2008七夕

空の想い

2008.07.07UP




 二人、暮らし始めて2年目の七月。買い物帰りにふと目にとまったのはスーパーの入り口に設置されていた大きな笹と、短冊の色紙だった。
「そうかー。もう七夕だー」
 一週間分の食材の入ったバッグを両手に持った啓太は、過去数年の七夕を思い出してクスリと笑う。
「…そうだよ。俺は忘れてなんて無かったけどな」
 一方、笑われた和希は不貞腐れたように、過去の七夕に置ける啓太と繰り広げた戦歴を思い浮かべて呟いた。
 だが、不貞腐れてはいても、流石にもう諦めていたのか、今年は何を言うでも無く、また何を用意するでも無かった和希は、子供達が集まっているその場を通り過ぎようと、小脇に抱えていたミネラルウォーターのペットボトルの段ボールを抱え直した。
「なあ、俺達も書いて行かない?」
 ついっと和希のシャツの裾をひっぱって、啓太はその場を指差す。その啓太の何時に無い行動に和希は驚いたが、別段抗議する事も無いので素直に段ボールを短冊を書くようにと設置されたテーブルの脇に置いて、薄汚れた白いプラスチックの容器に入れられていた短冊を一枚取り上げた。また、啓太も横に習うように同じように短冊を手に取る。
 和希は啓太が何を思ってこのイベントに参加したのかが知りたく、ついペンが走る軌跡を目で追おうとしたが、その視線に気が付いた啓太は、すっと体でその視線を遮った。
「書き終わるまで、ナイショ」
 悪戯っぽく笑って、和希の目の前で腕を細かく動かして願い事を書いていく。
 そんな啓太の様子に、和希も小さく笑って己の願いを、いかにも子供用に作られた何の飾りも無い色紙に書き連ねる。
 かといって、和希には特別自分自身の事で叶えて欲しい願いなど無かった。仕事も生活も順調で、何一つ不満など無い。そして、子供の頃から唯一、喉から手が出る程欲しかった存在すら、今は傍らで笑ってくれている。
 とすれば、神様に叶えて欲しい願い事などたった一つ。
『啓太が幸せでいられますように』
 緑色の色紙にそう記して、色紙の傍らに置かれていた糸を通して、笹に吊るそうと顔を上げた。
 すると、啓太は和希よりも先に書き終わっていたのか、既にその姿は大きな笹の下にあり、子供達よりも一段高い場所に水色の紙を吊るしていた。
 和希もそれに倣うように、啓太の隣に立ち、啓太よりも少し上の笹に紙を吊るす。その時、チラリと隣の啓太の紙に記された願い事を見て、思わず吹き出した。
「…あれ?」
 吹き出された啓太も、チラリと和希の短冊を見て、一瞬惚けた様な顔をした後笑い出した。
 啓太の短冊に書かれた願いは当然のように。
『和希が幸せでいられますように』
 名前の部分以外、一言一句違わないその願いに二人は笑い、そして心を温めた。
 毎年何かしら起こるこの祭事の出来事に、何時しか二人はお互いの思いを重ねあっていた。

 

 

 

END


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