人と会うだけだろ。オーライザーも00も二人で楽しめるスペースがあるじゃないか」
「加速中に、どうやって出入りできる」
「命綱あれば簡単だろ」
手段を全て話し終えて、ライルは頬を膨らませる。
馬鹿馬鹿しいが、刹那は胸の奥がほっこり温かくなる感覚を得た。
まるで子供のような事を言う恋人に、刹那は頬にキスを贈る。
「今の俺には、お前しかいない。沙慈など相手に出来ない。それに沙慈にはルイスがいる」
戦闘訓練を受けていない、かつ相手がいる一般人だと主張すれば、今度はライルは大きくため息をつく。
「……でもお前、案外情に流されるだろ。訴えられたら答えちゃうんじゃないか?」
「ありえないと言っているだろう。いい加減しつこいぞ」
キスを贈って尚、馬鹿な嫉妬で頬を膨らませているライルに、刹那はどうしたものかとライルを見つめた。
そんな折、館内放送が流れる。
『ダブルオー、オーライザー、準備が整いました。各機、出動を急いで下さい』
ランデブー時間を示唆されて、天の助けだと刹那はライルを残して去ろうとした。
だがそんな行動はお見通しとばかりに、ライルはがっしりと刹那の腕を掴んだ。
「離せ。もう時間だ」
「まあまあその前に、一週間近く離れる恋人に、愛情を示してくれよ」
「なに……ッ!」
言葉を遮られて、刹那の唇に慣れた感触が触れる。
舌を絡め、お互いの唾液を交換してと、時間も忘れるような激しいキスを交わす。
それでも差し迫った時間に、ライルは刹那の頬に軽くキスを落として頬を撫でた。
「……ラグランジュ5で会おうぜ」
合流ポイントを示せば、キスでとろけた刹那の顔が引き締まる。
「ああ、行って来る」
「いってらっしゃい」
ライルから離れて、覚えのある遣り取りに、移動バーを掴みながら、ライルを振り返った。
ニールの時は、この艦を離れていた所為で、最後に会えなかった。
振り返ったライルは、暢気に手を振っている。
刹那が求めたものを探している間に、夫は帰らぬ人になったのだ。
だが今回は、なぜか無事なような気がして、刹那はキッと前を向いた。
背中を押してくれたライルに、感謝を込めて、ダブルーオーに乗り込む。
『ダブルオー、搭乗完了した』
現状をブリッジに報告すれば、オープン回線から沙慈も搭乗完了を伝える。
前のようにはならない。
刹那は何度も心の中で繰り返して、機体をスリープから実地に操作した。
いくつも並んでいるバーを跳ね上げて、網膜パターンを読み取らせれば、あとは宇宙空間に出るだけだ。
『射出タイミングをダブルオーに譲渡するです』
対応したのはミレイナだった。
過去の戦闘を知らない彼女には、何事もないワンシーンだった。
彼女も6年前の出来事を知っていれば、発進シークエンスの声も揺れるだろう。
それでも行かなければならない状況に、刹那はミレイナに力強く返答した。
「了解。ダブルオー、発進する」
コントロールバーを握り締めて、刹那は宇宙空間に出た。
それを追う様に、スピーカーから沙慈のシークエンスを拾い、両機がプトレマイオス前方に浮かんで直に、合体する。
その様を、ライルは第二展望室から見続けて、喫煙スペースから刹那を見送った。
「ばっかやろーが」
煙と一緒に不満を訴えれば、そこに珍しくティエリアが現れた。
煙を見て少し眉を寄せ、それでもライルと共に刹那の機体を見送った。
「君たちは、兄弟揃って愚か者だ」
ティエリアの言葉に、ライルは視線をティエリアに向ける。
「前のロックオンも、行かせたくなかったのに、刹那の追い求めるものを擁護した」
「……俺は別に許したわけじゃないぜ。多数決の問題だ」
「だがこうやって、刹那を見送っている。前のロックオンも、辛そうに刹那を見送った」
展望室のスクリーンに映し出されているダブルオーライザーの光が星と同じ大きさになるまで見送っているライルに、ティエリアは昔のロックオンの事を話す。
そんなティエリアに、ライルは肩をすくめた。
「べっつに今生の別れじゃあるまいし、一週間くらい会えなくても昔じゃ当たり前だった」
ライルの言葉に、ティエリアは視線をライルに固定させる。
「あれ? 話してなかったっけ? 俺らの馴れ初め」
「会社のつながりで出会ったとしか聞いていない」
「そっか。俺達、別の会社でさ。しかも休みも一応土日って決まってたけど、実質不定休だったから、二週間くらいは会えないのは当たり前だった。なのに今、寂しいって感じているのは、俺の甘えだ」
喫煙場所で大きく煙を吐き出して、ライルは不安を隠す。
たった一機のモビルスーツで、もし戦闘が起こったら。
そう考えると心配なのだが、今までの彼女の経歴を思い起こして、その不安を煙に乗せて吐き出した。
そんなライルに、ティエリアは小さく笑った。
「……やはり君たちは愚か者だ」
「そりゃどうも申し訳ありませんね」
ライルの強がりを見抜いたティエリアに、ライルは笑って最後の煙を吐き出した。
ライルの不安などお構いなしに、順調に航海は進み、先にプトレマイオスはラグランジュ5に到着した。
そしてその数時間後、ダブルオーとオーライザーも基地に合流した。
ライルが不安を抱いたとおり、戦闘の傷跡が残っているダブルオーを眺めながら、ドックの操作室で刹那の軽く頭を叩いた。
「ったく、敵機を引き寄せるくせに、無事に帰ってくるんだから、お前の背後の勝利の女神は最強だな」
次々と伝説を打ち立てる愛した女に、ライルはため息をつきながら先程叩いた頭を撫で、抱きしめる。
「長かったぜ、この一週間」
不在の文句を零せば、刹那はソランに戻って、ライルの胸に頬を寄せた。
「俺も、会いたかった」
「お、珍しく素直じゃねぇか」
再び会えた愛しさを確認しあっていれば、刹那がラグランジュ5から持ち帰ったデータの検証が終わり、刹那はパイロットスーツを脱ぐ間もなくブリッジに呼び出しを受けた。
「はぁ、ココは給料は良いし美女も揃ってるけど、これだけは自由にならなねぇな」
端末を片手に、ライルは肩をすくめる。
そんなライルに、ソランは軽く唇にバードキスを贈った。
「ブリーフィングが終わったら、少し時間が空く筈だ。続きはその時に」
艶やかに笑って、ソランは刹那の顔に戻って、ライルを置き去りにするように、素早く部屋から出て行ってしまう。
「ちょっと! 同じ所に行くのに置いてけぼりかよ!」
手を繋いでブリッジに行くようなタイプではない事はわかっていても、寂しさが募る。
ライルは盛大にため息をついて、部屋を出た。
会議の内容は、当然刹那が持ち帰ってきた王留美からの情報で、その情報にブリッジはにわかに明るい空気をもたらしてくれた。
6年もの間、探し続けていた量子型演算システム『ヴェーダ』が見つかったのだ。
クルーは全会一致で奪還作戦を練る。
足元のモニターには、その場所にアロウズが続々と集結しているさまが映し出されていて、情報の信憑性は格段にその地位を上げた。
「じゃあ、ヴェーダ奪還作戦始めるわよ。終わったら2週間くらい、ヴェーダから有給休暇をもぎ取りましょう!」
5年近く、休息のなかった人伝の活動の辛さをスメラギが笑えば、更にブリッジのテンションは上がる。
「さあ、行きましょう! みんな、しっかり役職を果たしてちょうだい!」
スメラギの言葉に、全員が頷き「了解」と声をそろえた。
その直後から、激戦が略確定している状況に備えて、各々が調整を始める。
刹那と沙慈のダブルオーとオーライザーは、ラグランジュ5までの戦闘で傷ついた機体を修理しつつ、ハードである機体はバスティ親子に任せて、ソフトの改修に手をつけた。
刹那自身、今までのソフトでは、今の自分の思考と反応よりも遅く、各パーツのソフト改修を行っていた。
沙慈も刹那に合わせて、ソフトの強化と、更にハードのメンテナンスにバスティ親子にこき使われ、ライルは笑ってしまう。
この艦の中で、一番疲労しているのは組員でもない沙慈だろうと。
そんな沙慈を横目に、ダブルオーまでライルは飛び、コクピットの入り口に座り込んでいた女神に、勢いをつけて抱きついた。
「せーつな!」
端末ごとコクピット内に刹那を押し込めて扉を閉めて、ライルは笑う。
「……何がおかしい」
「いやぁ、急いでるなぁって」
「当たり前だ。あと3日もすれば目的空域に到着する」
生真面目な答えに、ライルは居丈高に笑い、刹那の胸を掴み上げた。
「それだけじゃないだろ? お前の「後で」って言葉は何処に行ったんだよ。間違いなくココだよな?」
「……」
言い当てられた不埒な事柄に、刹那はソランに戻って頬を染める。
そんなソランの様子にライルはにやける。
なんだかんだ言いつつ、心底愛されていると実感できる瞬間だからだ。
ソランの手から端末を取り上げて、制服のズボンに手をかける。
「なにをッ」
いきなりの行為の開始に、更に場所にソランがライルの手に手をかけて問いかければ、当たり前のような顔と声色で、ライルはソランの手を跳ね除けて、ショーツごと膝の部分までスルスルと下ろす。
「もう10日以上だぜ? いい加減限界」
「だがッ、お前にだってやる事が!」
「ああ、今ミレイナが最終調整してくれてる。新装備だからな、ベースはおやっさんが作ってくれてるさ。だから今、この艦の中で一番暇なのは俺。そんで二番目に暇なのはお前。自分のソフト弄っていられる時間があるなら、もっと緊急手当てしなきゃいけないものあるだろ?」
そう言って、ライルは自分の腰をソランの腰に押し付けた。
固いそれに、更にソランは頬を染めて、口を閉じる。
了承の沈黙に、ライルは嬉々として自らの制服のズボンのファスナーを下ろして、我慢も限界を訴えている息子をソランの割れ目に擦り付けた。
「お、もうヌルヌル。お前も我慢してたんだ」
ライルの言葉に、ソランは己の股間から顔を出しているライルの分身を見れば、ライルの言うとおりに卑猥に濡れ光っていて、慌てて視線を離す。
「今更恥ずかしがる事でもないだろ。ほら、お前も俺の事が欲しかっただろ?」
緩く割れ目を分身で刺激しながら問えば、ソランは感じる部分でヒクヒクと体を震わせながらも素直に頷く。
体を震わせながらも、必死にソランは訴えた。
「せいよ……く、より、も、生きるための、努力だッ」
その言葉に隠されている彼女の存在に、ライルは笑った。
「まあ、確かにな。でも生きる楽しみがなきゃ、こんな特攻して千人切りさせるような組織になんていられるかよ。だから、な?」
最後は懇願になってしまったが、ライルの本心だった。
みんなで幸せに暮らせるように。
その目的は変わっていない。
だからこそ、今を感じたいのだ。
幸せをエネルギーにして戦わなければ、自己の破滅は免れない。
ライルは結局黙ったソランの足を持ち上げて、シートに押し付けながら自らの分身を、帰るべき場所へと埋め込んだ。
「あッ!」
「あー、幸せ。お前の中、ホントに最高」
暫くの間、お互いの熱を分け合って、幸せを噛み締める。
その後、この先のやることの多さに、ライルは乱暴にソランを攻め立てた。
「あ、あ、あぅ! ら、ライ……ッ!」
「時間ねぇからな。イきそうになったら素直にイケッ」
暫くしていなかった所為か、ソランの中も歓喜に震えていて、ソランよりもライルのほうが早いかとライルが冷汗を流したところで、ソランの体が絶頂の前兆を見せる。
ココまで来てしまえば、後はライルが分身でソランの泣き所を攻めるだけだ。
力強く何度か奥地のPスポットを突き上げてやれば、ソランはあっけなく体を緊張させて、つかんでいたライルの制服の腕を握り締めて絶頂を迎える。
その絶頂の胎内の動きに逆らう事無く、ライルも自身を解き放った。
子宮の入り口に思う存分擦り付けて、愛しい女を確認する。
一息ついてソランを見れば、とろけた顔で荒い呼吸を繰り返していた。
「もっと欲しいか?」
続きを問えば、ソランはふるふると首を横に振って、やるべき事を、無重力にういている端末を指差して、ライルを制する。
「次は、ヴェーダ、奪還後の、バカンスで」
約束の時を共に迎えようと強請る珍しいソランに、ライルは笑って額にキスした。
その言葉の影にある、ソランの悲しい過去は、この段階ではライルは知る術もなかった。
「覚悟しておけよ。なんか俺、最近調子良いし、お前がイキ狂うまでしまくってやる」
ライルの言葉に、ソランは心底嬉しそうに笑ってキスを強請る。
あまり見る事の出来ない愛した女の求めるものを、ライルは思う存分与えた。
過去はわからずとも、この先の戦闘の厳しさは、スメラギの戦略で嫌というほど伝わってきている。
来週のこの時間に、幸せがある事を祈りながら、ライルは縋るようにライルに寄りそうソランの体を強く抱きしめた。
このシリーズのCBは、普通の軍隊よりも待遇のいい軍事組織です。
一応週休二日。有給あり。産休あり。でも前線に出ている人には休みは不定休です。でも他の組員たちよりも当然給料は跳ね上がります。
そしてライルは組織の構造に慣れました。人目を盗んで社内恋愛楽しんでます。
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