100000HITお礼──3年目シリーズ──

帰っておいで

引っ越して3年目<和啓>

2007.3.23UP




『啓太へ
 元気でやってますか?こっちは相変わらずです。オヤジに囲まれて息がつまりそう。
 だから、次の休みには啓太の所に帰ろうと思ってます。都合はどうですか?
 俺を助けると思って予定を空けてくれ!
                        和希
 PS 俺もそっちに引っ越したい!』




「あははははっ!和希、相変わらずだなぁ」
 俺がじいちゃん家に住みはじめてもう3年が過ぎた。
 ばあちゃんが逝っちゃって、一人になったじいちゃんが心配でここに住むって言った俺を、和希は最初は不貞腐れてたけど送り出してくれた。そして、休みの度にこの田舎にやってくる。
「和希くん、何だって?」
「ああ、また次の休みにくるってさ。俺も仕事終わったら直帰するから、それまでじいちゃん、和希の事よろしくね?」
「わかった。相変わらず仲がいいな、お前達は」
 小さい時の様子まで知ってるじいちゃんは、懐かしそうに目を細めた。
 和希と最初に出会ってから、もう20年になる。
 あの時とは大きく関係は変わったけど、それでもお互いが大切で、必要な存在だと言う事は変わらない。


 この田舎で、和希と会った。
 だからここは俺にとってとても大切な場所だし、和希と縁を付けてくれたこの家もとても大切。
 ばあちゃんの葬式のとき、母さんはじいちゃんに同居を申し出たけど、じいちゃんはそれを拒否した。ばあちゃんと暮らした家を出たくないって言って。思い出の詰まったこの家で、最後を迎えたいって。
 俺はその気持ちが凄くよくわかったから、なら俺がここに一緒に住むって言ったんだ。
 その時のじいちゃんの嬉しそうな顔は、とてもよく覚えてる。
 そんな訳で、俺と和希は遠距離恋愛中。
 でも、傍にいたって会えるのは月に精々3回って所だから、あんまり今と変わらない気がする。
 お互いに生活があるしな。

 毎回和希の休みの度に、俺達は子供の頃に過したこの場所で会う。
 懐かしさと、愛しさと、これからを思いながら。
 あの時二人で遊んだ部屋は、今は俺と和希の部屋になってて、二人の荷物が入ってる。
 まあ、和希の荷物なんて、予備のノートパソコンと着替え位だけど。
 和希は「単身赴任みたい」って笑ってる。
 笑いながら、学園にいたときよりも、東京の和希の家にいるときよりも穏やかな顔をしてる。
 だからきっと、俺の選択は間違ってなかったんだ。


 これからも俺は、この家で和希を待つ。
 和希の安らげる時間を確保する為に。
 きっとじいちゃんを送っても、俺がここを離れる事はない。
 だって、ここには俺達の思い出が詰まってるから。
 だから、帰っておいで。

「啓太ー!ただいまー!」

 

 

 

END


TOP NOVEL TOP