わたがし


2003.7.18UP



 

「う・・・ん。・・・・あれ?」
 珍しく、和希より先に目が覚めた。
 本当に凄く珍しい事。
 今日の様な休みの日の前は二人で夜を過ごす事にしてるから、俺が疲れきっていて昼まで寝ているのがいつもの事だ。
(最近、忙しそうだったもんなあ)
 眠っている和希は普段からの童顔に拍車がかかって、なんだか可愛く見える。
 めったに見る事の出来ない恋人の寝顔を、ここぞとばかりに観察してしまう。

 思ったより長い睫。
 1本筋の通った様な鼻筋。
 薄過ぎず、厚過ぎもしない整った唇。
 そして・・・

(ほっぺ、柔らかそう)

 枕に押し付けている頬が微妙なラインを作っていて、俺の悪戯心をくすぐる。
(ちょっとくらいなら起きそうに無いよなあ)
 
 ・・・つんっ
 
「・・・んっ・・・」
 あ、やばい?
「・・・・・すー」
 
 ほっと一安心。
 やっぱり思った通り柔らかい。
 普段、和希が俺の頬を触ってくる事があっても、俺が和希の頬を触る事はあまり無かったから解らなかった。
 
 ・・・もう一度・・・ダイジョウブかな?
 
 ・・・・つんっ
 
「・・・・・・・・」
 やっぱり柔らかくて気持ちがいい。
 けど・・・
(よっぽど疲れてるんだ)
 さっきよりも少し強めに突いてしまったけど、眉間が少し寄っただけで起きる気配は一向にない。
(可愛いv)
 二度ダイジョウブなら、きっともう少し平気。
 そう考えた瞬間、急に和希が寝返りを打った。
 ・・・起きちゃった?
「・・・・・すー」
 ・・・まだ寝てるv
 そーっと和希の頬に手を伸ばして・・・・・・つんっ
「・・・・・」
 ・・・つんつんっ
「・・・・・・・」
 き・気持ちがいいv
 寝ている和希の頬を突いて、一人で悦に入ってしまう。
(・・・ちょっとキスしてみようかな)
 悪戯心は際限なく、俺の中を駆け巡る。
(一回くらいなら、起きないよな。あんなに突いても大丈夫だったんだから・・・・)
 そっと、和希の頭に被さるようにして顔を近付け・・・・
「うわああ!」
 一気に視界が反転して、被いかぶさっていた俺が、逆に覆いかぶされられていた。
「・・・寝ている所を襲うなんて・・・ずいぶん大胆になったんだな」
「えっ!いやっ、そんなつもりじゃ・・・・」
 慌てふためいている俺を、楽しそうに上から見つめる和希は、ちょっと起き抜けとは違う様な気がして・・・・
「・・・本当は起きてたんだ」
 ・・・やっぱり。
「寝たフリするなんて・・・猾いよ、和希」
「寝てると思って、俺に悪戯しようとしてたのは、どこの誰?」
 ・・・・はい。ここの俺です。
「・・・ごめん」
 素直に謝った俺に、和希はくすりと笑って口付けていた。
「おはよう、啓太」
 ちゅっ
「・・・おはよう和希」
 『おはようのキス』なんて、何度してもやっぱり恥ずかしい。
 でも、どうせ返すなら・・・・
 俺は和希の首に腕を回して、頭を引き寄せた。
 そして・・・

 ちゅっ

 さっき狙っていた頬にそっと口付ける。
「・・・なんでほっぺなの?」
 少し不満そうな和希が、さっきの延長線なのか可愛く見える。
 くすりと沸き上がる笑いを押さえられない。
「・・・さっき触ってみたら、柔らかくて気持ちが良かったから」
 きっと笑顔になってしまっている顔で、そう答える。
「そうか?俺のほっぺ、柔らかい?」
 あまり人に指摘される部分では無い所為か、いかにも『そうかな〜』といった感じで、自分の頬をさすっている。
 そんな様子がまた可愛く思えてしまう。
 きっと顔がニヤついてしまったのだろう。
 そんな俺に和希はちょっと不貞腐れた顔をして、すぐにまた悪戯っぽくニヤリと笑ってみせたりと、決して他の人の前では見せない、豊かな表情を表してくれた。
 そんな所がやっぱり可愛い。
 実際の年齢は解らないけどかなり年上な筈の和希が、俺には凄く可愛い。
 いつもいつも、和希は俺に『可愛い』って言うけど、俺から見れば和希の方がよっぽど『可愛い』。
「・・・なに考えているんだ?啓太」
 ここで素直に『和希って可愛い』等と言ったら言葉の応酬になるのは目に見えていたので、俺は一言付け加えてその旨を伝えた。
「和希って・・・和希のほっぺ、綿菓子みたいにふわふわで可愛い」
「・・・・・綿菓子・・・・みたい?」
 案の定、和希はちょっと複雑そうな顔をして思っていた様な返答は即座には無かった。
 いつも口では勝てない俺は、かなり気分がいい。
 そんな心が顔に表れてしまって、ニヤニヤ笑ってしまった。
「・・・なに笑ってるんだよ」
「べっつにー?」
 ・・・すねてるv
 やっぱり和希は可愛い・・・・・
「んっ!?」
 急に唇が塞がれた。
 ちょっと苦しいくらいのディープキス。
 舌を吸われて絡められて・・・だんだん意識がぼーっとしてくる。
 どうして急にこんな事になったのか・・・あまりの気持ちよさに考えられなくなる。
「・・・ふっ・・・・はぁ」
 唇が離れる素振りを見せた時、和希は俺の下唇をちょっと噛んで来た。
「んっ」
「啓太の唇の方が、フワフワしてる。その上甘し・・・可愛い」
 ・・・結局言われてしまった。やっぱり和希に口で勝つ事は無理っぽい。
 その上、さっきのキスでちょっと体が熱い。
「・・・なあ啓太、ブランチにしようか」
「・・・そうだね」
 ちょっと残念だけど、貴重な休日をこのままベットで過ごすよりは、今から遅めの食事をして二人で有意義な時間を楽しみたい。
 今はまだ午前中。
 動くにまだ間に合う。
 そうと決まればと、思いきりよくベットから体を起こそうとした。
 ・・・あれ?
「・・・ごはん、食べるんじゃないの?」
 ナチュラルに被さって来た和希の胸に、俺の行動は遮られた。
「ごはん食べるなんて誰が言った?」
「だって、ブランチしようって・・・・あ」

 それってもしかして・・・・

 何となく意図を察した俺の顔を、和希は嬉しそうに上から覗き込んでいる。
「わかってくれて嬉しいよv」
 語尾にハートマークを付けて喜んでキスしてくる。
 あーあ、今週もやっぱりベットの上か。
 ま、いいけどね。
 喜んでいる和希はやっぱり可愛いし。
 
 
 
 
 最近の休日は、綿菓子のように甘い二人の時間。

 

 

 

END




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