必然の出会い 偶然の恋

※リバ要素ありです。苦手な方はご注意を。

2010/04/04up

 


 その日、刹那は憂鬱だった。
 理由は簡単。つい昨日、彼女に振られたのだ。
 更にその理由も在り来たりだった。
 単に、浮気がバレたのだ。
 身長が高く、顔も精悍な刹那はモテる。
 だが、そんな刹那の唯一の欠点と言えば、極端な面倒くさがりな所だった。
 付き合うのも流れで、別れるのも流れ。
 そして浮気も流れだった。
 断るのが面倒なのだ。

 女の刹那に何故彼女がいたかと言えば、それも理由は簡単だ。
 刹那は女にしか興味が持てなく、更に言えば、自分の性別に違和感を覚える、世間一般で言う所の『性同一障害』の持ち主であった。
 コルセットを外すのがきもち悪いと感じる。
 張り出した自分の大きな胸に、何度絶望と違和感と、おぞましさを感じたか判らない。
 何より我慢が出来ないのが、月に一度訪れる、月経。
 ずっとピルを飲み続けて、無理矢理止めているのも、経費はかかるが精神的負担を考えればマシだと思えた。

 憂鬱な気分のまま、刹那はいつものゲイバーに訪れていた。
 ゲイバーとはいっても、どちらかと言うと同性愛嗜好家のよりどころの店で、男装女装に隔たりのない店で、更に食事も美味であり、週末になると必ず刹那はそこを訪れていた。
 制服のスカートが穿けずに会社員は出来なかったが、それでも力仕事の男の現場で働く刹那の収入は多く、遊ぶのには事欠かない。
 男装のホストクラブへの就職も考えたが、将来性を取って、ガテン系の仕事を選んだ。
 ホスト程の収入はないが、逆に遊ぶ時間はある。
 刹那の好きな、女の喘ぐ顔を拝める機会が多い、と言う事だ。

 そして今日も……いや、今日は、新しい相手を捜して、人待ち顔で店の隅のカウンターに陣取っていた。

「……ねえ、一人?」

 深夜に差し掛かった時間にかけられた声は、刹那の待ち望んでいた艶やかな女の声ではなかった。
 振り向く価値もないとばかりに無視をして、手元に置いてあるアイスコーヒーを口に含む。
 酒はあまり好きではないのだ。
 あからさまに無視をしている刹那に構わず、声の主の男は話し続ける。
「あれ、こんな時間にアルコールじゃないんだ?」
 やかましい。
 そう思いつつ、テーブルに肘をつく。
 声の方向とは逆の方に顔を向けて。
 それでも声の主は諦めず、いきなり刹那の目の前に顔を晒した。

 一瞬、見つめてしまった。
 それほど刹那の前に表れた顔は、美麗、という言葉があっていた。
 言葉が英語だとは思っていたが、人種が入り乱れた24世紀に、ここまで完璧な白人種と言うのも珍しいと思ったのだ。
 抜ける様な白い肌に、翡翠の瞳。
 光の当たる部分は金髪にも見えるが、綺麗な栗毛が軽くうねり、鎖骨をくすぐっている様子がうかがえた。
 ふぅん、と思い、あからさまに刹那はその男の全身を見回す。
 舐める様な品定めの視線に、男は「お」と、小さく声を上げた。
「あれ、お前さん、女か」
 そう言われて納得する。
 普段から力仕事をしている御陰で、体格には事欠かない刹那は、一見では滅多に女に見られる事はない。
 辺りを見回せば、丁度時間なのか、男の方が多かった。
 男に向かって、刹那は無愛想に、それでも知っている人物が見れば驚く、きちんとした返事をした。
「ああ、悪いな。俺の方が今日は外しているらしい」
 バーの中で、バーテンがちらりと刹那に視線を送る。
 おそらく彼は頭の中で、「この人、言葉しゃべれるんだ」位の事を思っているのだろうと、刹那は小さく笑った。
 そして去るだろう男に手を振れば、その男は予想外の動きをした。
「へー、もったいない」
「……別に」
 昔から何度も言われている言葉だ。
 美人なのに、そんな性癖でもったいない。
 普通の感覚なら、彼氏も結婚も思いのままだろうに、などと、余計なお世話だと叫びたくなるのを何度堪えたか判らない。
 それをしないのは、偏に『面倒くさい』だけだからなのだが。
 刹那の機嫌の降下を悟ったらしい男は、慌てて首を横に振った。
「違う違う。美人なのに、じゃなくて、カッコいいのに、って思ってさ。女なんて、もったいないなって、そう言う意味」
 男から初めて言われる言葉に、刹那は目を見開いた。
 驚く刹那の様子を見て、言った男は首を傾げる。
「あれ、言われた事ないのか?」
「……いや、女からならあるが……」
「あはは! そらそうだ。だけどまあ、多分この店の中で、同じ事思ってるヤツは何人もいると思うぜ?」
 明るい男の声に、珍しく刹那は興味を持ってしまった。
 男に対してなので、性的な物はないが、面白いヤツだと思ったのだ。
 視線で空席の隣りを促せば、男は刹那の促しに従い、隣りに陣取りバーテンにウィスキーを頼む。
「あー、俺も今日は外してるんだよなぁ」
 直ぐに出されたグラスに口をつけて、男は嘆く。
「そうなのか? 今日は男が多いじゃないか」
「いや、なんか同類が多くてさ。俺、タチ専なのよね」
「要するに、アナルマニアか」
「イエス。だけど遊ぶんなら、男の方が締まりがいいから、漁りに来た」
 遊びと言う言葉を出した男に、疑問を感じた。
「……女でも平気なら、相手に事欠かなさそうに見えるがな」
「そうでも無いのよねー。つか、女面倒。ネコ専も面倒だけど、まだマシ」
「そうか? 女は可愛いじゃないか。少し甘い言葉を吐けば、簡単に喘いでくれる」
「あー、なんか、アンタからその言葉出るの、凄い似合ってる。俺にもその才能頂戴」
 男はけたけた笑いながら、再びグラスに口をつける。
 刹那も同じように、アイスコーヒを口に運んだ。
「でもさー、女って嫉妬深いじゃん。一回浮気したら修羅場なんて、面倒だろ。その気になったときがヤリ時って、理解してくれない」
 言葉と同時に頬を撫でる男は、どうやら昨日の刹那と同じ様な経験をして来たらしい。
 男の仕草に、思わず夕べの痛みが思い出されてしまって、刹那も頬を抑えた。
「あれ、お前さんも同じ?」
「ああ、久々にバレた」
「で、振られた?」
「ああ」
「お仲間ー!」
 酒が回っているらしい男は、いきなり刹那に抱きついて来た。
 女の身体は好きだが、男の身体に抱きつかれるのは好まない刹那は、顔を顰めて男を避ける。
 そんな刹那に、男は興味津々で問いかけて来た。
「でもさ、久々って、ずっとバレなかったって事だろ? コツとかあんの?」
「別に、話さなければいいだけだ」
「携帯とか見られたら?」
「見せない。ロックを怠らない」
「『電話掛けたのに出なかったわ!』って問いつめられたら?」
「『寝ていた』か、もしくは『友達の家で騒いでいた』、だな。友達と騒いでいるには変わらないから、嘘ではないしな」
「まあ、あんあん言ってるかぎゃーぎゃーかの違いはあるけど……いい手。今度から使おう。有難う」
 テーブルに乗せていた手を取られて、強引に握手をされる。
 馴れ馴れしいとは思うが、不思議と不快ではなかった。
 今まで男相手に感じた事の無い感覚に、刹那は首を傾げる。
 なんとなく、コイツ相手ならいいかもしれないと、頭の片隅をそんな思考が掠める。
 じっと男を見た刹那に、男は一瞬目を見開いて、その後、悪戯っぽく目をすがめた。
「……お前さん、ネコ出来る?」
「……いや、出来ないな」
 頭を掠めた思考は、やはり刹那はタチで、男を喘がせたい、と思ったまでの事だった。
「一遍試してみない? 後ろ、気持ちいいぜ?」
「お前こそ試してみないか? マグロと言うのも気持ちいいぞ」
「マグロ、いいねー。でもやっぱり突っ込まないと気が済まないんだな」
「突っ込まれるのも経験だと思うぞ。喜んでお相手させてもらう」
「…………」
「…………」
 暫し見つめ合い、吐き出したため息のタイミングがぴったりと一致する。
「いい友達になれそうだ」
「ああ、俺もそう思う」
 掲げられたウィスキーグラスに、アイスコーヒーのグラスを合わせて、取りあえずの出会いを乾杯した。

「俺、ロックオン・ストラトス。当然偽名だけど。お前さんは?」
「刹那・F・セイエイだ。当然偽名だが」

 ニヤリと笑い合い、男、ロックオンが会計を求める。
 当然のように、刹那と合算を頼んだ。

 その後、店を出た二人が向かった先は当然ホテルではなく別のバーだった。
 だが、その後の関係は、お互いに驚きに満ちた物になったのだった。




------------------------------
 後日の会話。
「女って、便利だったんだな」
「いや、俺もマグロがこんなに気持ちいいとは思わなかったよ……」






おかまの日に日記にアップした小ネタ。
なんか、普通にニールだと思って書いてたんですが、読み返すとライルでも当てはまる様な……?
まあどっちにしろ、ネタがムーンサルト過ぎてどうしようもないですね……。
男の刹那を女体化させて、更におなべで男装でタチでって、ワタシは刹那をどうしたいんだ……!(汗)
ともかく、一応これでくっ付いてるんです……(遠い目)。