月光2


2006.9.26up



 

 部屋の電気は消され、二人は生まれたままの姿で一つのシーツにくるまっていた。部屋の中は、ただ、月の光に照らされて、普段と色を変えるばかりで。
 啓太はすやすやと和希の腕の中で眠っていた。それは激しい情交の疲労からであろうか。それとも、この先の二人の安寧を願っての事であろうか。
 和希はその寝顔を愛おしく眺め、優しくその少し固い茶色の髪を梳いていた。
 ふと、眠っていたと思われた啓太の唇が動く。
「ねぇ、和希」
「…ん?」
 二人の声は穏やかで、まるで部屋の中に差し込んでいる月光そのもののようであった。
「さっき、和希…コレから何回こんな景色がみれるかって言ったよね。あれ、どう言う意味?」
 情交の際、和希は汗と精液に濡れ光る啓太を眺め、ぽつりとそんな事を言っていた。
「…別に、大した意味は無いよ。ただ、今日の月があんまりにも綺麗だからさ。そんな綺麗な月に照らされた啓太を、コレからどの位みられるのかなって思っただけだよ。
 相変わらず柔らかく啓太の髪の毛を梳きながら、和希は少し掠れた声で答えた。
「…今日は15夜だからね。だからこんなに綺麗なんだよ。また来年だってみられるよ。来年だって、再来年だって、ずっと二人で見ていられる」
 啓太も柔らかく答えたが、それがかなわない事は解っていた。そして、それは啓太だけではなく和希も。
 先日、進学希望用紙が啓太達の学年に配られた。
 その時、気がついたのだ。
 二人の行く道が、あまりにもかけ離れている事に。
 その用紙を見つめ、啓太は誰もいなくなった教室で一人泣いた。
 和希は情交の度にいつも少し悲しい顔をしていた。その意味がそれまで啓太にはわからなかった。だが、自分の将来を考えなければならなくなった現在、その表情の意味がわかった気がした。
 二人は決して結ばれない。
 その事実は、愛し合う二人にはあまりにも悲しく、また、あまりにも甘い物であった。
 結ばれずとも、二人は永遠に愛し合う事が出来る。
 別の誰かと家庭を築いても、和希が啓太に対する思い、また、啓太が和希に対する思いは永遠に変わらない。
 その事実を胸に秘めて、二人は毎夜抱き合う。
 まるで、残された時間を惜しむ様に、深く、深く。
 未来を知っている月の光だけが、優しく二人を包み込んでいた。

 

 

 

END




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