『啓太へ
元気でやってますか?こっちは相変わらずです。オヤジに囲まれて息がつまりそう。
だから、次の休みには啓太の所に帰ろうと思ってます。都合はどうですか?
俺を助けると思って予定を空けてくれ!
和希
PS 俺もそっちに引っ越したい!』
「あははははっ!和希、相変わらずだなぁ」
俺がじいちゃん家に住みはじめてもう3年が過ぎた。
ばあちゃんが逝っちゃって、一人になったじいちゃんが心配でここに住むって言った俺を、和希は最初は不貞腐れてたけど送り出してくれた。そして、休みの度にこの田舎にやってくる。
「和希くん、何だって?」
「ああ、また次の休みにくるってさ。俺も仕事終わったら直帰するから、それまでじいちゃん、和希の事よろしくね?」
「わかった。相変わらず仲がいいな、お前達は」
小さい時の様子まで知ってるじいちゃんは、懐かしそうに目を細めた。
和希と最初に出会ってから、もう20年になる。
あの時とは大きく関係は変わったけど、それでもお互いが大切で、必要な存在だと言う事は変わらない。
この田舎で、和希と会った。
だからここは俺にとってとても大切な場所だし、和希と縁を付けてくれたこの家もとても大切。
ばあちゃんの葬式のとき、母さんはじいちゃんに同居を申し出たけど、じいちゃんはそれを拒否した。ばあちゃんと暮らした家を出たくないって言って。思い出の詰まったこの家で、最後を迎えたいって。
俺はその気持ちが凄くよくわかったから、なら俺がここに一緒に住むって言ったんだ。
その時のじいちゃんの嬉しそうな顔は、とてもよく覚えてる。
そんな訳で、俺と和希は遠距離恋愛中。
でも、傍にいたって会えるのは月に精々3回って所だから、あんまり今と変わらない気がする。
お互いに生活があるしな。
毎回和希の休みの度に、俺達は子供の頃に過したこの場所で会う。
懐かしさと、愛しさと、これからを思いながら。
あの時二人で遊んだ部屋は、今は俺と和希の部屋になってて、二人の荷物が入ってる。
まあ、和希の荷物なんて、予備のノートパソコンと着替え位だけど。
和希は「単身赴任みたい」って笑ってる。
笑いながら、学園にいたときよりも、東京の和希の家にいるときよりも穏やかな顔をしてる。
だからきっと、俺の選択は間違ってなかったんだ。
これからも俺は、この家で和希を待つ。
和希の安らげる時間を確保する為に。
きっとじいちゃんを送っても、俺がここを離れる事はない。
だって、ここには俺達の思い出が詰まってるから。
だから、帰っておいで。
「啓太ー!ただいまー!」
END
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