BL⇔GL〜雨の日〜文責:龍宮斎 HP/木漏れ日のセレナーデ
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梅雨入りをして間もない関東地方は、今日もしとしとと雨が降っていた。
「わっ!」 強い海風に煽られて、黒いワンピースの裾がひらりと浮かび上がる。それを傘を持っていない方の手で押さえた。更衣をしたGL学園の夏の制服は、今で言うパフスリーブ状の袖にワイシャツのような角のある襟の白のブラウスと、薄手の黒いワンピースである。ブラウスの襟には学年別で色分けをされたリボンタイが結ばれている。伊藤啓子と遠藤和代のそれは緑である。
「今日の下着は青の水玉ね?」
「知らない」 と、答えた。その答えに、にやりと笑って、いきなり和代が啓子のワンピースの裾を捲り上げようとする。
「ちょっとー!」
「なんや、和代は変態やったん?」
「可愛くてアイドルやから、周りにうちが一番仲良しなんやでーって言いたいんやろ」 と言う。滝の言葉に、啓子は満更でもないような様子で、しかし、和代をにらむ。一方の和代は、この学園のお嬢様然とした制服の似合う容姿に似合わず、自分の頬を人差し指で掻いている。 「ま、どっちにしろ仲良きことは美しきかなってね。啓子に嫌われん程度にスキンシップしときー」 と、言い捨て自転車を結構な速度で漕いで行ってしまう。このひどい雨の中、傘も差さずに自転車で帰寮した滝は、おそらく、三年生で寮長の篠宮絋美に叱られるだろう。「……あたし、スカート捲りはイヤだからね」 啓子のその一言に、和代は、乾いたような苦笑いをした。二人が揃って学生寮の玄関で、女性の警備員に挨拶をして靴を脱いでいると、篠宮の少し低めの落ち着いた声が、珍しくも荒げられているのが聞こえてくる。
「どうしたんだろうね?」
「傘も差さずに自転車で下校するなんて、風邪を引いてしまうでしょう!…おまけにこんなにびしょぬれになって……床が水浸しじゃない」 と言う窘める声がする。それを聞きながら、玄関に置かれている足拭き用と思われるタオルで、入念に足を拭いた「す、すんませんー。面倒くさかったもんで……」 もにょもにょと小声になっていく滝の声に、大仰に溜息をつきながら篠宮は、「さっさとお風呂に入ってらっしゃい。本当に風邪を引いたら困るから」 そう行って、滝を追い立てるように言った。
「はあーい。すんませんでしたー。あ、もう大浴場、湯沸いてますよね?」
「遠藤さんも啓子さんも、結構、靴下が濡れているわね」
「やっぱり、篠宮さんが用意してくださったんですね。ありがとうございます」 と、お礼を述べる。それに続くように、和代も篠宮に感謝をする。
「本当に、良く気がつきますよね、篠宮さん」
啓子は部屋へ戻るなり、鞄から所々濡れてしまった教科書やノートを出して、乾かすように机の上に広げて、部屋着を用意して風呂セットを持ち、大浴場へ向かおうと部屋のドアを開けると、 「わっ、びっくりしたー」 という声に驚いた啓子も、「わ!」 と、洗面用具を落してしまう。「か、和代〜。もう、びっくりしたじゃないー」 落したものを拾ってくれている和代に向かって、啓子が胸をなでおろしながら言う。
「ごめん。でも、私だって驚いたんだから。ドアを叩こうとしたらいきなり開くんだもん」
「どうしたしまして。ま、両成敗ってことで」
「わー混んでるなー」
「…藤田ってさ、おっぱいおっきいよね」 思わずだろう、啓子の呟いた声に、和代が噴出して慌てたように、「け、啓子?!」 と言う。「あ。ご、ごめん!や、あのねっ!ほら、運動してる人ってあまり胸とか大きいイメージなくってさっでも、藤田おっきいから…そのっ」 顔を赤くして、しどろもどろになる啓子に、藤田まで顔を赤くして、頭を拭いていたタオルで胸部を隠しつつ、「や、別に良いんだけどさ。…そんな大きくないよ?だってBだし。大きいって言ったら、遠藤の方が大きいでしょ」 と和代に話を振る。降られた彼女は、
「わ、私?私だってそんなに大きくは……」
「なんで逃げるのー」
「聞き捨てならないなー。遠藤、あんた、啓子のスカート捲りしようとしたんですって?」
「スカート捲りだなんて子供みたいなこと、遠藤さんはしたかったの?」 頬に張り付いた髪を撫でて、制服のリボンタイを解く中嶋は、高校生とは思えない艶めいた口調で言い、「どうせセクハラがしたいのなら、素直にこうしたら良いじゃない」 と、後ろから啓子の胸に手を伸ばして、鷲掴むように触る。
「ぅきゃーっ!」
「やめてくださいー中嶋さんーー」 と、中嶋の腕の中でもがく。
「ちょっとっ!おい、ヒデっ!」
「何を騒いでいるのかしらね?煩いったらない」
それに気付いた藤田はそそくさと着替えを済ませて、大浴場を出て行ってしまう。彼女だけではなく、その場に居た殆どの生徒が脱衣所を出て行ってしまった。 いきなり、風呂場の水音が鮮明になった脱衣所には、伊藤啓子、遠藤和代、丹羽哲子、中嶋英子、西園寺郁、七条臣が残った。 一触即発かと思われるような空気を破るように、
「あー腹いっぱいやー」
「煩いですよ、俊子さん」
「あ、成瀬さん、俊子、篠宮さん、岩井さん、こんばんは」
「離れてくださいっ!啓子〜啓子〜かわいそうに〜〜」 そう言いながら、中嶋から啓子を奪うように引き離し、抱きしめて頬擦りをする。今度はそれに和代が毛を逆立てるようにして、「成瀬様!啓子が嫌がっていますから、お放しになってっ!」 と、啓子を引き離そうとする。が、「…成瀬さんも、おっぱいおっきいですね…」 周りの状態を気にすることなく、啓子は丁度顔の辺りにある成瀬の胸部に埋もれながら、そう言う。
「啓子?」
「…成瀬さん、幾つですか?」
「俊子は?」
「どうしたの、啓子」 和代が心配そうに言うのに、啓子は、成瀬からようよう離れて、「……やっぱり、高校生になったら、胸って大きくなるものなんですよね?」 と、目を潤ませて周囲を見渡すように言う。「まあまあ、そんなにバストサイズを気にしているの?啓子ちゃん」 七条に言われて、ついに瞳から水滴を頬に流して、「はい」 と、啓子は小さく頷く。「啓子、気にする必要ないと思うわ。だって、啓子はまだ16歳なんだもの、これからよ」 和代が微笑むのに、「まだ16ってあなたもでしょ」と篠宮が突っ込むが、それに七条と西園寺がにやにやする。
「…でもー」
「はい」 と、素直に笑顔で微笑んだ。場も和み、その場のほとんどのものが、啓子の微笑みに安堵したような溜息を吐くのに、「もし、胸のサイズを気にしているのなら、揉んで上げましょうか。女性ホルモンが良く分泌されるくらい、官能的に」 中嶋だけが、その赤い唇を啓子の唇に寄せながら、艶のある声でそういう言葉を吐く。
「え、ええぇ!?」
(終) <了>
シリーズ化をしてしまいました…。
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ご投稿有り難うございました!バストは最重要点ですよね! |