100000HITお礼──3年目シリーズ──

相変わらずな日々

卒業して3年目<中丹羽>

2007.3.24UP



「今度の週末、お前もBL学園にいかねぇか?」
「…なんでそんな所に行くんだ」
 丹羽と中嶋の二人がBL学園を卒業して3年。
 もう、その頃の後輩は誰も残っていない。
 一番下だった啓太も去年、卒業した。
「なんか、啓太が呼ばれてんだと。そんで良かったら俺も一緒に行かないかって」
 丹羽の後、西園寺が学生会長になり、その後を引き継いだのが啓太だった。そして更に、今はその後輩が会長をしている。
「だから、何でお前まで呼ばれるんだ」
「黄金の5期だって言われてんだと。その話を今の会長が聞きたがってるって言ってた」
 丹羽の頃の自由な雰囲気、西園寺の時の厳密なサポート体勢、そして啓太の時の優しい雰囲気は、他の誰にも作り出す事が出来ないらしい。
 3人それぞれ、方向性は違えど、日本屈指の才能の持ち主である事には変わりは無く、その後釜が苦労をしているのは丹羽にも理解出来た。
「郁ちゃんも来るって言ってるらしい」
「ほぉ。西園寺が動くなんて珍しいな。よっぽど酷いのか?」
「いや、啓太に頼まれたからだってよ」
 目に見えた才能のない後輩は、効果的に人の心を動かす術を持っている。丹羽も中嶋も、その術に逆らう事は出来ないのだ。
「だが、今度の週末は…」
「お前との約束が先だったんだけどよ。なんか、放っとけねぇじゃねぇか」
 言葉とは裏腹に、丹羽は楽しそうに言う。
 そんな丹羽に水を差すような事を、中嶋もする訳がない。


 卒業して尚、二人の関係は変わらない。
 恋人のような、親友のような。
 そんな、曖昧な関係。
 初めの頃こそ努力していた中嶋も、今ではこれでお互いの関係は良いのだと思っていた。
 理由は、丹羽が楽しそうだから。
 どこまでいっても、やはり惚れた弱みなのだろう。
「あーあ、また男の園か。可愛い女でもいれば、もっと行く気になるんだけどよぉ」
「なら、行かなければいいだろ?」
「行かなかったら啓太が泣きそうじゃねえか」
「泣かしとけばいいだろう」
「あいつが泣くと、あいつの背後霊が恐い」
 丹羽の言う啓太の背後霊とは、BL学園理事長にして、啓太の一番の信奉者。あるいは恋人とも言う和希で。
 和希は丹羽の父とも旧知の間柄で、いまだに丹羽に対して影響力を持っている。
「啓太は、日本最強の男かもしれないな」
「そうだなぁ。なんつってもこの俺様を動かすんだからなぁ」
 丹羽の俺様発言も、いい加減聞き慣れるというものだ。
「…惚れるなよ?」
「誰が惚れるんだよっ!啓太に惚れるくらいなら、お前に惚れた方がマシだ!」
「マシとはなんだ、マシとは。大体、いい加減お前も俺に惚れろ」
「ある意味惚れてるけどな。でも今以上は無理なんじゃね?」
「何故だ?」
 春の色が濃くなって来た夜風に吹かれて、アルコールで少し上がった体温が下がる。
 たまに、思い出した様に二人で酒を酌み交わしては他愛のない話をする。
 恋人の甘い雰囲気は無く、かといって、普通の友人よりも親密な雰囲気は保持している。
 そんな二人がする恋愛とは、どういうものなのか。
「ヒデの事はよ。なんつーか、人間として惚れてるっつーかな…性別がわかんねぇ」
「…俺が女に見えるか?」
「見えるかよ、気持ちわりぃ。俺から見れば、男とか女とか意識出来ねぇんだよ」
 つまりは、セックスの対象外。
 動物的欲求を起こさせないと言っているのだ。
「寝ても吐かねぇけど、それだけだわな」
「失礼なヤツだな」
「お前に言われたかない」
 何となく粗忽な雰囲気の中、場所は変わっても相変わらず二人の間に響く声。
「あーっ!王様と中嶋さんだー!」
 待ち合わせもしていないのに、何故かよく会うこの声に、中嶋はげんなりする。
「…お前、今日の事啓太に話したのか?」
「いや?特には話してなかったと思う」
 振り向けば、会話に出て来ていた啓太の姿と、やはり背後霊の姿。
「お久しぶりでーす!いやー、こんな所で会うなんてびっくり!」
「おう、元気そうじゃねぇか」
「はい!王様も元気そうですね!で、今日はなんてここに?」
「ヒデに誘われたんだよ」
 パターン的に何処かに出かける時には、中嶋が予定を立てている。
 理由は、丹羽が予定を立てると、必要以上にアグレッシブになるからだった。
 そして、いくら今のままの関係でいいと思ってはいても、少しは色気のある所に行きたいと思うのは、やはりより惚れた方なのだ。当然今回もその口で、二人が今いるのは桜の有名な公園だったりする。
「へー。中嶋さんも例の雑誌見たんですか?」
 啓太の背後から、いつもの様に和希が顔を出して、余計な一言を言う。
 このパターンには慣れようと思っていても中々慣れない中嶋は、ピキリと青筋を立てた。
「雑誌?」
 バイク雑誌以外あまり目を通さない丹羽は、和希の言葉を素直に問い返してしまう。
「ここって、桜の穴場って紹介されてたんですよ。絶好のデートスポットらしいですよ?」
 雑誌に載ってしまえば、それは穴場ではなくなるのだが、何となくそのあおりに弱いのが人間というものだ。
「中嶋さんも結構…」
 和希の苦笑に、中嶋の青筋はもう一本増える。
「テツ、行くぞ」
 断言して振り返ると、相方はもう一方の相方と楽しく談笑中。
 更に、予想通りの言葉。
「折角だから合流しようぜ!」
 中嶋の予定では、この後久しぶりに二人っきりの夜を楽しむ筈だったのだが、そんな予定が今まで通った事は無く…。
「和希もいいー?」
 能天気な二人は、既に腕を組んで歩きはじめていた。
 顳かみを押さえながら、静かに拒否の言葉を中嶋は和希に伝える。
「お前もこの後の予定を考えてたんだろ?遠慮せずに行ってくれ」
 だが、そんな言葉は和希を楽しませる以外のものではなく。
「えー?俺は別にいいですよ?啓太が一緒がいいなら、ご一緒させてもらいますよ」
 啓太と和希は既に一緒に住んでいて、このまま今回のデートが流れたからと言って打撃を被る訳ではなかった。
 おそらく、打撃を被るのは中嶋一人。
 そんな、相変わらずのパターン。
 高校の頃から何一つ変わらない光景に、中嶋の目は眇められた。
(人は、成長しなければいけない筈だ)
 そんな心のつぶやきも、高校の頃から変わっていない事に、中嶋自身気が付かない。

 故に、3年経っても変わらずの日々なのだった。

 

 

 

END


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