ラスコーリニコフのもたらした幸福

2010/12/30up

 

 人にとっての幸せとは、なんだろう。
 恋人がいること?
 仕事があること?
 金があること?
 不満がない事?
 一般的に言われている事を並べ立てて、一人きりの夜に、一人きりに相応しく、哲学的なことを考える。
 その瞬間、ライルは確かに幸せだった。


 故に、結論付ける。
 幸せとは――――。






「わかってるって……ああ、それでいいよ。ん、ちゃんと起きるって。……だからわかったって。もう家着くから切るぞ……やだよ、腹減ってるんだよ。……んなこと言ったって仕方ないだろ、仕事だったんだから。……ああもう、じゃあな。エレベーター来たから……ああ、お休み」
 付き合って二ヶ月の彼女との電話に、ライルは最近この手の言葉しか呟いていなかった。
 適当な相槌。
 聞いている方もそう思うであろうが、ライル自身が痛切に思っていた。
 これで別れない彼女が凄いと。
 それでも確実に心は離れていて、そろそろ引き際だとライルは思う。
 フェラチオが上手い女は喰らい付が強い、などという通説があったかと、己の脳内を検索するが、そんなものは無く、単に彼女の性質だとため息を零す。

 初めは多少ときめいた。
 それはいつでも同じ。
 だがそのときめきが、長続きしない。
 それもライルにとってはいつもの事だった。
 長くて三ヶ月、短ければ二回セックスをすれば醒めてしまう。
 友人たちには哀れみの目で見られるが、ライルはそれを寂しいと思った事も、不満に思った事も無かった。
『恋を知らない恋多き男』
 そう仲間内でレッテルを貼られ、それに笑って相槌を打てる。
 それが幸せだと思えたからだ。
 それに、恋はしていると思っている。
 その感情が無ければ勃たないし、相手に興奮も無いだろう。生物とは、男とはそういうものだと、27年、男として生きてきて痛感していた。
 たとえばグラビア。
 一時の性欲処理として、写真の女を脳内で犯す。
 それでも対象に吐き気を覚えれば当然出来ない行為であるし、つまりそれは一時的に写真の中の女に恋をしていると言えるのではないであろうか。
 その程度で、人生になんら支障は無い。
 寧ろ、それ以上の感情は害をおよぼすと、常々恋に身をやつしている友人を見て思っていた。
 彼女が冷たい。
 彼女と会いたい。
 彼女が、彼女が、彼女が。
 繰り返される呪文に、一度酒の席で言い放った。
『彼女って言葉を使わなければ、案外我慢できるかもよ』
 苦しげなその表情から逃れられるかも、と、そう言えば、友人は更に苦しそうに笑った。
 そしてその後、彼は彼女という言葉を使わなくなった。変わりに口癖になったのが、『奥さんが』という言葉。
 つまりは、結婚したのだ。
 あんなに苦しめた相手と、どうしてそんな事をする気になったのか、いまだにライルは理解に苦しむ。
 それでも結婚以降、すっかり落ち着いて幸せそうな友人を見ると、彼の様な恋は考えられずとも、結婚はいいかもしれないと、適齢期も近くなった年齢に思いを馳せる事が出来た。
 彼にそう感想をライルが告げた所、彼はライルに「お前に結婚は遠そうだ」と笑って言った。
 なら、一人身を楽しむのもまた一興。
 結局はそこに落ち着いてしまった。
 きっとこの先も、自分はゆるゆると時間をすごし、その時々の相手と恋をして、相手が振り向かなくなる歳には一人でゆったりとした時間を過ごすのだと、ライルはそう思っていた。
 それが自分の幸せだと、そう思っていた。
 故に、飛び込んできた現実に、めまいを覚えるのだった。



 彼女との電話を切り、一人の時間を取り戻したライルが、エレベーターを降りて自宅に視線を向けると、そこには一つの人影があった。
 一般的なマンションの扉の前にいる影は、シルエットから女だと判別できる。
 彼女とは今さっき電話を切ったばかりだし、誰がこんな夕食時に来ているのかと、一人暮らしの会社員のルーズな食事時間を棚に上げて、むっとする。
 まさかさっきの電話は、ライルの自宅の前からかけられていたのかと、少々しつこい彼女を脳裏に浮かべたが、近寄れば、髪の長さが違っていた。
 更には色も。
 彼女は美しいハニーブロンドの髪を自慢にしていて、まさか染めるなど無いだろうし、その自慢の髪の毛をショートにする事も無いだろう。
 では誰だ、と、普段止まる事の無いドアの前で、立ち止まってしまう。
 そこは最近越してきた若い夫婦の家のドアで、近い年頃に多少気心を許せる間柄になっていた。
 ライルが首をかしげると、内側からいきなりその家の奥さんが出てきた。
「ディランディさん、ちょっと……」
 ちらりとライルの家のドアに視線を向けて、彼女は手招きしてくれる。
 何事かと、軽い夜の挨拶をして顔を向ければ、ドアの内側に呼び寄せられた。
「ずっとあの子、待ってたのよ。お昼くらいから」
「……昼?」
「そうなの。平日なのに、ちょっとおかしいって思って声かけさせてもらったんだけど、貴方の兄弟だって言っていて……」
「はあ……」
「それで、うちにご挨拶って言って、菓子折りもって来てくれたの。「いつも弟がお世話になっています」って。礼儀は正しそうなお嬢さんなんだけど、ちょっとね……やっぱり兄弟って言うのには違和感があって」
 確かにそうだと思う。
 ライルは生粋の白人種で、血縁に黒髪の女などいない。強いて言えば、血族の中ではライルは色が濃いほうだ。それでも金茶の髪の毛が限度で、黒などありえない。
 それに『弟が』と言われているようだが、ライルに姉はいなかった。
 そもそも家族と呼べる人間には、ここの所とんと縁がない。
 少し考え込んでしまって、それでも不安そうに「警察呼ぶ?」と聞いてくれる奥さんに、確かめもせずにそんな事は出来ないと断って、恐る恐る自宅に近づいた。
 燐家を出て、ゆっくりと歩み寄る。
 ライルの気配に、ドアの前の女は、ゆっくりと俯かせていた顔を上げた。

 美人。
 第一印象はそれだった。
 日差しの強い地域の黄色人種の肌は、なんとも滑らかで、黄金色に輝いて見える。
 更に、メリハリのある体。
 身長も低くは無く、高くも無い。
 まさにナイスバディ。
 その上顔の造作も、彫が深く、見事に納まるべきところに収まっている各パーツは、一つ一つが何か意図を持って集められたかのように、文句の言いようの無いすばらしい形をしていた。
 鑑賞に値するが、それでも不審者は不審者だ。
 大体、こんな美人が知り合いにいたら、絶対に口説いている。
 思わずじっと黙って対面してしまったが、ライルの不躾な視線にも躊躇せず、その美人は笑った。
「……お帰り。仕事、大変なんだな」
「……はあ、どうも」
 なんとも間抜けなやり取りだ。
 だが、見ず知らずの人間に労われても、どう返していいのか分からずに、ライルは首を傾げつつ返答する。
 それでも玄関先でこれ以上時間を取るには、ライルの腹には猶予は無かった。
 早く食事がしたい。
 その為に、目の前の美女をどうにかしようと、改めて声をかけた。
「……で、あんた誰」
 至極普通の問いかけに、美女は何故か首をかしげた。その反応は意外で、ライルも首をかしげる。
「誰って……ニールに決まっている。お前の兄だろう」
「はい?」
 真面目な瞳に、もしかしてこの子は可愛そうな頭の持ち主なのか、それとも他の目的があって、こちらを混乱させているのかと、一瞬でライルは見聞する。
 澄んだ瞳に、更に問いかけた。
「……俺、記憶が正しければ、俺は一卵性の双子で、うちの兄貴はどう考えてもそんなナイスバディにはなれないはずだけど」
「お前だってナイスバディだ。似ているだろう?」
「いや、俺にはそんなでかい胸は無いから」
「胸筋が発達しすぎただけだ。気にするな」
「それは無理ありすぎるから」
 あまりにも馬鹿らしい押し問答に、空腹も合わせて眩暈がする。
 それでも兄の名前を出すという事は、まったくの赤の他人でもなさそうだと、問いかけを続けた。
「……で、あんたは兄さんの知り合いか? 俺に何の用?」
「だから、ニールだと言っているだろう。お前のところに帰ってきたんだ」
 堂々と胸を張る女に、本格的に頭痛を覚える。
 なんの禅問答だ、と。
 それでも彼女の肩にかかっているバッグが、スポーツ用の大きなものであるので、多少の想像はついた。
 故に、普通に断りを入れられる。
「……つまりは、行くところが無いと。でも悪いけど、俺、彼女居るんだよね。だから泊めてあげるとか出来ないから」
 つい先ほど引き際を考えたが、こういう困ったチャンには有効だと、大げさなほどの身振り手振りで、退場を願った。
 それでも女は引かなかった。
「泊まるとかじゃない。お前と暮らすために戻ってきたんだ」
「…………」
「…………」
 困った。
 ライルは心底困った。
 これが並みの女なら、何も思わず警察を呼んで、日々の時間の確保をする。
 それでも警察にお世話になるには、かなりの時間を費やさなければならないが、これ以上かかわりたくないと思えば、それも致し方ない。
 だが、目の前の美女に、それが出来るはずも無く。
 ライルはただの男だった。
 その上に、少しばかり気になる事もある。
 じっと見詰め合っていると、成り行きを見守ってくれている隣の奥さんの視線がライルの背中に刺さり、これ以上見世物になるのも、時間を考えれば廊下で話し続けるのも憚られ、仕方なくライルは女を視線で促した。
「……いいよ、一旦上がれ」
 鍵を開けて玄関を開けると、あれ程言い募っていた女は一瞬躊躇し、ドアの隙間をじっと見つめる。
 その様子すら、おそらくは見られているであろうと想像し、ライルは指でちょいちょいと猫の子の様に呼び寄せて、女を招きいれた。
 ただでさえ一人暮らしの男の部屋で、ファミリー向けのこのマンションでは目立っているのだ。これ以上目立つのはゴメンだった。




中略



「それで? 兄さんが親代わりだって? あれホントか?」
 彼女に向かった言葉を繰り返せば、刹那はピクリと体を震わせた。そしてあからさまに失敗したと顔を歪める。
 その表情が、刹那の言葉を真実にしていた。
「お前みたいに大きな子供なんて、おかしいだろ。どういう事情か説明してもらおうじゃないか」
 彼女が座っていた位置に視線を流して、座るように示せば、刹那は暫くの間視線を逸らせて考えていたが、最終的にはライルの促しに従った。
 その上で語られた内容に、真剣にライルは兄の身を心配してしまう羽目になる。
「俺は……孤児なんだ。孤児の俺を、俺が9歳の時にニールが引き取ってくれた。家族の温かさを知らない俺に、ニールは色々教えてくれた。その中にお前の事があって、それで……」
「どんなヤツか見に来たってか?」
「いや、お前と暮らせたら、ニールの言う幸せというのがわかるのかと、そう思って。それで押しかけた」
 刹那がココの住所を知っていた理由は、やはりニールと接点があったのだと、ひとつ解明できた。
 毎月送金されてくる銀行口座は、どれほどライルが主要取引銀行を変えようとも、どこから調べてくるのかニールはライルと連絡も取らずに突き止めている。現住所くらいわけないのだろう。
「幸せ、ねぇ。そんなもん人それぞれだろ。俺と居たからって解るとも思えないけど。俺なんかより、ソレこそ兄さんと居た方が解りそうな気がするけどな」
 刹那の言葉が本当ならば、ニールは刹那にとって育ててくれた恩人だ。それに、刹那を見ていれば、ニールが刹那にかけている愛情もわかる。孤児だという身の上には見えない、満ち足りた雰囲気が刹那には備わっている。
 これは所謂反抗期というものなのかとライルは考えて、刹那を促す言葉を告げた。
「ご覧の通り、俺はろくでもない男だ。お前に幸せなんてご大層なものは教えられないと思うけどな」
「そんな事は無い」
 ライルの言葉を、刹那は即座に否定した。
 しかもかなりの迫力を伴って。
 何事かとライルが刹那を見れば、刹那は意志の強い視線でライルを捕らえていた。
「お前はニールが言っていた通り、突然押しかけてきた俺にもちゃんと役割をくれる素晴らしい人間だ。お前の側にきたいと思った俺の考えは間違いじゃない」
 真剣な目で賞賛されて、ライルはくすぐったい気持ちに襲われる。
 女から貰う世辞ではない、刹那の言葉。
 久しく聞いていなかった、家族の話題。
 温かい家庭の空気。
 ライルの本質を見て尚、眉も寄せずに信頼してくれる刹那は、本当に自分にとって良い人間なのだとライルは思う。
 素直で、自分の夢を隠す事もできない若さに、美貌を兼ね備えた女。
 どうもライルに夢を見ているようだが、寧ろ刹那は自分のような男には勿体無いと、ライルはそう思った。
 手を出してしまう前に、離さなければならないのかもしれない。
 今まで考えもしなかったことを刹那に思い、ライルは気がつかないうちに眉を寄せた。
「役割っつったって、彼女との別れ話に付き合わせただけだろ。家の中のことはお前が勝手にやってるだけだ。俺には関係ないだろう」
「勝手に「させてくれている」んだ。無理やり押しかけた俺に、自由をくれる。それに付き合ってもくれる。誰でも出来ることじゃないと思う」
「兄さんだって同じだろ? それに俺は兄さんほど愛情表現は得意じゃない。幸せを教えてもらいたいなら、兄さんから教われよ。お前、それだけいい女なんだから、あの人だっていくら育てたって言ったって、コロッと落ちると思うぜ」
 所詮は兄も男なのだ。もしかしたら今も手放した刹那に後悔しているかもしれない。
 ライルから見て、刹那は女だった。
 しかも極上の。
 誰もが手を出したくて喉を鳴らしていると、そう思える。
 その「誰も」の中に、自分が入っている事は、あえて気がつかない振りをした。
 誰かに囚われたくない。
 刹那の滞在は暫くの期間は望むが、それもいつものようにライルが飽きたら終わりの話だ。
 ライルが飽きるまで生活を楽しんで、セックスをして、会話をして。
 一人の時間を望むようになるまで、そうしていたい。
 ただそれだけだと、心の中で何回も唱える。
 そんなことをしている時点で、既に刹那に囚われている自分に、ライルは目を逸らせるのだ。
「……ニールは、無理なんだ」
 ライルの促しに、暫くの時間を置いて、呟くように刹那は返した。
「なんで? 俺にアレだけの仕送りしてくるんだから、俺より収入だってあるだろう? その上お前の事育てたんだ。俺よりもお前を理解してくれるだろ?」
「それでも、無理なんだ」
 繰り返される否定に、ライルは眉を寄せる。
 何故無理なのか。
 真っ先に思い浮かんだのは、自分達の年齢だった。
 もしかしたらと、家族であるはずの、兄弟であるはずのライルが他人の刹那に問う。
「兄さん、もう結婚してるとか? 伴侶がいるからダメなのか?」
 結婚適齢期であると、それは理解している。双子の自分達の年齢は当然同じで、兄にも家庭がと考えたライルは、また自分で理解できない黒い感情が心の中に巣食うのを感じる。
 それは兄の幸せに対してではない。
 刹那の悲しみに対してだった。
 兄に振られたから自分なのかと、そう問えば、刹那は首を横に振った。
 だが首を横に振るだけで、言葉はない。
 何か別の理由だと、それだけはわかった。
「じゃあなんで。お前、兄さんの事嫌いなのか? それで家出してきたとか、そういう理由?」
 このライルの質問にも、刹那は首を横に振った。ただ今回はキチンと否定の言葉を紡いだ。
「違う。ニールは大好きだ。大好きだった」
 零された言葉に、ライルは体を強張らせた。
 過去形を使われたのだ。
 それが何を意味するかなんて、あの大金を考えれば、想像できる事柄など一つしかない。
 兄はもう、この世に居ないのか、と。
「……兄さん、どうしてる」
 断片的に紡いだ言葉は、酷く掠れてしまった。
 子供の頃に酷い劣等感を自分に与えていた兄だとしても、唯一ライルに残っていた家族だ。ずっと離れて暮らしていても、どこかで生きているのが当たり前で、だからこそ何とも思わなかった。
 送金に腹を立てて、荷物を邪魔だと感じて。
 そんな当たり前が、刹那の一言で崩壊する。
 ライルのかすれた声に、刹那はまた首を振った。
「いえない」
 言えない様な事になっているのか。
 そうライルは捕らえた。
 変わらずに俯いている刹那を暫く見つめて、大きくため息をついた。
 いつかはこんな事になるのではないかと、そう思ってきた。あんな大金をぽんと弟に送金できる仕事など、全うなソレの筈がない。だから覚悟はしていたのだ。
 それでも心にぽっかりと空洞を感じる。
 もう、居ないのか。
 家族と呼べる人が、誰も居なくなってしまった。
 ずっと一人で暮らしてきたが、それでも寂しさを感じる事を止められない。
 そして目の前の刹那に、最後のニールの心遣いを受け取った気がした。
 遺産のような少女。
 ニールが育てたこの少女は、きっと自分の心を慰めてくれるのだろう。
 そう思えて、無言で刹那の体を抱きしめた。
「いいよ、俺といよう。ココで暮らせばいい。それでお前の幸せを探せばいい」
「……いいのか?」
 夕べと同じ言葉で確認してくる刹那に、安心させるように頬ずりした。
「ん、いいよ。その代わり、俺の事も幸せにして」
 家族の思い出を共有できる少女に、ライルは自覚せずに縋った。
 状況が違うとか、そういう問題ではなく、初めて女に縋ったのだ。
 今までは、恋人も含めて、女も男もライルにとって他人と呼べる存在は、そこに存在し、共に生き、楽しみを共有する存在でしかなかった。
 社会生活を営んでいく上で必要な情報と、不必要な情報。他者と共有すべきかどうかを判断して、悩みの相談も付き合いも選んできた。
 だが刹那には、そんな計算を思い浮かべる暇も無かった。
 突然押しかけてきて、ニールの振りをしようとするような馬鹿なまねをして、勝手に家事をして、ライルの心を慰めて。
 そしてニールを教えてくれた。
 ニールの情報は、ライルの望んでいたものとは違ったが、それでも得られたものは、情報以上の遺産だった。
 柔らかい体を抱きしめて、初めて感じる心の温かさに酔う。
 ニールには当然そんな意図は無かったのだろうが、刹那はライルに合うようにニールに育てられて、ニールの代わりにライルを愛しに来てくれたのかもしれない。
 なんとなく、そう思えた。
 それが勘違いでも何でも、このときのライルにはどうでもよかった。
 ただ、一人残されたのではないという事実に、刹那の体に縋った。  胸板に当たっている刹那のまつげが、瞬きに合わせてライルの体をくすぐるのが、酷く愛しく感じた。





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