「どうしてそう、いつもいつも自分勝手なんですか!」
「嫌なら別れればいいだろう」
こんな遣り取りもいつもの事。
マイペースな中嶋さんに振り回されて、俺はいつでも怒鳴ってる。
今だって、次の休みに中嶋さんが勝手に予約していた旅行について喧嘩中。
次の休みは、俺も他の友達と約束があったのに!
「せめて、予約する時にどうして言ってくれないんですか!」
先に予定を聞くのが当然だろう!
俺にだって予定はあるんだから!
「…お前が忘れてるだけだろう?」
「何をですか!?」
そう言ったっきり、中嶋さんは本に視線を落とす。
相変わらず、必要な事すら満足に言ってはくれない。
この3年で、俺が中嶋さんから「愛してる」って言葉を聞いたのが片手の指で足りてしまう位、中嶋さんは俺に何かを伝えるって事はしない。
二人で会ってる時の会話は、略俺の一方通行。
中嶋さんは相槌を打つだけ。
付き合いはじめてから全然変わらない。
会って。
食事をして。
セックスをして。
次の朝には別々の生活。
ただ、それの繰り返し。
次の予定なんて、決めた事ない。
俺の予定を聞かれた事もない。
それでも当たり前の様に、中嶋さんは俺の時間を使う。
こんな勝手な奴になんて、付き合っていられるか!
「中嶋さんは、いつも俺が怒ると『別れればいい』って言いますけど、ホントに俺が別れるって言ったらどうするんですか?」
俺の言葉に中嶋さんは、ぴくりと眉を動かして、ため息をつきながら読んでいた本を閉じた。
「別れたいのか?」
「別れたいんじゃなくて、俺がそう言ったらどうするんですかって聞いてるんです」
「…さあな」
「さあなって…」
そんな顔しながら、素っ気ない言葉をよく言えるよ。
自分の意に添わない時には、表面上は無表情を象っていても、少し視線が揺れる事がわかる様になった。
それは本当に些細な変化で、長くみているからわかった事なんだけど。
だから、別れられないと思う。
こんなに腹が立つのに、甘い言葉なんて何も言ってくれないのに、その表情で俺を縛るんだ。
まったく、仕方のない人。
「それで、旅行は行かないのか?」
俺の沈黙で、俺に別れる意志がないとわかった中嶋さんは、もういつもの表情だ。
いや、いつものよりもちょっと柔らかいかもしれない。
あーあ。またいつものパターンか。
「…二人分予約しちゃってるんでしょ?行きますよ。俺だって中嶋さんとの時間は大切だし」
「そうか」
そう言って、また中嶋さんは本を開いた。
「でも、何だって急に福島行こうなんて思ったんですか?」
特に観光名所でもない場所に、中嶋さんは行こうと言い出した。
二人の旅行はこれが初めてな訳じゃないけど、今までは一応観光名所って所に行っていた。
観光って言うよりも、リゾートって方が合ってる所だけど。
「お前が見たいって言ったんじゃないか」
「…はぁ?」
「滝桜を見てみたいと言ってただろうが。開花予想が出たから予約した」
…そんな事、俺言ったっけ?
記憶を手繰り寄せていると、大きなため息が聞こえた。
「去年の春に、お前が言ったんだ」
「去年………」
そんな昔の事を…。
照れているのか、視線を本から上げない中嶋さんが、とても可愛いと思う。
こんな事、付き合い初めの頃はわからなくて、随分と苛々したっけ。
何も甘い言葉は言ってくれないけど。
自分勝手で人の都合を勝手に決めるけど。
それでも…。
「中嶋さん」
「なんだ」
「大好き」
「知ってる」
それでもきっと、俺達はこれからもこういう関係なんだと思う。
3年経っても大好きです、中嶋さん。
END
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