2007啓太バースディ記念

未来だけが知っている

2007.5.5UP



「啓太の好きな様に過そうよ」
 俺の誕生日に和希はそう言った。




 1ヶ月前からスケジュールを調整してくれて、世間の大型連休を丸まる俺との時間に充ててくれた和希は、連休の初日からずっと傍にいてくれた。
 俺的にはそれだけで十分な誕生日プレゼントだったからそれ以上の事なんて思いつかなかったんだけど、和希は色々準備してくれていて、「あんなに急がしそうだったのにいつの間に?」と俺は驚かされるばかりだった。
 連休初日は二人で映画に行った。帰りにちょっとゲーセンに寄って、二人で格闘ゲームの対戦をした。
 二日目はドライブに連れて行ってくれた。連休中だから何処も混んでるだろうって俺は思っていたんだけど、「穴場があるんだ」と悪戯っぽく笑って車を走らせた先には、鈴菱グループの保養所があった。まあ和希だって一応『社員』だからそこを利用するのはいいと思うんだけど、他の利用者がいなかったのは和希が何かしたんだって思うんだよね。それでも二人でそこで3日間楽しく過した。保養所の近くにある遊歩道を散歩したり、観光地にありがちな綺麗な建物の美術館に行ってみたりした。飾ってあるものの価値は全然わからなかったけど、凄く綺麗で楽しかった。そこから帰ってきたと思ったら、今度は俺の実家に連れて行ってくれた。「今回の連休は帰らない」って言った俺が急に顔を出したから、家族は驚いたけどとても喜んでくれた。和希曰く「ちゃんと親にも顔を見せないと心配するだろ?」との事。和希と付き合って親に悪評が立ったらマズいとは思ってたけど、どうしても俺には和希との時間の方が優先だったからそうしただけなんだけど、やっぱりこの辺は和希は大人だなって思った。立ち回りが巧いっていうか…な。
 そうやって昼も夜も二人で楽しんだ連休も終わりに近付くと、俺の誕生日がやってきた。
 恋人と迎える初めての自分の誕生日。
 去年までは家族のお祝いが基本だったけど、もう今年からはそうじゃない。和希との時間が持てるか持てないかで、誕生日が幸せな日になるかどうか決まる。
 そして17歳になった今日。和希は朝から何も計画を立ててなかった。
 前日まで色々と計画してくれていただけに、俺はかなり度肝を抜かされた。
 だって普通、当日の方が予定とか色々考えるだろ?
 何を食べに行くかとか、何処に行くかとか。
 何が一番喜ぶか考えて、計画を立てると思うんだよね。俺だって来月の和希の誕生日に、もう今からどうやってお祝いしようかって考えてるくらいだもん。和希が考えない筈ないと思ってたのに。
 和希は黙った俺の言わんとしている事を悟って、笑いながら補足してくれた。
「だって、俺がどんなに考えたって啓太が喜ばなきゃ意味が無いよ。だから今日は啓太が喜ぶ様に過したいんだ」
 俺の好きに、か。
 だったら。
「じゃあ、今日は一日和希と二人っきりで部屋に籠っていたい」
 これだって、滅多に出来る事じゃない。
 いつも部屋で二人でいたって、和希は仕事してるとか、俺が勉強してるとか、何かしら別の事をしているんだ。だから今日くらいは二人で部屋の中で暇を楽しむのもいいと思うんだよね。
 俺の意見に和希はちょっと驚いた顔をした。
「部屋…でいいのか?」
「うん」
「行きたい所とかないの?」
「うん」
「食べに行きたい所とかも?」
「うん。部屋で和希の事独占してたい」
 携帯の電源も切ってね?とお願いしたら、和希は「いいよ」と頷いて電源を落としてくれた。
「でも、食事どうする?」
 なんだかんだ言って色々考えてくれていたみたいな和希は、「あそこが美味しい」とか「ココのケーキは評判がいい」とか色々言ってくれたけど、食事なら寮の食堂で食べれるし、ケーキは明日だって食べられる。今日という日に和希を独占するのが俺のしたい事なんだ。
 でも、あんまりにも強硬にそれを言うのも憚られて、一つだけ和希にお願いをした。
「なら、イチゴワンケース食べたい」
「……ケースぅ?」
 俺、一度やってみたかったんだよね。パックなんてすぐに無くなっちゃうから、ケースで食べてみたいなって。好物を死ぬ程食べられる機会なんて滅多に無いから、そうお願いしてみた。
「腹壊すぞ?」
「壊さないよ。それにもし壊しても、好物食べ過ぎの結果なら俺は甘んじてその苦しみを受ける」
 ウキウキしながら言うと、和希は笑って手配してくれた。




 イチゴが届くまで、二人で思いっきり部屋の中でゴロゴロしたり、たまにキスしたりして楽しく暇を持て余した。ゲームなんかしてたら和希の顔が見れないし、本を読んでも同じ事。飽きるくらい好きな人の顔を見て、夕方寮に届いたイチゴを、これまた飽きる程食べた。

 なんて贅沢。
 誕生日だからこそ許されるよね。

 寝る前に、和希はいつから用意していたのか、ちょっと大きめの箱を渡してくれた。当然それは誕生日プレゼント。
「大人の一歩手前の啓太に」
 そういって渡してくれた箱の中身は、着心地の良さそうなカジュアルのスーツだった。
 和希が着ているものよりデザインも若くて、これなら気負わずに着れると嬉しくなった。
「それと、もう一つ」
 和希が差し出したのは、CDケース。しかも、どうやらそれは音楽とかのCDじゃなくて、データー保存のCD-Rみたいだ。
 誕生日になんでそんなモノ?
「これにはね。未来の誕生日まで一遍に祝ったメッセージを書き込んでみました」
「一遍にって…」
 いつもはマメな和希の言葉とも思えなくて、思わず笑ってしまった。
「それで、このメッセージの返事を是非聞きたい」
「…すぐ?」
 俺はCDを持ってパソコンの前に移動しようとしたけど、和希の言葉に遮られた。
「すぐに欲しいとは思ってるけど、焦らないよ。それに、啓太にはすぐには読めないだろうし」
 悪戯っぽく笑う和希とCDを、思わず代わる代わる眺めてしまう。
「ヒントはそれは画像になってます。でも特殊な方法で圧縮してあるので、簡単には見れません」
「なにそれ!解凍ソフトとか使えないのか!?」
「使えません。一般的な圧縮じゃないからです」
 それじゃ、俺は見れないって事じゃないか。
 でもなんだか聞いた事のあるパターンだ。
「なので、それを解凍してメッセージを読んで、それから俺に返事を下さい。期限は決めないのでよろしく」
「そんなの、期限切られなくたって無理だよ。俺にそんな事出来る訳ないじゃないか」
「七条さんはそうやってパソコン覚えたらしいよ?」
「あんな天才と一緒にするな!俺は凡人だ!」
「人それぞれ、やり方があります。何も七条さんと同じ方法で見ろなんて言ってない。啓太には他にも勉強する場所があるからね」
 和希が何を言いたいのか、俺には全然わからなかった。
 黙って頬を膨らませていたら、膨らんだ頬に小さくキスされた。
「俺が言いたいのは『モノは考え様』って事。啓太の得意な方法でやってみせて」
「…データーを俺の得意な方法で何とか出来る訳ないじゃないか」
「だから、『モノは考え様』って言ってるんだよ」
 それっきり、和希は笑って何を言っても流してしまった。
 それでもこれだけは解る。
 きっとこの中には、俺が喜ぶ様なメッセージが入ってるんだって事。
 だって、和希は笑っているから。
「来年には返事貰えるといいなー」
「だからー…」


 きっと一生忘れられない、人生最大の贅沢な17歳の誕生日。
 一番大切な人と一緒に笑いながら、一つ大人に近付いた。
 メッセージの返事は未来だけが知っている…。

 

 

 

END


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