2004丹羽誕生日SS

18歳の密かな欲望

2004.8.15UP



 BL学園生徒会会長丹羽哲也と、その副会長、中嶋英明は恋人同士である。
 その事実を知るものはまだ少ない上に、二人の間に流れるものは、何かこう、甘い恋人同士という雰囲気ではないが、肉体関係込みの、正真正銘の恋人同士なのである。
 そんな二人なものだから、恋人同士のイベントとも疎遠に見えがちであるのだが、これはこれでしっかり考えていたりもする。
 ・・・片方だけが。
 この『片方だけ』ということは、そのことを気に止めている『片方』にとっては、かなりの割合で気苦労につながることが多い。そして例に違わず、このカップルの『片方』も、その気苦労から抜け出られることはなかった。
「おいテツ。今年はどうするんだ?」
 夏休みも半ばを迎えた8月の中旬。お互い実家に帰省をしている為、滅多にしない電話を、中嶋は丹羽にかけていた。
「今年・・・ああ、そっか。もうすぐ俺の誕生日か」
「なんだ、お前忘れてたのか」
「んなの、一々覚えてらんねえよ」
 どんちゃん騒ぎの切っ掛けには繊細に反応する丹羽だが、騒ぐ切っ掛けでなければ自分の誕生日すらどうでもいいことになるらしい。
「どうするんだってお前、今年はお互い実家だし、学期が始まって気が向いたらでいいぞ?」
 そういわれて「はい、そうします」と言えるのは、それこそそう言ったイベントに無関心な方だけな訳で。関心のある中嶋は、少々額に青筋を立てながらも、努めて冷静に自分が準備したプランを電話越しに伝えた。
「いや・・・お前ならそう言うとは思ったが、実はもう予約してあるんだ」
「なんだよ。なら最初からそう言いやがれ」
「・・・悪かったな。で、15日だが、2時に石川町で大丈夫か?」
 これ以上の是も非も聞かず、要点のみの当日の予定を伝える。これではハッキリ言って、ただ単に友達同士で出かける予定を立てているのとなんら変わりは無いのだが、そんな細かい所までは、さすがの中嶋も気が付かない。だが、ここでいきなりあま〜いムード満点な電話にチャレンジした所で「何か悪いもんでも食ったか?」と、更なる痛い突っ込みを受けることは間違いようの無い事なので、この二人はきっとこれでいいのであろう。
 何はともあれ、中嶋の問いに、丹羽は二つ返事でOKした。
「おう。で、今年は何の店だ?」
「この間お前が中華が食いたいと言っていたから中華にした」
「おお!流石は俺の相棒!よくおぼえてんな〜」
 丹羽の感心は、多分丹羽でなくともする。
 何故なら。
 この「中華食いテエ」の丹羽の台詞は、2か月前に発せられた台詞だからである。見かけによらず、中嶋もかなりの乙女思考だ。
「はぐれたり遅れたりしちまった場合の事を考えて、店の名前を聞いておいてもいいか?」
 丹羽のうきうきとした声色に、中嶋の機嫌も浮上を見せる。
「ああ。中華街にある○○楼だ。連絡先も一応言っておくか?」
「ああ、それは後でメールしてくれ」
 略用件のみのいつものパターンの電話は、ものの10分で終わりを告げた。
 電話を置いた後の二人の行動も、いつものパターンになるとも知らずに・・・・





「あ、中嶋さん来た〜!」
 これが誕生日当日、待ち合わせ場所に響いた第一声だった。
 当然、丹羽が中嶋に対して『さん』付けなどするわけも無い。
「・・・なんでお前達がここにいるんだ」
 この言葉を吐いた時点での中嶋の額には、青筋が2本走り、眉間には縦皺がこちらもまた2本・・・。まあ、当然と言えば当然の反応である。
 で、気になる中嶋の言葉の『お前達』とは当然・・・
「王様に誘ってもらったんですよ。中嶋さんが主催して誕生日会するからってね。で、今日偶然俺も啓太も横浜でデートしようって話だったんで、合流させてもらったって訳です」
「やだなぁ和希ったらv『デート』だなんて、俺恥ずかしいよv」
「なんだよ、啓太にとっては『デート』じゃなかったのか?俺は楽しみにしてたのに」
「和希・・・俺も楽しみにしてたv」
 長々と続くバカップル二人の会話に、中嶋の意気込みは音を立てて崩れていき、変わりに言い様の無い感情がその場を占める。
「・・・テツ」
「なんだ?」
 横でげらげらと、心底楽しそうに笑っている恋人に、中嶋はため息とともに問いかける。
「いつも誰も誘わないのに、なんで今回に限って、(よりによって)この二人に声をかけたんだ?」
「いや、あの後たまたま啓太と電話してよ。今日の話が啓太から出たもんだから、じゃあ一緒に遊ぶかって話に流れたんだ。人数も多い方が楽しいだろうしってな」
 人数が多くて楽しいイベントデートと言うものは、どんなものだ!と、中嶋は心の中で叫んでいたが、当然、丹羽にその心は届く筈もない。
 大男2人を先導するように、啓太はひょこひょこと人込みをかき分けて歩いて行く。それに追従するかのように、和希もまた中嶋と丹羽の前を歩く。その二人の背中を忌々しげに見つめながら、中嶋は毒づいた。
「・・・お前、俺と二人じゃつまらないか?」
「あ?そんなこたねえよ」
「じゃあ、何故わざわざ二人を呼ぶ必要があった」
「同じ日に同じ場所で遊んでんなら、一緒の方が楽しいだろうと思っただけた。・・・んだよ。何か問題でもあるのか?」
 お互いの関係を何も頓着しない丹羽の発言に、中嶋の機嫌はいつもの如く下降して行く。
「問題ないと思うお前の方がおかしいだろ」
「ああ?なんでだよ」
 二人の押問答を横目でちらりと垣間見た和希は、くすりと意味深な笑みを浮かべて中嶋に話しかけた。
「まあまあ、王様が二人より大勢がいいと言ってるんですから。今日は王様の言う通りにした方が、プレゼントになるんじゃないんですか?」
「・・・お前、なにげに楽しそうだな」
 中嶋の返答に和希は大仰しくため息をつきながら答えるが、口元は緩んだままだ。
「そんな事無いですよ。こっちだって折角の啓太との時間を割いているんですからね」
「割いてくれなくても結構だ」
「俺は誰かさんと違って恋人には優しいんですよ。啓太の過したいようにしてあげるのが一番だと思ってるんですよ」
 笑顔でやり取りを続けてはいるが、なにげにうさんくささが拭えない
「和希が他にもいいスポット知ってるって言ってて、みんなを連れていってくれるらしいですよ〜v」
 そしてとどめの様な無邪気ボイスに、中嶋の不機嫌度合いは最高潮に達した。
 表情を崩すとこなく、中嶋は胸元のポケットから携帯電話を取り出し、手短に一本の連絡をどこかへと入れると、おもむろに前方へと視線を移動させた。
「啓太、ちょっとこい」
 不機嫌さをいつものシニカルな笑みに隠して、中嶋は啓太を呼び寄せる。
「なんですか?」
 この場合、中嶋はいつものように色々なパターンを頭の中にシュミレーとしつつ、いかに邪魔者を排除するかを画策しているのだが、 もちろんそれに啓太が気が付くことはない。そして当然のそれを計算に含みつつ、中嶋は啓太の耳元に囁いた。
「これから二人で抜け出さないか?」
「はい?」
 さすがのおとぼけを誇る啓太も、中嶋と丹羽の関係には薄々気が付いていたので、中嶋の申し出は、啓太にとっては当然天変地異のそれにも等しい驚きだった。
「いやでも、今日は中嶋さんと王様、誕生日デートなんでしょ?なんで俺と抜け駆けなんですか?」
 中嶋のシュミレート通りの素直な質問に、勝利の笑みを押し殺して悲しそうに視線をそらせて中嶋は返答する。
「ほかの奴は気が付いていないみたいだが・・・実は丹羽は遠藤が好きなんだ」
「え・・・!」
 そんなこたある分けないだろ!との突っ込みは、当然啓太には入れられるわけもない。
 丹羽の一番近くにいる中嶋の言葉に、啓太は目を見開いて驚きを表す。
「いつも『殴らせろ』と言いつつ、何もせずに傍にいるから不思議に思ってこの間問いただしたんだ。そうしたら俺には打ち明けてくれた・・・と言うわけだ」
「でも・・・中嶋さんは王様の事好きなんですよね?」
「まあな・・・でもな」
 真剣な中嶋の声色に、啓太の表情はどんどん曇っていく。
「さっき遠藤に言われたんだ。『好きな奴の過したいようにしてあげるのが一番だ』とな。今日の事は、多分遠藤に会いたくてこんな形を取ったんだろう。それを考えると、お前には悪いが今日一日、遠藤を丹羽に貸してやってくれないか?俺は奴に思い出をプレゼントしてやりたいんだ」
 普段なら絶対にあり得ない中嶋の憂いを帯びた視線に、啓太は涙を溜めて中嶋を見つめ続ける。
「でも・・・和希は・・・」
「分かっている。遠藤はお前以外には目もくれない。だから丹羽も一緒にいる事以上は求めないだろう。ああ見えて丹羽は臆病だからな。離れるくらいなら今の関係のままを望んでいるんだ。だから今日、二人っきりにしたところでお前たちの関係にヒビが入る事はないと断言できる」
「・・・王様が・・・」
 すっかり中嶋の術中に嵌った啓太は、中嶋の言っている事を微塵も疑う事をせず、静かに中嶋の傍を離れて丹羽に歩み寄った。
「王様・・・」
 啓太の呼びかけに、丹羽は視線を啓太との身長差分、下方に移した。
「お?なんだ?」
 それまでの明るさは消え、俯いて口ごもっている啓太に丹羽は不審を感じる。
「どうした?何かあったか?」
「俺・・・今まで気が付かなくてごめんなさい」
「あ?何をだ?」
 まったく要領を得ない啓太の言葉に、丹羽の回りに大量のクエスチョンマークが浮かぶ。
「俺・・・ちょっと用事を思い出したんで、今日は失礼します」
 用件を伝えるために丹羽と視線を合わせた啓太の瞳は、涙が浮かんでいたりする。それに驚いたのは当然丹羽で。
「おいっ!何があったんだ?遠藤呼ぶか?」
 丹羽の自分を気づかう言葉すら、今の啓太には『強がっている丹羽』としか受け取れない。そしてその言葉を振り切るように、無理に作っているとありありと分かる笑顔を丹羽に向けて、そっと耳打ちした。
「今日は・・・和希と楽しんで下さいね。でも、中嶋さんの気持ちも分かってあげて下さい・・・」
「ああ?」
 訳の分からない謎の言葉と共に、啓太はあっという間に人込みにかき消えた。
「啓太!?」
 それに慌てたのは和希である。当然和希の頭の中でも、中嶋に負けず劣らず二人きりになるための作戦は練られていた。だが多少中嶋よりも気が長かったのが敗因と言えるであろう。
「中嶋さん!さっき何を啓太に耳打ちしてたんですか!」
「そんな言及よりも、追いかけなくていいのか?」
 中嶋は勝利の笑みを浮かべて、和希に退場を促す。促された和希は舌打ちと共に、啓太を追って人込みに消えていった。
「・・・なんだったんだ、今のは・・・」
 笑顔の中嶋と共に取り残された丹羽は、一人状況に付いていく事が出来ずに呆然と立ち尽くしていた。
「・・・さて」
 ここまでの作戦を成功させた中嶋は、次の段階に移るべく、改めて丹羽に向き合う。
「哲也。どうやらお前は俺との関係をしっかりと把握出来ていないようだな」
「あ?なんだ?俺らの関係だ?把握ってどう言う事だ?」
 これまでのものの10分の展開は、丹羽の想像の超えたものであり、自分にかけられる言葉の数々は、既に宇宙語に等しいくらい、丹羽には理解不能なものである。そしてこの矢継ぎ早の中嶋に対する質問は、丹羽の動揺を如実に物語っている。
「お前の単純な頭でも理解できるように、今日はこれからじっくりと時間をかけて説明してやる」
「説明してやるって・・・飯食いに行くんじゃなかったのか?」
 言葉と共に丹羽の腕を強引に引っ張りながら、中嶋の向かった先は・・・
「んでホテルなんかに付かなきゃならねえんだよ!」
 電話では「中華を食べにいく」としか伝えられてはいない。だが中嶋は「ほかにどこにも寄らない」とは言ってはいなかった。
「何を言っている。イベントデートする間柄のカップルが行き着く先と言えば、ここしかないだろう」
 自分の行動をさも正当だと言うように、中嶋は丹羽の腕をつかんだままずんずんと歩を進める。
「今さらそんなお約束なんてやるか!?」
 必死の訴えは更に中嶋の術中に落ちる行為に他ならない事を、丹羽は何回繰り返しても学習する事はない。
「今までその『お約束』をしてやらなかったから、お前の自覚が薄いんだろう?この機会にしっかり自覚させてやろうと言うんだ」
「自覚ってなんだよ!俺はちゃんとお前と付合ってるって思ってるぞ!?」
 自信を持って宣言した丹羽に中嶋は歩みを止め、顳かみを引きつらせながら振り向いた。
「哲也・・・」
「なんだ!」
「・・・自覚のある人間は、イベント当日に他人は呼ばないって知ってたか?」
「・・・あ?」
 ここまできて、丹羽は漸く中嶋状態に気が付く。
「・・・ヒデ、お前・・・怒ってるのか?」
 なんとも単純。なんともストレートなその丹羽の発言に、中嶋は口元を緩めた。
「俺が怒ってるだと?そんなことはない。だが、お前が今日呼んだどちらに気があるのかは気になる所だな」
「・・・気がある?」
 中嶋の語尾の聞き捨てならない部分を、丹羽は繰り返す。だが、ちょっと強気に出ようと繰り返した中嶋の言葉は、丹羽の思いもよらない方向へと話を進める。
「そうだろう。誕生日に一緒に過ごしたいともなれば、気があるとしか思えないだろう?それでなければ、俺のお前への愛が伝わらずに、お前に俺との二人の時間を不満に思わせていたかどちらかだな」
「んなこたねえよっ。お前の気持ちは十分伝わってるし、あいつらは友達以外のなにものでもねえっ!」
「じゃああれか。18歳の記念に4Pでもしたかったのか。それは気が付かなくて悪かったな」
「よっ4!?」
「お前にそんな素晴らしい趣味があったとは知らなかった。流石は俺の相棒だ」
 そんなことで褒められても、誰も嬉しくはない。だが、褒められた当の丹羽は、中嶋から出た言葉の強烈さに自らの言葉を失ってしまい、反論する事が出来なかった。
「お詫びといっては何だが、今日は俺一人で3人分楽しませてやるから、それで我慢してくれ」
 にやりと不適な笑みを浮かべた中嶋の表情に、丹羽の背中に戦慄が走る。
「いや!今まで通りで十分だから!!」
 焦った丹羽は、既に自分が何を口走っているか理解する事も出来ずに、いつもの様に深みにはまっていき・・・
「遠慮するな。二人でもしっかりお前の記念になるような夜にしてやる」
「いや・・・そ・・・・・」




 チェック・インv(ありとあらゆる意味で)




 ホテルの窓から横浜の夜景を楽しめたのは、当然中嶋一人だった。
 主役の丹羽はと言うと、海に行き交う船の明かりにほんのりと照らされながら、中嶋のありとあらゆる欲望を一身に受けてしまい、疲れ果て、夜景どころか折角のJr.スイートの雰囲気すら楽しむ事なく、魚河岸のマグロのように寝続けていた。そして、その枕元にはお約束のように中嶋の気持ちが置かれている。
 そんな雰囲気満点(?)の室内で中嶋は、昼間の騒動でお邪魔虫二人がどうなったのかを想像しつつ、一人ほくそ笑んでいた。


 人の不幸は蜜の味。


 丹羽の誕生日だと言うのに、一人、目一杯楽しみ尽くした中嶋であった。
 そして主役の筈の丹羽が楽しんだかは、神のみぞ知るーーーーー

 

 

 

END


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