2003年七夕

空の涙

2003.7.7UP



「やっぱり明日、雨だって」
 テレビから流れてくる天気予報を和希の部屋で参考書を眺めながら耳にしていた啓太は、背後でノート型パソコンに打ち込みを続けている和希に向かって言った。
「毎年毎年、必ずって言っていい程だからな。ま・あんまり期待はしてなかったけどね」
 キーボードを打つ手を止めずに答える。
「だいたいさあ、こんな梅雨時に天の川なんて見えるわけ無いんだよなぁ」
 啓太は少し、期待をしていたのだろうか。諦めの言葉の中に見え隠れする期待が、和希の視線をパソコンの画面から啓太へと移させた。
「何だ啓太、見たかったのか?」
 和希の言葉は啓太の興味の対象を探る極単純なものだったのだが、啓太にはコンプレックスを刺激するものとして聞こえた。
「・・・別にそう言うわけじゃないけどさ」  少し頬を膨らませながらその会話を打ち切ろうと、啓太は参考書にシャーペンを走らせるそぶりを見せる。
「なんだ、違うのか。俺は啓太と天の川見てみたいって思ったのに」 「・・・子供じゃあるまいし・・・今更どうでもいいよ。俺は」
 『今更どうでもいい』人物が当日の天気を気にするはずも無い事を啓太は気が付かずに告げる。
 和希は啓太が頬を膨らませている理由に目を細めた。
(か・・・・可愛い!)
じっと見入ってしまった和希の視線は、啓太の機嫌を更に低下させる。
「・・・なに見てるんだよ」
「いや、啓太が可愛いなーって思って」
「可愛いってなにがだよ」
 不貞腐れ声の啓太に、和希は座っていた部屋に付いている学習机の椅子から啓太の座っているサイドテーブル脇に移動して、視線の高さをそろえる。
「啓太の声、目、頬、口調、肩、背中、耳、輪郭、髪の毛、それから・・・」
「わかった!解ったからもう・・・」
 和希の恥ずかしい言葉の数々を止めようとした啓太の言葉は、和希の唇に寄って逆に遮られてしまった。
 触れあった唇がちゅっと音をたてる。
「啓太の唇・・・」
 至近距離で囁かれ、啓太の頬がほのかに染まる。
「一年に一度しか会えなくて、更に今年はお預けな織り姫とひこ星の代わりに・・・俺たちが愛し合おうか」
 啓太を伺う様な言葉とは裏腹に、和希の手は啓太のシャツをズボンから引き出していた。
「かっ・・・代わりって・・・ん・・・」
 再度重ねられた唇は啓太の言葉を奪うだけではなく、熱いうねりの中に体ごと引き込んだ。

 
 
 
 
 
 
 
  「んっ・・・・はあ」
 快楽の波の中、啓太の瞳は涙に濡れていた。
 その涙はまるで空を漂う織り姫の涙のようだとは、啓太を蹂躙している和希の心の中で囁かれた言葉だった。

 

 

 

END


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