2003七条臣お誕生日

いつか見た光景

2003.9.13UP



「伊藤君はリーインカネーションって信じますか?」
「は?・・・生まれ変わり・・・ですか?」
「はい」
  突然始まった荒唐無稽の内容な話に、啓太は素っ頓狂な返事をした。
 そんな恋人の様子にも動じず、七条は話を続ける。
「今日、こうして僕の誕生日を祝ってくれる伊藤君を見るのは初めてのはずなのに・・・いつか見ていた様な気がするんですよ」
 いつもの笑顔をその端正な造作の顔に乗せて、七条は語る。
「・・・デジャヴって奴ですね」
「そうですね・・・でもそれだけじゃ無い気がするんですよ。何故か」
 恋人の誕生日の為に、特別に用意したいつもの空間に不思議な雰囲気が漂う。
「しかも何故か僕が女性の様な気がするんです」
「七条さんが・・・女の人!?」
「ええ」
 微笑みを浮かべて非現実的な事を語り続ける恋人が、啓太には面白かった。
 いつもは最先端の技術と対面し、大人すらその足下に跪かせている七条が、今時小学生でもしない様な内容の話を楽しそうにしている。そのアンバランスさが自分を惹き付けて止まない彼の魅力であると理解をしていても、何度見ても楽しい物だった。
「・・・じゃあ七条さんは俺の事抱いてますけど・・・本当は抱かれる方がしっくり来るんですか?」
 ちょっと頬を染めながら素朴な疑問を投げかける。
「いえ、そういう事ではないんです。やっぱり伊藤君の事は抱かれるより抱きたいと思いますし、それについて違和感を覚えた事は無いんです。でも・・・精神的な主導権はいつも伊藤君が握ってますし・・・そういう所で頼るのが当たり前の様な感じがするんですよ」
「・・・それと性別の違和感がどう繋がるのか・・・ちょっと俺には判りません」
 ───ゴメンナサイ───と小さく誤って、啓太は七条の次の言葉を待つ。
「そうですね・・・つまりは『男性』を愛している今の僕の状態が、とても自然に思えるという事です。こうして誕生日を伊藤君に祝ってもらってますが、心から嬉しく思ってます」
 ふんふんと、七条の言葉の一つ一つに頷きながら、啓太は思考を巡らす。
「ところが男として当たり前の事ですが・・・伊藤君が女性だった場合に同じ事をしてもらったと仮定すると・・・途端に違和感を覚えるんです」
「 ? そうなんですか?」
「ええ・・・ってことはですよ?今まで同性に特別な感情を抱いた事の無い僕が、同性の伊藤君との違和感を抱かないという事になれば、やっぱり僕が女性の様な気がするじゃないですか・・・で、話が伊藤君のいう所の『デジャヴ』と繋がる訳です」
 手もとに用意されていた紅茶を口元に運び、口の中を少し湿らす。
 そんな七条の動作を見つめながら、啓太は七条の言葉を頭の中でさらに巡らせる。
「・・・七条さんが感じた『デジャヴ』では、俺達、異性だったんですね」
「そうなんです。でも現実には僕達は同性で、これが初めての伊藤君が祝ってくれる僕の誕生日じゃないですか・・・つまりは現実的な事だけでは説明がつかなくなって来てしまって・・・」
「で・『輪廻』ですか?」
「ええ」
 『うーん』とうなり声を上げながら、眉間にしわを寄せて考え込む啓太を、七条はゆったりと眺め楽しむ。
「追加で言わせてもらいますと、今日、誕生日プレゼントとして伊藤君がくれたステディリングも、心躍ると言うよりは『やっと帰って来た』と感じたと言った方が正確な自分の気持ちに思えているんです。・・・ちょっとおかしいですね」
 七条が一つ言葉を伝える度に、啓太の眉間のしわはドンドン濃くなって行く。
 そして
 
 
 
 ・・・バタっ・・・・
 
 
 
「いっ伊藤君!?」
 啓太はいきなり座っていたベットに突っ伏した。
「・・・普段なれ親しんでない事を考えてたら・・・目が回ってきました」
 いきなりの啓太の行動に、珍しく素直に驚いた表情を見せていた七条は、何時しかクックと体を振るわせ始めた。
「・・・おかしいですね・・・やっぱり」
「い・・・いえっ・・・済みませんっ」
 笑いの止まらない七条に啓太は少しむくれた顔をした。
「輪廻がどうとかは想像つきませんでしたけど・・・一つ判った事があるんですよ」
「・・・なんですか?」
 目尻に涙をためながら、七条は啓太の言葉に耳を傾ける。
「今日の事、七条さんが俺の想像以上に喜んでくれてたって事」
 啓太のその一言は、七条のこ難しい言葉などよりも的確な表現で。
「・・・伊藤君はやっぱり頭が良いんですね」
「・・・嫌みですか?」
「いえ。素直な感想です」
 倒れたままの啓太に被い被さり、ありったけの思いを込めて唇を合わせた。
「んっ・・・・・」
 深く舌を絡めては吸い上げ、永遠に続くかとも思う口付けは、銀の糸を引いて終わりを告げる。
「先程の話ですけど・・・実際に前世で番だったかどうかは判りませんけど、そうであった事を望んでいますよ、僕は。そしてこれからも番である様に願って止みません」
 相変わらずの七条の言葉に、啓太はくすりと笑って返した。
「それって簡単に言うと、俺と離れたく無いってことですよね?」
「まあ、そういうことです」
 啓太の笑顔につられて七条も表情を崩す。
 そんな七条の首に自らの腕を回して引き寄せる様に力を込め、組み敷かれている様な体勢を勢い良く引っくり返した。
「俺も七条さんとはずっと離れたくありません。来年も、さ来年も、これから先ずっとこんな風にお祝いさせて下さいね」
 自分よりも二まわりは大きい七条のその体を組み敷きながら、啓太は自分の素直な想いを告げる。
「好きですよ・・・七条さんの事」
 ゆっくりと顔を近付けて、再び唇を合わせる。
 リードしたつもりの口付けは、何時の間にかされる側に回ってしまっていたけれど、そんな事は二人にはどうでも良い事だった。
 息苦しさに唇を離し、上から七条の顔を眺める。
「・・・あっ」
 啓太の驚いた様な声と表情に、七条は訝しげにその瞳を見上げる。
「どうしました?」
「・・・俺も今、いつか見た様な気がしました」

 それは、いつか見た様な幸せな光景。
 でもきっと、この先の幸せな予感。

 特別な日の特別な思いは、二人に不思議な感銘を与えたらしい。
 この日に啓太が七条に送った左手の薬指に光っている銀の指輪だけが、真実を知っているのかもしれない・・・・。

 

 

 

END


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