BL⇔GL〜雨の日〜

文責:龍宮斎

HP/木漏れ日のセレナーデ

 


梅雨入りをして間もない関東地方は、今日もしとしとと雨が降っていた。
人工島に建設されたGL学園は、時折海原を渡る強い風が吹く。

「わっ!」

強い海風に煽られて、黒いワンピースの裾がひらりと浮かび上がる。それを傘を持っていない方の手で押さえた。
更衣をしたGL学園の夏の制服は、今で言うパフスリーブ状の袖にワイシャツのような角のある襟の白のブラウスと、薄手の黒いワンピースである。ブラウスの襟には学年別で色分けをされたリボンタイが結ばれている。伊藤啓子と遠藤和代のそれは緑である。

「今日の下着は青の水玉ね?」
「っちょっ、和代、見たの?!」
「いいえ、勘です」
「も、もう」
「当たってた?」

上品そうな微笑みで、しかし、意地悪そうな言い様をする同級生に、啓子は頬を膨らませて、

「知らない」

と、答えた。
その答えに、にやりと笑って、いきなり和代が啓子のワンピースの裾を捲り上げようとする。

「ちょっとー!」
「いいじゃない、女同士なんだし。スキンシップ、スキンシップ」
「冗談じゃない!ちょ、っと!もうっ」
「なん、なん?えらい楽しそうやなぁ」
「あ、俊子」
「とーしこー、和代を止めて、スカート捲りなんてバカなことしようとするんだよ?」

二人の背後から現れた、一学年上の滝俊子だった。制服ではなく、指定ジャージを来て、自転車に乗っている。傘はさしていない。

「なんや、和代は変態やったん?」
「違います、失礼ですね。ただのスキンシップですよ」
「スカート捲りのどこがスキンシップなんだよっ」
「まあま、啓子。和代の気持ちも分かってやりー。学園のアイドル啓子ちゃんが可愛くてたまらんのやろ」
「あたしはアイドルじゃないし、第一にそれとこれと関係ないじゃん」

そう言う啓子の膨らんだ頬をつつき、俊子は笑って、

「可愛くてアイドルやから、周りにうちが一番仲良しなんやでーって言いたいんやろ」

と言う。
滝の言葉に、啓子は満更でもないような様子で、しかし、和代をにらむ。一方の和代は、この学園のお嬢様然とした制服の似合う容姿に似合わず、自分の頬を人差し指で掻いている。

「ま、どっちにしろ仲良きことは美しきかなってね。啓子に嫌われん程度にスキンシップしときー」

と、言い捨て自転車を結構な速度で漕いで行ってしまう。このひどい雨の中、傘も差さずに自転車で帰寮した滝は、おそらく、三年生で寮長の篠宮絋美に叱られるだろう。

「……あたし、スカート捲りはイヤだからね」

啓子のその一言に、和代は、乾いたような苦笑いをした。
二人が揃って学生寮の玄関で、女性の警備員に挨拶をして靴を脱いでいると、篠宮の少し低めの落ち着いた声が、珍しくも荒げられているのが聞こえてくる。

「どうしたんだろうね?」
「…十中八九、俊子でしょうね」

和代の言葉通り、どうやら篠宮に叱られているのは俊子のようで、

「傘も差さずに自転車で下校するなんて、風邪を引いてしまうでしょう!…おまけにこんなにびしょぬれになって……床が水浸しじゃない」

と言う窘める声がする。それを聞きながら、玄関に置かれている足拭き用と思われるタオルで、入念に足を拭いた

「す、すんませんー。面倒くさかったもんで……」

もにょもにょと小声になっていく滝の声に、大仰に溜息をつきながら篠宮は、

「さっさとお風呂に入ってらっしゃい。本当に風邪を引いたら困るから」

そう行って、滝を追い立てるように言った。

「はあーい。すんませんでしたー。あ、もう大浴場、湯沸いてますよね?」
「ええ、さっきね。今日は、あまりに濡れて帰ってくる人が多かったから、早めに沸かしたのよ」
「さっすが、寮長はんや。皆のお母はんですわー」
「…この年で、あなたみたいな子どもの母親になりたくないものね」

篠宮のげんなりした様子の発言を笑い飛ばしながら、滝は元気よく階段を上り、自室へと帰っていった。その様子をおかしそうに見ていた啓子たちに気付いた篠宮は、二人の様子を見て、やはり、吐息をして言う。

「遠藤さんも啓子さんも、結構、靴下が濡れているわね」
「え?あ、本当だ、すみません、篠宮さん」
「良いのよ、一応タオルで、足を拭いていてくれたみたいだし」

そう言って、啓子たちの足を見る篠宮に、啓子は微笑んで、

「やっぱり、篠宮さんが用意してくださったんですね。ありがとうございます」

と、お礼を述べる。それに続くように、和代も篠宮に感謝をする。

「本当に、良く気がつきますよね、篠宮さん」
「ありがとう…ま、哲子に言わせると私は寮母さんらしいですからね」

軽口めいた言い方をしてから、「あなた方もお風呂に行ったら?今日は風が強かったみたいだから、制服も体も濡れてしまっているようよ」とやはり二人を追い立てるように篠宮は言って、追い立てられた二人は元気良く返事をしながら自室へ戻った。


啓子は部屋へ戻るなり、鞄から所々濡れてしまった教科書やノートを出して、乾かすように机の上に広げて、部屋着を用意して風呂セットを持ち、大浴場へ向かおうと部屋のドアを開けると、

「わっ、びっくりしたー」

という声に驚いた啓子も、

「わ!」

と、洗面用具を落してしまう。

「か、和代〜。もう、びっくりしたじゃないー」

落したものを拾ってくれている和代に向かって、啓子が胸をなでおろしながら言う。

「ごめん。でも、私だって驚いたんだから。ドアを叩こうとしたらいきなり開くんだもん」
「…ごめん、拾ってくれてありがと」

気まずそうに言う啓子に、軽く声を立てて笑いながら、

「どうしたしまして。ま、両成敗ってことで」
「そうだね」

互いに顔を見合わせて微笑み合いながら、二人は階段を降りて大浴場へ入った。雨の今日は大盛況のようで、あちらこちらではしゃいだ黄色い声やら話し声が聞こえる。

「わー混んでるなー」
「本当…ま、中は空いてるかもしれないし」
「あ、藤田」
「ん?おー、伊藤ー。おつかれーさっき帰ったの?」
「うん、生徒会をお手伝いしてたから。藤田こそお疲れ様、部活終わったの?」
「ああ、雨だからねー筋トレと校内の階段上り下り100回だけで済んだんだ」
「100回だけって…」
「さすが…うちのソフトボール部って強いから」
「まあね」

さばさばと言う彼女は、ベリーショートの髪をタオルで拭きながら、上半身裸を扇風機の前に晒している。

「…藤田ってさ、おっぱいおっきいよね」

思わずだろう、啓子の呟いた声に、和代が噴出して慌てたように、

「け、啓子?!」

と言う。

「あ。ご、ごめん!や、あのねっ!ほら、運動してる人ってあまり胸とか大きいイメージなくってさっでも、藤田おっきいから…そのっ」

顔を赤くして、しどろもどろになる啓子に、藤田まで顔を赤くして、頭を拭いていたタオルで胸部を隠しつつ、

「や、別に良いんだけどさ。…そんな大きくないよ?だってBだし。大きいって言ったら、遠藤の方が大きいでしょ」

と和代に話を振る。降られた彼女は、

「わ、私?私だってそんなに大きくは……」
「確かに、和代っておっきいかも……いくつ?」
「え?」
「サイズ」
「……D、くらい…」
「げ…」
「すごい…」
「遠藤、触らせろ」

そう言いざま藤田が和代の胸へ手を伸ばす。和代はそれから身を庇いつつ、逃げるようにいくつか離れたロッカーへ荷物を置く。

「なんで逃げるのー」
「当り前でしょっ」
「ずるいっ!あたしのスカート捲ろうとしておいて、自分は胸を触られるのを避けるの!?この、卑怯者っ!」
「えー?!遠藤、伊藤のスカート捲りしたの?」
「み、未遂よっ!未遂っ」

藤田と啓子の大きな声のために、何人かの視線が三人へ集まる。

「聞き捨てならないなー。遠藤、あんた、啓子のスカート捲りしようとしたんですって?」
「あ、王様ー、と中嶋さん」

王様と呼ばれるのは、GL学園生徒会長の丹羽哲子である。無造作に束ねた髪の毛は濡れ、篠宮から風呂に入るように言われたのだろうと思われるが、その根拠に着ている学校指定ジャージはずぶぬれで、その後ろにいる中嶋英子は、同じように、きっちりと着こなしている制服が肌に張り付くほどに濡れている。

「スカート捲りだなんて子供みたいなこと、遠藤さんはしたかったの?」

頬に張り付いた髪を撫でて、制服のリボンタイを解く中嶋は、高校生とは思えない艶めいた口調で言い、

「どうせセクハラがしたいのなら、素直にこうしたら良いじゃない」

と、後ろから啓子の胸に手を伸ばして、鷲掴むように触る。

「ぅきゃーっ!」
「中嶋様っ!」
「ヒデっ!」
「い、伊藤!?」
「あら、可愛いサイズね」

胸を掴まれただけでなく、気にしていたサイズを「可愛い」と言われた啓子は半泣きになりながら、

「やめてくださいー中嶋さんーー」

と、中嶋の腕の中でもがく。

「ちょっとっ!おい、ヒデっ!」
「何よ、良いじゃない。女同士なんだからスキンシップよ、スキンシップ」

どこかで聞いた事のある台詞を言う中嶋に、和代は頬を掻く。

「何を騒いでいるのかしらね?煩いったらない」
「本当に。随分と下品な方がいらっしゃるのね」
「あ、西園寺さん、七条さん、ごめんなさい」
「いえ、啓子ちゃんは良いんですよ?」

銀色の艶やかな髪を片側に寄せて結わえている女子生徒が、薄紅色にも見える茶色の髪を纏め上げた女王然とした女子生徒に付き従うように、啓子たちのいるところへ歩いてくる。
それに気付いた藤田はそそくさと着替えを済ませて、大浴場を出て行ってしまう。彼女だけではなく、その場に居た殆どの生徒が脱衣所を出て行ってしまった。
いきなり、風呂場の水音が鮮明になった脱衣所には、伊藤啓子、遠藤和代、丹羽哲子、中嶋英子、西園寺郁、七条臣が残った。
一触即発かと思われるような空気を破るように、

「あー腹いっぱいやー」
「食事してすぐの入浴は止めた方が良いよ、俊子」
「ええやん、大丈夫やって」
「ま、私のことじゃないし、良いけどね」

と、成瀬由紀と滝俊子が入ってくる、続くように、

「煩いですよ、俊子さん」
「…にぎやかで、良いんじゃない?」

そう言いながら篠宮紘美と岩井卓絵が脱衣所に姿を現した。

「あ、成瀬さん、俊子、篠宮さん、岩井さん、こんばんは」
「お、おっつー」
「あぁあ!啓子〜〜!まさかこんなところで会えるなんてっ!」
「啓子か…こんばんは」
「まだお風呂に入っていなかったの?」
「あ、はい」
「ちょ、ちょっとーっ!中嶋様っ!何をなさっていらっしゃるんですー!?啓子のむ、む、胸なんて掴んでーーっ!」

啓子の後ろからのしかかるように啓子の胸を掴む中嶋の状態に、成瀬が悲鳴に似た声を上げる。

「離れてくださいっ!啓子〜啓子〜かわいそうに〜〜」

そう言いながら、中嶋から啓子を奪うように引き離し、抱きしめて頬擦りをする。今度はそれに和代が毛を逆立てるようにして、

「成瀬様!啓子が嫌がっていますから、お放しになってっ!」

と、啓子を引き離そうとする。が、

「…成瀬さんも、おっぱいおっきいですね…」

周りの状態を気にすることなく、啓子は丁度顔の辺りにある成瀬の胸部に埋もれながら、そう言う。

「啓子?」
「中嶋さんのもおっきかったし…」
「は?」
「なんや?おっぱいおっぱいって、なんかあったんか?」

胸のことを言う啓子に、滝も和代も成瀬も丹羽も小首をかしげる。

「…成瀬さん、幾つですか?」
「え?バストのこと?…たぶん、Dの75だ思うけど…」
「中嶋さんは?」
「Fの70」
「七条さんは?」
「Eくらいですね」
「王様は?」
「え!?あ、やー言うほどじゃないぞー?…C、くらい」
「篠宮さんと岩井さんは…」
「私もCかな」
「なんで、そんな申告を…」
「教えてくださいっ!」

言い渋る篠宮に、成瀬に抱きついたまま、噛み付くようにいう啓子。それに押されるように、「Cだけれど」と答える篠宮。

「俊子は?」
「……そんなん、聞かんでもええやん」
「教えて」
「…Bや」
「西園寺さんは」
「そんな質問に答えるような酔狂はしたくない」

最後はばっさりと切り捨てられた啓子は、しゅんと、悄然とした表情になっている。

「どうしたの、啓子」

和代が心配そうに言うのに、啓子は、成瀬からようよう離れて、

「……やっぱり、高校生になったら、胸って大きくなるものなんですよね?」

と、目を潤ませて周囲を見渡すように言う。

「まあまあ、そんなにバストサイズを気にしているの?啓子ちゃん」

七条に言われて、ついに瞳から水滴を頬に流して、

「はい」

と、啓子は小さく頷く。

「啓子、気にする必要ないと思うわ。だって、啓子はまだ16歳なんだもの、これからよ」

和代が微笑むのに、「まだ16ってあなたもでしょ」と篠宮が突っ込むが、それに七条と西園寺がにやにやする。

「…でもー」
「啓子、気にすることないわ、だって、そういうのも個性でしょ?私は、啓子のサイズがどうであれあなたが好きだもの」
「こればかりは、成瀬の言うとおり。啓子、あまり気にすることじゃない。それになにより、それで啓子の魅力が落ちるわけはないもの」

西園寺の言葉と微笑みに、ようやく落ち着いた啓子は、

「はい」

と、素直に笑顔で微笑んだ。場も和み、その場のほとんどのものが、啓子の微笑みに安堵したような溜息を吐くのに、

「もし、胸のサイズを気にしているのなら、揉んで上げましょうか。女性ホルモンが良く分泌されるくらい、官能的に」

中嶋だけが、その赤い唇を啓子の唇に寄せながら、艶のある声でそういう言葉を吐く。

「え、ええぇ!?」
「な、中嶋様っ!」

啓子と和代、成瀬の声が重なって脱衣所に響いた。


(終)


 <了>




シリーズ化をしてしまいました…。
しかも、おっ●いおっ●い…下品で申し訳ございません。あ、バストサイズですが、個人的価値観での大きさです。お気に触られましたらお詫び申し上げます。ちなみに啓太と西園寺はA。
アンダーって、どれくらいが普通なんですかね?65〜70くらいかなーって思って、筋肉質であろう成瀬さんは少し大きめに。
お目汚しを失礼しました。
龍宮斎拝2008/6/21


ご投稿有り難うございました!バストは最重要点ですよね!